04年の「今年の言葉」1席は「年金一元化」(Pensionsharmonisierung)であった。前年、この国の戦後史上最大のストライキをひき起こした年金制度「改革」の継続として、04年の政治・社会の焦点になったのがこれであった。「一元化」は11月の議会でその大綱を立法化するところに進んだ。
04年は大統領選挙の年に当たった。大統領の任期は6年。92年から2期12年その職にあったトーマス・クレスティル大統領が任期満了のわずか2日前、7月6日に死去するという出来事があった。死去に先立って次期大統領の選挙が4月に実施されていた。選挙戦は与党国民党(VP)のベニタ・フェレオ・ヴァルトナー外相と最大野党社会民主党(SPÖ)のハインツ・フィッシャー候補によって争われたが、フィッシャー候補が当選。7月8日に就任した。ヴァルトナー女史は後にEU理事会に転出した。
「自由党の人事メリーゴーラウンド」という造語が生まれるような極右自由党(FPÖ)指導部の交替劇が04年も続いた。党首にはハイダー(ケルンテン州知事、党の最高実力者)の姉で社会省次官のハウプナー党首代理が就任した。また世論を驚かせたのは、ケルンテン州政府の水利権部門の長であったミクラウチュ女史が中央の法務大臣に就任したことである。ハウプナー党首は、99年のハイダー党首から数えて9代目で、退潮を続ける党勢の挽回を託されての交替であった。04年に限って見ても、自由党はチロル(州都インスブルック)、オーバーエスターライヒ(州都リンツ)、ザルツブルク(州都ザルツブルク)の州選挙で大敗した。欧州議会選挙も惨敗であった。ただ1つの例外は保守色が強いとされる南部ケルンテン州で、ここでは優勢を伝えられた社会民主党をわずかに抑え、ハイダー知事は政権を維持することになった。
経済面では景気は上向いたものの雇用不安が拡大した。公式統計によれば12月の失業は29万8149人、失業率は8.6%であった。男女別では男18万9749人、女10万8400人で、女性の増加が目立つとされた。失業者で職業訓練中の者は4万1434人で、統計上失業者にカウントされていないこの人数を加えると33万9583人が求職者となる。同じようにして年間平均をとると、04年の求職者は28万6525人(届け出失業者24万3880人、訓練中の失業者4万2645人)で、この数値は戦後第2共和制始まって以来の最高と報じられた。一方で雇用者総数は増加した。04年の年間平均では316万6596人で、対前年で1.13%増となった。届け出失業者について年間平均の失業率を出せば7.7%となる。
雇用者増の主力はパート・軽微雇用など非正規(オーストリアでは「非典型」と呼ばれる)雇用であった。1研究所が商業部門について行なった調査によると、雇用者49万6000人中、その半数以上が女性、4分の1強がパート、10人に1人が軽微雇用(ドイツのミニ・ジョブに同じ)の従事者で、研究所がとくに重視したのは、この「非典型」労働者層のフルタイム雇用への移行、「第1労働市場」への転換がますます困難になっているという点であった。軽微雇用については、これは商業とは限らないが、社会保険管理機関が11月の数値として22万6702人、うち70%は女性、これまでの最高と発表した。
以上に摘記したような雇用動向のもとで、この国でも労働時間延長論議が急激な高まりを見せ始めている。それはとくにドイツ・ジーメンスの協約がはずみになってと言えるが、油を注いだのは工業家連盟のゾルガー新会長の新聞インタビューであった。会長はドイツでの時間延長論について問われたところで、「われわれの隣人である新しいEUメンバーとの競争はものすごくきつい、アジアとのそれはさらにはるかに厳しくなる」とし、それに対抗するオーストリアの選択肢は「同じ賃金のためにより長く働く」、賃金調整なしの労働時間延長と祝祭日の削減だ、と語った。賛否両論が激しく交され、労働協約交渉にも延長の使用者要求が出されるようになった。「オーストリア労働総同盟」(ÖGB)は雇用拡大のための週35時間制を改めて要求したが、この週35時間制を「古い店ざらし品」と嘲弄する風潮さえ現れた。工業化連盟は9月(慣例の協約交渉開始の時期)に、法改定による労働時間弾力化(8時間から10時間へ)を要求していくことを明らかにした。ÖGBのフェルツェトニッチュ議長は年末の記者会見で、連盟の要求は高い失業率と弱い国内景気への誤った解答だとし、「29万の失業者が路上に立っている(失職している)」時に、「もっと長く働けと言われて組合員として黙ってはいられない」と反論した。
