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国旗 世界の労働者のたたかい
EU(欧州連合)
2005

概 観

 2004年のEU(欧州連合)では、前半をアイルランド、後半をオランダが議長国を務めた。
 政治分野では、04年はEU(欧州連合)にとって、激変の年であった。特記すべきは、第一に、5月1日に新加盟10ヵ国を迎え入れ、25ヵ国体制に移行したことである。第二は、前年失敗に終わった、EU憲法条約の採択に成功し、批准手続きに入ったことである。
 経済面では、加盟国のGDP(国内総生産)合計でみた2003年(実績)と04年(予測)のEU(欧州連合)経済が、加盟国25ヵ国ベースで1.0%から2.5%へ、ユーロ圏(12ヵ国)ベースで0.6%から2.1%へと、全体としては下降に歯止めをかけ、成長へと転換しつつあるかに見える。しかし、たとえば、失業率が、25ヵ国ベース(9.1%)でも、12ヵ国ベース(8.9%)でも、同率で推移し、高止まりしていることが示すように、労働者の側から見た経済情勢は、改善されていない。背景には、従来の加盟国と比べて、「労働コスト」が格段と低い中東欧諸国のEU加盟、中国、インド、中南米などとの間での、EUと関係機関の経済協力関係(とくに、貿易・投資協定)の進展を軸とした「経済グローバル化」の拡大・深化がある。
 こうしたなかで、04年には、EUレベルと加盟各国レベルで、工場・生産の外国移転・人員削減を脅迫手段とした「労働コスト削減」と労働時間をはじめとした労働条件切り下げ、および、労使関係制度改悪の攻撃が急速に強まっている。そして、それは最大のEU加盟国ドイツで典型的、集中的に強行され、他の諸国にも持ち込まれ、ついには、EUレベルにまで及んでいるのが、特徴である。
 その軌跡を簡単に振り返れば次のようなものである。雇用者数でドイツ最大の民間企業ジーメンス(日本での登録名はシーメンス)で6月24日、全事業所を適用対象とした枠組み協定「雇用保障、競争力、イノヴェーションのための協定」と、バイエルン州にある2場(携帯電話製造)に関してそれを具体化するための「補足労働協約」が締結された(以下、一括して「ジーメンス協定」と呼ぶ)。ジーメンス協定は、国内人員削減と外国移転を回避するために、まず、インソーシング(外注の内部化)、各事業所間での人員調整、派遣労働者削減、事業所の最大効率化の可能性を汲み尽くすことを約定。予定していたハンガリーへの移転を最低2年間しない(これにより約2000人の削減を回避)、所定労働時間は週40時間・年1760時間(弾力化分の調整期間、最長24ヵ月)、労働時間延長(週5時間分)に伴う賃上げ無し。一時金(有休休暇手当、クリスマス手当)は成果給に転換。04年7月1日発効で、有効期間2年(ただし労働時間は10月1日実施)。ジーメンスはこれにより、2工場での総コストを30%削減できる。
 ドイツでは、このジーメンス協定を「モデル」とした賃金据え置き、事実上の労働時間延長攻勢がフォルクスワーゲン、フィリップス、ボッシュ、ダイムラークライスラーなど多数の大企業で一斉に開始された。
 ドイツでの労働時間延長攻勢はジョスパン政権が国の法律によって週35時間制を実現したフランスなど欧州各国にも影響し、保守陣営を勢いづけた。フランスではラファラン保守政権が2003年1月、事実上週39時間制を、2004年12月、同じく40時間制を可能にする緩和措置をとったが、財界とラファラン政権はさらに、労使交渉で法的時間規制から逸脱できるようにするための法改定を強行しつつある。独ボッシュ社はヴェシニュー工場で(1)週35時間制から賃金据え置きでの36時間制、(2)年休2日削減などを内容とする協約更改を労資協調的労連との間で強行した。これはフランスでの賃金据え置きでの週35時間制撤回の最初の例である。
 類似の労働時間延長・賃金労働条件切下げの攻勢は、スイス、オランダ、オーストリア、イタリア、デンマークなどの各国にも波及している。
 欧州労連(ETUC)と各国労組ナショナルセンターに結集した労働者・労働組合は反撃を強化した。ドイツ最大労組ヴェルディ(統一サービス産業労組)のビルスケ委員長は、事業所レベルへの決定権限移譲に反対する「産業別労働協約制の消長をかけた決戦」であり、同時に、賃金・物価の下落と投資減少の並行的進行は1930年代のようなデフレへの道である、と位置付け、戦線拡大を呼びかけている。
 欧州労連(ETUC)は、欧州委員会が5月以降進めている労働時間指令見直しの第2回協議に関連して、加盟国の圧力でEU労働時間指令を緩和することのないよう警告しつつ、イギリスなどに認めてきた「オプト・アウト(「労働者個人との合意」による時間規制の適用除外)の廃止などを要求した。
 各国で、また、EUレベルで、新自由主義的な傾向をも含む労働市場・労使関係・労働条件の弾力化や労働法制・社会保障の改悪、労働戦線分断攻撃もひきつづき強まっている。
 反戦平和の闘いでは、03年2月15日に次ぐ3・20統一行動の成功が、世界のいっそう多くの人々の前に米英政府のイラク戦争・占領の不当性、ウソとごまかしを暴露し、参加者の間に、反戦平和の闘い、国連中心の解決の可能性への大きな確信と希望を広げ、強めるものとなった。
 EUと欧州の労働運動は多大な課題と試練に直面しつつ、2005年を迎えた。同年のEU議長国は、前半をルクセンブルク、後半をイギリスが務める。

