◆ 労働組合の動向
主要な労働組合である「連帯」が、最近の法律改正の結果に焦点を当てて労働組合情勢にかんする報告を発表した。
03年に新しい法律が実施され、労働組合の法的地位が大きく変った。とりわけ、労働組合の設立、幹部の保護、団体協約の規定変更にかんして、いっそう制約的な要件が増えた。今後すべての労働組合は、企業、全国いずれのレベルであれ、10人以上で構成されなければならない。組合員数が3ヵ月にわたってこれを下回ると、組合は解散させられる。また、以前は臨時労働者や退職者も組合を結成できたが、今結成できるのは正規労働者だけである。組合は3ヵ月ごとに、組合員数を使用者に知らせなければならない。
また、組合員を解雇から守る制度も変更された。以前、使用者は組合執行部の同意がなければ、執行部メンバーを解雇できなかった。また、執行部の同意がなければ、賃金やその他の労働条件の変更もできなかった。保護すべき組合員の人数はその組合が決定した。またこの保護は、組合を結成した労働者に対して、結成から6ヵ月間適用された。
新制度は、あらたな法律の規定によって、「代表的資格をもたない」組合では、ひとりだけが保護される。
代表的組合では、保護される者の人数は、企業の役員会の人数あるいは組合員数に従って計算される。保護を受ける創立メンバーは3人に限られる。どの組合員を保護するかは組合が指名する。指名された者は組合の役員会に所属しなければならない。
この措置は、解雇から保護されるかどうかで差別し、二種類の労働者を生み出す理由で、組合が批判している。報告でのもう一つの点は、実際的な労働組合の権利である。全国労働監督所によると、雇用の権利が次第に侵害されている。この侵害の比率は1995年の17%から02年には41%にまでなった。03年には、数千の労働者を雇う多くの企業が閉鎖され、賃金未払いが一段と増えた。報告はとりわけ、次の問題を指摘した。
- 使用者は解雇について労働組合の同意を得る必要がなくなったので、任務不履行を理由とする解雇件数が増えた。
- 組合役員への特別保護にかんする違反。
- 組合員を許しがたいほど長期間、他の任務に移す。
- 集団解雇の場合、まず組合員を対象にする。
- 労働者に組合脱退を説得する。
最近の労働市場調査では、ポーランドでは労働者の14%が組合に加入し、その数は低下している。市場経済への移行と民営化の進行が理由の一部である。また、組合は民間部門の中小企業にはほとんど存在していない。組織率は公共部門、とくに鉱山、鉄鋼、教職、保育ではまだ高い。
加盟組合員数およびポーランド労働市場への影響という点では、総合的機構をもち、産業別に組織されている「連帯」と、全国的な労働組合協定を結び、州別に組織されている全ポーランド労働組合同盟(OPZZ)という二つの労働組合が支配的である。あわせて90万の組合員をもつ。
◆ 労働法の改正
04年5月のEU加盟に先立ち、EUの要請にそって、04年1月新雇用法が実施された。この中には新労働法も含まれている。
主な変更
- 1ヵ月以下の有期雇用を2回行った後は、3回目の雇用は無期雇用でなければならない。
- EU外の国に本社を持ち、従業員をポーランドに送り出している経営者は、その国の労働法に規定する労働条件を守らなければならない。
- 16歳以下の青年は、両親の許可のもとに、一定部門で働くことができる。
- 新しい保健安全法には、有害物質使用にかんする規定があり、使用者はそれを扱う従業員を登録する。
政府は労働災害数を減らしたいとしている。中央統計局によると、1年間に8万人が災害にみまわれ、500人が労働不能になった。02年には全国社会保険事務所は、労働災害でざっと58億PLN(ズロチ、12億7000ユーロ)を支払った。
◆ 従業員代表制に関する法律の提案
従業員代表制設立のための法律案が労使間で討議されている。労働省はこの国の諸企業に従業員代表制を導入するための法律案を起草しており、05年までにEU情報協議指令(02EC)に入れ替える要請に従ってすすめている。
法律案には次の規則が盛り込まれている。
- これら機関のメンバーは従業員によって秘密投票で選出される。
- これらの機関は、ほぼ20年前からこの種の機構をもっている少数の国営企業を別として、20人以上を雇うすべての企業に設置される。
- これらの機関は経営者に何かを強要し、あるいは経営者の決定をことごとく妨害する権限をもつものではない。ただしこの問題では、多くの専門家は、経営者が機関の意見を汲み取って紛争を避ける必要があると強調した。
この背後にある考え方は従業員の権利を強めるものではあるが、労働組合は自分たちの立場が切り崩されるように思い、必ずしもこの動きを歓迎してはいない。
法案は05年3月15日に実施する目標で,04年秋に下院で討議される。
◆ 炭鉱労働者が政府に政策変更を迫る
強力な炭鉱労働組合が、この国の炭鉱運営にかんする政府の政策を変更させることに成功した。政府は当初案を改定し、新しい計画に炭鉱産業に有利な条項を加えた。