■ 2003年は戦後史上最大のストライキ年だった ― ÖGBのストライキ統計
ÖGB(オーストリア労働総同盟)は1950年以来ストライキ統計を作成していると言われる。04年10月に公表された03年のそれによると、1044万3727ストライキ時間で参加者は78万人(実数)に達した。1日8時間労働としていわゆる「損失日数」に置き換えると130万5466日、また参加者1人当りのストライキ時間は13.5時間となる。ÖGBによればこれまでのストライキ時間の最高は1962年の金属労働者と公務員の長期ストによる510万時間、次いでは65年の鉄道・郵政労働者の340万時間であったから、03年のそれは群を抜いて戦後(オーストリアでは「第2共和制」と呼ばれる)史上最大であった。
最近10年について見ると明らかにストは減少していた。ÖGB統計(組合の公認分のみ集計)によると、94、96、98、99、01の5年はゼロでさえあった。03年に激変した。政府の年金制度改悪に反対して5月6日に50万人、次いで6月3日には第2共和制下最大の100万人強のストライキが起こった。後者では約1万8000の企業と官公庁が24時間職場放棄された。改悪案を阻止することはできなかったが、組合はこの抗議行動でいくつかの緩和を獲得した。さらに11月12日にはオーストリア連邦鉄道(ÖBB)の民営化に反対するストが始まり、66時間にわたって列車が運休した。鉄道労働者は、民営化計画阻止はできなかったが、新しい勤務法(就業規則)を法律によってでなく労働協約によって定めるという譲歩を引き出した(本報告第10集参照)。
03年にはさらにパイロットと教員のストライキが加わる。前者は新給与制度に反対する2度の15時間警告スト、後者は授業時間削減に反対する4度の抗議行動であった。
04年については、ストライキはふたたび小規模だと予測された。
■ 鉄道労働者の就業規則、労使交渉で合意
オーストリア連邦鉄道(ÖBB)の民営化計画をめぐって、03年11月に66時間に及ぶゼネストがたたかわれた後に、民営化については4社への分社化が合意されたが、鉄道労働者4万7000人の労働条件に関わる「勤務法」の改定についてはこれを法律によらず、労使交渉、したがって労働協約による決定を待つという妥結になったことは、本報告第10集で報告した。「勤務法」の改定を労働協約事項として確保したことは鉄道労働者の断固たるたたかいの成果であった。「勤務法」の改定は「就業規則」「勤務協約」のそれとなった。
前年12月に議会は「ÖBB構造改革法」を議決、04年1月実施を決定していた。「就業規則」についての労使交渉(鉄道労働者組合GdE、ÖBB、政府)は1月から開始された。政府は4月末を労使交渉のデッドラインと定め、2010年までに1億ユーロ人件費節減を目標とする協約合意を要求した。交渉は合意点をその都度公表する形で進んだ。4月に入って組合は組合員にたいし原投票(投票期間4月14日から21日まで)を呼びかけた。これまでの合意点に同意するかどうかを問うと同時に、政府がこれまでの交渉結果を受け入れず、法律によって新勤務法を決定しようとする場合は闘争手段を取ることの同意を求めるものであった。
4月29日夜の第26次交渉で組合は最終合意に踏み切った。内容は組合員にとって厳しいものとなった。(1)従来の2年ごと昇給を3年に。(2)疾病時の賃金継続払いはこれまでの最高1年から4ヵ月に短縮。(3)解雇告知保護の事実上の撤廃―いわゆる懲戒会議の労使同意原則がなくなるため。(4)各種有給休暇・特別有給休暇手当の削減(従来はWuz、Fuz、Tuzと略称される手当があった。W〔冬期〕、F〔祝祭日〕、T〔輪番〕、uz〔有給休暇手当〕)。(5)夜勤手当に代えて減額・一律の「増担手当」―該当者は約2万人。
10月21日に「オーストリア経済会議所」(WKÖ)のライトル会長とÖGBのフェルツェトニッチュ議長が「総合団体協約」に署名した。「私は本日署名された団体協約が未来指向の一歩であることを期待する。それによってわれわれは、立法者の側から勤務法に介入されるのを阻止することができた」とÖGB議長は述べた。
■ 年金「一元化」法の成立
「年金(制度)一元化」が04年の「今年の言葉」のトップとなったことは前述した。この「一元化」のための「一般年金法」(略称APG)が秋の国会で可決・成立した。
「第2共和制最大のスト」の洗礼を受ける中で前年6月に、年金額の引下げ(各年度の年金調整の廃止)、受給年齢の引上げ、完全年金のための保険料納付期間の延長、早期年金(減額年金)の減額率の引上げ、などを柱とする「年金改革」が強行されたことは本報告前号(第10集)で報告した。そして「改革」の残された課題として、制度の「一元化」のための法案準備を年内にも始める政府方針が示されたこともそこで述べた。
現行のこの国の年金制度は大枠で次のように類別される。(1)民間の労働者・職員、(2)自営業者、(3)農民、(4)公務員、(5)政治家。今回「一元化」の対象とされるのは(1)〜(4)である。政治家年金についてはその特権的位置が問題視されたが結局は先送りになった。
9月に入って政府はAPG原案を閣議決定した。次のような骨子であった。(1)05年1月1日から50歳未満者全員に適用。(2)年金受給年齢65歳(女性の場合は2033年から)。62歳から68歳までの「年金回廊」を設け年間4.2%の増額または減額。(3)年金額は「45−65−80」定式で。45年の保険料納入期間、65歳受給開始で平均所得の80%。(4)「重労働従事者規則」―15年以上の重労働従事者について重労働期間1年につき3ヵ月の早期年金受給を可能にする。早期年金の減額率は1年当り最高2.1%。重労働従事者の定義は細則で。(5)保険料率。労働者・職員および公務員22.8%(労働者・職員は現行通り。公務員は現行では各種の保険料率と国庫補助)。自営業者現行15%を17.5%に。農民現行14.5%を15.0%に。自営業者と農民の22.8%との格差部分は国庫負担。
若干の付言――50歳未満者という線引きは閣議での修正で当初案は55歳未満者であった。前年の政府方針は35歳未満者の制度一元化であった。ところで5歳引下げに関連して「一元化」の言わばガバー率――したがってまた「一元化」されない被保険者部分―の現状についてはいくつかの試算が行われている。50歳〜54歳層は現状で約40万人、ミクロセンサスによれば50歳以上の就業者は69万7400人で、率としては18.4%が「一元化」非適用者とされる。これがおおよその平均値と考えられる。労働者の場合は132万人中110万人が「一元化」年齢、21万8000人(16.5%)だけが非適用である。民間職員の場合もほぼ同じで、175万人中150万人が「一元化」年齢に入り、14.1%が非適用とされる。非適用の比率が比較的高いのが公務員で、28万人中50歳以上者は8万人で28.6%が非適用となる。ÖGBは非適用のこの格差を問題にし、閣議案の主要当事者(被害者)が労働者・職員であり、その現行「一般社会保険法」(ASVG)だと批判した。
「年金回廊」については女性を無視するものとの批判が多く出された。「回廊」(特に年金の増額)の利用者に女性がなるのは不可能という批判である。他にも女性が制度改悪の被害者だという指摘は各方面から出た。育児期間への考慮がない、45年保険料納入で完全年金は女性にとっては架空、パートなど「非典型」労働の大半を占める女性労働の今後への措置が欠ける、など。「45−65−80」の45(03年改定では40年)は男性についても非現実的であり、この定式を充足する完全年金者はむしろ例外となろう、との指摘も見られた。さらにÖGBは「同一保険料同一給付」原則の立場から、保険料の差等が国庫負担を伴って残された点も批判した。批判者(野党、組合、女性団体など)は、新制度が最高で20%の年金喪失をもたらすと主張した。
9月22日国会上程で始まった審議は、11月12日の社会委員会の5時間半審議、そして可決の後、18日の本会議で法案承認となった。技術的な点は別にして政府案がほとんど無修正で多数を得た。
本会議に先立つ15日に、ÖGBは「一元化」反対の全国行動を行なった。50万枚のビラが早朝から配られた。国会議員宛の要請行動を訴えるものであった。フェルツェトニッチュ議長もウイーンの街頭に立ち、「不意打ちで」人びとから年金の20%以上を奪い取り、女性を老齢者貧困に押しやるのとは別の、未来を切り開く道がある、と訴えた。