炭鉱労働組合は、政府の鉱山閉鎖計画に抗議して、数ヵ月にわたりデモを行った。労働組合は「この計画で膨大な雇用の喪失が生じる、世界的に石炭の需要は増えているので、閉鎖よりむしろ併合すべきだ」と主張した。
政府に影響を及ぼした点で、組合は成功した。炭鉱リストラの最終法案は産業に有利であり、国にとって不利である。最大の変化は、もともと法案にはなかった炭鉱併合の可能性に政府が同意したことである。今回の改革は3年間に61億PLN(13億ユーロ)かかり、1998〜01年の改革の2倍に及ぶが、産業への影響はそれより少ない。
前回の改革は雇用を10万減らし、採掘量を約3,800万トン減らした。つまり、1,000人の雇用削減につき、約8,800万PLNの費用がかかった。今回の改革は、同じ人数の雇用削減のために、2億2700万PLNを必要とする。
炭鉱労働者の提案したもっとも有利な修正案は、炭鉱の債務放棄であり、これは法案の第2部に盛り込まれた。これによると、債務が放棄される期間は、04年6月30日から同年9月末までである。これには税金、関税、すべての拠出金が含まれる。債務の支払いは05年1月に開始され、07年までに債務の30%が返済され、残りは10年までである。
政府は1人の労働者も強制解雇しない約束をした。離職する青年炭鉱労働者は、100%の賃金に加え、無料の職業訓練、どのような事業を始めるかの助言を受けるための給付金を受ける。また自分の会社を立ち上げるために貸付金を利用できる。
◆ 賃金支払いの協定
03年12月4日、全国検察事務所と全国労働検閲事務所のあいだで、賃金の欠配ないし遅配にかんし労働者の権利を強化する協定が結ばれた。
政府は経営者にたいし、労働市場の困難な状況を利用して労働者への賃金支払いを遅らせてはならないと指摘した。ここに問題があると察した全国労働検閲事務所は、03年の1〜10月のあいだに5,546件の検閲を行い、合計3億3300万PLN(7,120万ユーロ)の賃金が遅配ないし未払いであると計算した。このうちの半分は、一時的であれ資金の不足あるいは他への投資のためであった。検閲官はこのうちの2億5700万PLNを取り戻す努力をした。ポーランドでは、賃金の遅配あるいは欠配はもっともよく起こる労働法違反であり、とくに産業、建設、商業に多い。
1992年以来の規則がこの協定にとって変わる。この協定では、地域ごとに、労働者の権利侵害を扱う担当者の任命を定めている。労働検閲事務所は、これの適用を正確、かつ十分な資料にもとづいて行うことになる。なお02年9月20日に政府は、労働者の権利に関する件は迅速に進め、とくに賃金の不払いや遅配の件は優先すべきであると決定している。
◆ 運転手の労働時間の変更
政府は運転手の労働時間にかんする法案を国会に提出した。これはEU法に一致させるためである。
現行の運転時間は、01年8月21日からの法律にもとづいている。政府はこの法律について、EUの要請に応えるために変更を提案している。ただし変更は雇用されている労働者にだけ適用される。主な提案は、
- 年間の時間外労働の限度は260時間とする。ただし、これを引き上げる可能性もある。
- 労働時間を最低2週間の期間でいっそう弾力化する。当面、時間表は賃金を支払う全期間について規定しなければならない。
- 労働時間には、荷物積み下ろしの待ち時間を含める。
- 通常の最大限週労働時間を60時間まで延長できる。ただし、4ヵ月の期間に平均週労働時間が48時間を超えない限りにおいてである。
- 労働が6時間を超えた場合には、休憩は30分を下ってはならず、9時間の場合には、45分以下であってはならない。
- 労働時間のうち少なくとも4時間が夜勤となる場合には、労働時間は24時間中最大限10時間に制限される。
- 労働者が複数の雇用者に雇われている場合には、雇用者は労働者から、他の雇用者の下で働いた労働時間数の証明を書面で受け取る責任をもつ。
◆ 募集広告での差別
労働者の募集広告に関する最近の調査によると、経営者および職業紹介所は募集における差別禁止を守っていない。
労働法第11条と18条は募集広告での差別禁止を定めており、これが04年始めに刷新された。しかし二つの全国紙および最大のインターネット・ポータルでの広告をポーランド法教育協会が調べたところ、全体の5%、つまり3万7千の広告中、2,000以上が違反であった。
◆ 男女の賃金格差続く
EUの必要条件に一致させるため、いっさいの性差別を禁止する平等法が、02年1月1日、ポーランドで実施された。これに加えて、男女の均等待遇にかんする特別の章が労働法に追加され、性、年齢、障害、人種、国籍、宗教による直接間接のいっさいの形の差別を禁止した。また、憲法にも均等条項が含まれ、これにしたがって男女は社会的経済的生活、とくに教育、雇用、昇進、同一労働に対する同一賃金、社会的保護にかんして平等の権利をもつ。
職場協定では、雇用主は社内文書、とくに団体協約、社内規定、団体協約、労働規定、賃金、社会的問題、仕事上の地位にかんし、この均等立法に従うよう要請される。職場協定は労働法より不利になってはならず、もし職場協定の年次休暇が労働法の規定より少ない場合には、これは自動的に無効になる。