職場集会もいくつか開かれた。ビラ配りに大きなサイコロが持ち出され、「サイはまだ投げられていない」と訴える行動もあった。インスブルックでは紙袋に入ったチビパンが配られたが、紙袋の中には「政府のおかげで、年金ではもうチビパンだけ」と書かれたカードが入れられた。金属労組(GMT)は「一元化」法の憲法との整合性をこそ問えと訴えた。
■ 04年労働協約ラウンドから
日刊紙「スタンダード」が年末に、企業コンサルタント会社マーサー(Mercer)のIMFおよびOECDのデータに基づく調査結果だとして、各国の05年実質賃金上昇率の予測を報じている。世界70カ国の調査といわれるが、簡略な新聞報道であり、アジア、アフリカについては言及がない。上昇率の平均では、EU圏が2.1%、調査国全体では1.9%。その中でオーストリアは賃上げ率2.8%、物価上昇率1.8%で実質上昇1.0%、ドイツは0.8%で、EU圏ではこの両国は実質賃金上昇率が最も低いと予測されている。上昇率の最も高いのはギリシャで、賃上げ率5.2%、物価上昇率2.8%で実質増2.4%、これにイタリー、フィンランドが続いている。
調査報告が注目している点に、東欧の低賃金国とされた国ぐにでの高い実質上昇率がある。リトアニア7.7%、ブルガリアとラトビア5.6%、セルビアとモンテネグロ5.0%などである。「低賃金諸国の高い給与上昇によってヨーロッパ市場における給与水準は漸次強く接近するだろう」と報告は指摘する。
さて04年オーストリアの賃上げ交渉はどのように展開したか。若干の事例を報告する。
◆ 「ただ働きの弾力化ではない」― 金属労働者のパイロット協約
オーストリアの労働協約改定交渉は9月下旬の秋から始まるのが慣例となっている。そして秋の交渉のトップに立つのは、これも伝統的に鉄鋼・金属産業の労働者であり、彼らの妥結が他部門へのシグナルの作用を果たすとされる。
金属労働者約11万9000人と職員7万3900人のための賃金協約交渉(大手企業が対象、後述参照)は9月27日から始まった。当事者組合は「金属・繊維産業労組(GMT)と「民間職員組合」(GPA)の2組合である。今期の両組合には賃上げと並んで重要な要求が加っていた。前年に電機産業の約5万8000人について協約化し、04年5月から着手された労働者と職員の賃金体系の一本化(本報告第10集参照)を、金属についても合意する要求である。9月27日に組合は、これも慣例と言われるが、具体的な賃上げ率などは示さず「要求パック」を使用者側に手渡した。対抗して使用者側は労働時間の弾力化の要求を提示した。
10月8日が交渉の第1ラウンドとなった。争点となった1つは物価上昇率で、使用者側はこの年の石油価格の暴騰を本来の物価上昇率に加えまいとし、組合と対立した。いま1つは賃金体系の一本化について、一本化は長年の懸案でありそれ自体については使用者側も認めたものの、それに伴うコスト増(特に労働者の昇格・昇給)の対抗措置を強く主張した。弾力化による労働時間延長がそれで、現行週38.5時間、13週間の変形を週48時間、交替制の場合は56時間まで拡大することを提案した。
10月18日と29日に交渉は継続したが、賃金体系一本化と労働時間弾力化の対抗が解けず物別れとなった。この間に組合は、18日には全国で事業所委員会会議を開き、さらに29日に向けてはストライキの可能性も表明した。29日の交渉が不調に終わり11月3日に延期された。11月1日までの妥結という慣例が崩れることになった。
3日から23時間にわたる第4次交渉で合意が成立した。妥結の要点は3つであった。(1)11月1日にさかのぼって現行賃金および協約最低賃金の2.5%引上げ。(2)賃金体系の一本化を05年11月1日に実施に移し、8年間で完了する。(3)週4日労働時間モデル(交替制導入企業)で現行10時間を12時間まで可能にする。ただし追加の2時間は支払い残業。協約の有効期限は(1)(3)について1年。
新賃金体系は次の点を骨子とする。12年間に5回(2、4、6、9、12年後)の昇格期を設け、うち2回を固定、3回を可変とする。可変の3回は事業所委員会と会社側のその都度の合意による。労働者にも自動昇格の道が開け、ジャーナリズムはこれを「労働者」が「打ち切りモデル」になったと報じた。
「ただ働きの弾力化ではない」とGMTのニュルンベルガー委員長。労働時間については使用者側も結果が「不十分」だったと認め、今後は立法要求も考えると述べた。妥結結果について日刊紙の1つは次のように論評した。「労働時間の延長ないし弾力化についての夏の激しい論議ののち、今回妥結した金属の団体協約交渉は、オーストリアにおけるこれに関する変更志向の有無を占う最初のテストランと見られていた。労働時間延長の反対者は満足だろう。金属部門の各種の労働時間モデルの現状にも、それの弾力化に関してはほとんどなんの変更もなかった」(スタンダード紙11月5日)。工業家連盟のゾルガー会長も、賃上げ率は容認できるが、労働時間弾力化が「組合の頭の固さ」のため進まなかったのは遺憾だと述べた。
上述の協約とは別に、同じ金属産業でいま1つの協約が締結された。中小企業のそれである。この分野はオーストリアでは伝統的な用語であるGewerbe(ゲヴェルベ、小規模産業)で表示され、その業者団体はこれも古い由来をもつInnung(イヌング、同業組合)と呼ばれている。
上述(大手)の協約妥結を受けて、金属労組(GMT)は金属イヌングおよび非鉄金属イヌングと協約交渉を行なった。前者約1万5000社10万8000人、後者9万人が対象である。業種が多様であり、交渉は相前後することになったが、最終的には12月に入り、金属については2.5%引上げ、非鉄金属については賃金ランクの低いグループ2%、高いグループ1.9%の引上げが合意された。05年1月1日実施で協約の有効期限は1年とされた。
◆ 他部門の場合、公務員は年金「一元化」案の合意がからむ
金属部門の交渉継続中の10月19日に商業(約45万人)の改定交渉が始まった。組合(GPA)は3.6%、最低44ユーロの賃上げ、週1.5時間の割増しのない残業の解消、パート労働者のまとまった4時間の労働などを要求した。使用者側は0.6%の賃上げを提示するとともに、土曜労働(現行は隔週)の緩和と割増しの廃止、平日18時30分から22時のあいだの労働に対する割増し率の30%への引き下げ(現行50%)などを要求した。交渉は双方の要求提示だけに終り、個々の点の話し合いに入ることなく次回に持ち越された。
交渉の第2ラウンドは11月11日に行われ、当初の予想に反して同日夜急転妥結となった。05年1月1日から2%、最低25ユーロの引き上げで、25ユーロの引き上げは実効賃金としては2.15%の平均引き上げに相当するとされた。残業手当はそのままとなった。さらに労働条件について話し合う労使同数の機関の設置が合意された。このことに関連して前述した双方の他の要求は見送りとなった。
商業の妥結の1日前にはテレコム(約5500人)が2.1%引上げで合意した。加えて経営内の個人別配分のために0.3%が認められた。
ところで上例のような秋の協約交渉は、年金「一元化」法案の立法化の時期と重なっていた。この両者を同時に交渉課題にしたのが公務員(約50万人)の場合であった。交渉は11月4日の第2ラウンドに入ってなお使用者(政府)のなんの提案もなければ、組合(GÖD)もなんの数値要求もしない状況が続いた。政府は財政調整未了と金属の妥結のないのを口実にした。11月10日の第3ラウンドになって組合は2.95%の賃上げを要求し、政府は1.5%を提示したが、交渉は賃上げのそれには進まず、年金「一元化」への対応協議に終始した。
11月16日から17日にかけての第4次のマラソン交渉で協約は一気に妥結に向かった。賃上げと「一元化」に対応する公務員の新年金制度の大枠について合意があったが、後者は翌日に迫った「新年金法」の国会議決に最終的な道を開くものとなった。
政府は予測される物価上昇率(1.95%)以下の1次回答(1.5%)を大幅に引き上げ2.3%で合意した。「一般年金法」の規定に合わせて、50歳未満の公務員について別立ての年金金庫を設立すること、05年に年金金庫と新しい給与制度の細部について交渉がなされることも決定された。「この成果は木曜日(11月18日)の国民議会本会議にとって、年金法についてのオーストリア国民党労働者会派(ノイゲバウアーが議長)の同意が保障されたことを意味する。公務員年金一元化について当該修正議案は直接に本会議に上程される」。新聞は妥結についてこのように報じた(スタンダード紙11月18日)。ノイゲバウアーはGÖDの委員長であり、同時に与党国民党の国会議員である。(島崎晴哉)
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