賃金の開きは大きい。中央統計事務所による最近の調査では、実際には女性の賃金は男性よりはるかに低く、女性の賃金は男性の83%である。
02年以前、労働法はいかなる形の差別も禁じていたが、それが起こった場合の措置を規定していなかった。新しい均等法第18条は、差別されていると感じる労働者が経営者に補償を要求できるようになっている。
差別が証明されると、差別の重大性と影響にしたがって、法廷が補償の程度を決定する。補償額は全国最賃月額より高く(800PLN)、その価値の6倍(4,800PLN)を超えることはない。
差別にかかわる権利を主張した労働者は、その主張をしたために解雇されることはない。
経営者は募集において、あるいは雇用関係のなかで、性、年齢、障害、人種、国籍、宗教、政治的傾向、労働組合加盟を理由にして差別した場合には、第66条3項にしたがって5,000PLNの罰金を課せられる。
ポーランドはEUのイニシアチブによるEQUALに参加している。欧州社会基金でまかなわれるEQUALは、労働と求職における新たな方法の実験である。その活動は欧州雇用戦略の四つの柱、すなわち女性および男性にたいする雇用可能性、企業家精神、適応性、機会均等を土台として組み立てられる。
ポーランドは4点におよぶプロジェクトの資金として、このイニシアチブからおよそ1億7,800万PLNを受け取る。
EQUALはこの計画実行のために設けられた発展のための共同組織をつうじて実施されるが、この組織は労働市場で差別される者、失業者、障害者、少数民族、青年、リストラ進行企業の労働者、女性を代表して行動する。
◆ スーパーマーケットでの雇用法違反
全国労働検閲団による新しい調査によると、スーパーマーケットが雇用法の多くの条項を侵害している。調査は27チェーンに属する139の店舗で実施され、前回の調査以来、全店舗の74%にあたる91店舗で改善が見られたものの、まだ多くの違反が見られる。
- 34%で、金銭登録が不正確である。
- 53%で、休憩時間が与えられていない。
- 24%で、経営者は24時間にわたる労働時間規則を守っていない。
- 3%で、労働時間の年間制限を守っていない。
- 17%で、時間外労働の支払いをしていない。
- 25%で、有給休暇が与えられていない。
- 11%で、決まった日に賃金が支払われていない。
- 6%で、夜間勤務の支払いを拒否している。
- 23%で、従業員の個人情報が不正に使われている。
また、つぎのような健康や安全にかんする違反が見られた。
- 37%で換気、照明、暖房が不十分。
- 37%で衛生の慣行が不十分。
- 67%で商品の運搬が不適切。
◆ 郵便事業のリストラ
ポーランドの郵便事業は国有であるが、重役会はそのリストラを希望している。これは初めてのリストラ計画ではないし、第1回の計画より遠大なものでもない。それにしても、この企業の11の労働組合はこれに批判をもち、ストライキを行うかもしれないと抗議の態度表明をした。
重役会は企業の民営化をしたり、労働者を解雇したりしないと約束した。企業は有限会社を部門に転換させたいと思っている。現在企業の収益の80%は、国を超えて15の都市で運営される60の子会社から上がっている。さらに、これらの会社はいずれも大手企業との取引をしておらず、その労働者はさまざまな地域で何百という多様な品物の販売に責任を負っている。重役会はこの制度の改革を願って、徐々に進行させようと計画を始めた。
ポーランドの郵政事業はおよそ104,000人を雇っており、企業のコストの60%は人件費である。労働者の手取り月収は2,400PLN(549.60ユーロ)である。リストラ計画で、労働者は要請によって他の部門に移る。労働者を解雇する必要はいっさいないと重役会はいっているが、他方、2010人の新規採用を予定しているので、会社は管理職員数の削減を見込んだ。その当時、従業員の33%が管理職の地位にあったので、この比率を22〜23%に減らそうという提案であった。労働組合はこれを受け入れがたい提案と考え、これとたたかうことにした。労働組合はこの企業の中で影響力のある立場で、その反対があったため、前回のリストラ計画は破棄されたのであった。
郵便事業は財政的にきわめて困難であり、顧客の必要に対応できなかったため、多くの顧客を失ってきた。いちばん打撃を受けている領域は手紙や小包であるが、これは独占的地位からわずか12%に落ち込み、88%が民間宅配企業によって占められている。
郵便事業はまた、郵便制度の自由化が進むにつれて、他の分野でも市場を失う見込みである。手紙や小包は企業収入の67%から45〜50%に落ち込みそうである。
しかし計画されたリストラを実施すれば、06年には75億PLNの収入で、純益は3%になる。(坂本満枝)
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