<2004年の指標>

ユーロ圏
12ヵ国平均
EU
25ヵ国平均
経済(GDP)実質成長率
2.1
2.5
消費者物価上昇率
2.1
2.2
失業率
8.9
9.1
財政赤字の対GDP比率
△2.9
△2.8
累積債務の対GDP比率
△71.1
△63.5
労働組合組織率(2001年)

26.4
(「欧州委員会経済予測」2004年秋版」。単位%)

2004年の主な闘いとできごと

  • 1月15〜16日 EU雇用・社会的問題理事会(アイルランドのゴールウェー)が開催され、失業諸給付受給者の就労促進、人材育成投資の強化などを討議した。
  • 1月5日 欧州委員会が、週平均労働時間の算定期間(4ヵ月)の延長など、1993年のEU労働時間指令(93/104EC)の再検討・改定に関する通達を出し、欧州議会など関係機関に意見を回答するよう求めた。
  • 2月11日 欧州議会が、欧州委員会が求めていたEU労働時間指令(93/104EC)改定案への回答を提出。その中で、事実上、イギリスのための例外措置となってきた選択的除外(opt-out)制度の廃止を主張。
  • 2月19日 欧州委員会がジェンダー・メーンストリーミングに関する初めての年次報告を発表。EU全体にわたって、一定の改善が見られるものの、とくに、賃金など労働市場関係の諸条件において、依然、男女格差があると指摘し、克服の必要を強調した。
  • 2月23日 欧州委員会が、企業統治改善計画実行の一環として、社長など企業指導部の報酬に関する通達を出し、関係者に意見を回答するよう求めた。
  • 3月4日 EU社会的政策・雇用理事会がブリュッセルで開催。3月下旬に開催される欧州理事会および政労使サミットに向けての諸課題を討議した(労働時間指令改定問題を含む)。
  • 3月18日 欧州司法裁判所(ECJ)が、年次有給取得中の産休取得権など2件について判決。
  • 3月17〜18日 欧州労連(ETUC)執行委員会が、EU東方拡大にともなう使用者側の「統一」強化に対抗するための、傘下労組間の労働協約交渉の調整・統一、労働者参加権の強化などを決議した。
  • 3月20日 米英によるイラク戦争開始1周年のこの日、イラク侵略反対・米英軍などの撤退を求める声が、再び、欧州各国と世界を覆った(詳細は別項「45ヵ国以上、数百万人が「イラク侵略ノー」――3・20国際反戦平和行動」を参照)。
  • 3月25〜26日 ブリュッセルで欧州理事会および政労使サミットが開催され、2000年に決定されたリスボン戦略の進捗状況を含む雇用・労働条件・労使関係などについて討議した。
  • 4月2〜3日 欧州労連などの呼びかけによる「欧州統一行動デー」として、「社会的ヨーロッパ」の維持・強化を要求する一連の行動が、欧州各地で展開された。
  • 5月5日 EUレベルのテレコム産業労使がコール・センター憲章に調印。憲章は、労働安全衛生、労働時間、労働負荷、賃金・諸手当、労働者代表制、職業訓練などに関する優秀事例のガイドラインを含んでいる。
  • 4月20日 欧州委員会が欧州労使協議会の実効性の強化措置(欧州労使協議会指令〔94/45EC〕の改定を含む)に関する労使関係当事者との協議を開始。
  • 5月1日 新加盟の中東欧10ヵ国を迎え入れ、EU25ヵ国体制が発足(詳細は別項「EUが25カ国に拡大――高まるEUの経済・外交的比重」を参照)。
  • 5月19日 欧州委員会が労働時間指令(93/104EC)改定に関する第2次協議を開始。労使関係当事者に同指令改定内容に関して合意形成を促した。
  • 5月26日 欧州委員会がグローバル化の社会的恩恵の確保に貢献することを目的とした報告書を発表。同報告者は、2月に発表されたILO(国際労働機関)の「グローバル化の社会的側面に関する世界委員会の報告」への、EUとしての回答・対応である。
  • 6月1〜2日 ルクセンブルクで開催されたEU社会的政策・雇用理事会で、04年雇用政策、EUジェンダー研究所の設立などを決定した。
  • 6月10〜13日 EU25ヵ国で欧州議会選挙実施(詳細は別項「25ヵ国体制EU、初の欧州議会選挙」を参照)。
  • 6月17〜18日 ブリュッセルで開催された欧州サミット(EU首脳会議)で、EU憲法条約案を採択(詳細は別項「EU首脳会議が憲法条約採択」を参照)。
  • 6月29日 「企業の社会的責任(CSR)」に関するEUマルチステークホルダー・フォーラムが、約20ヵ月にわたる審議結果を総括した最終報告(具体的勧告を含む)を提出した。
  • 7月2日 欧州委員会がEU内における無申告労働(いわゆるヤミ労働)の広がりに関する報告書を発表。
  • 7月15日 欧州司法裁判所(ECJ)が、労働者の情報・協議権は欧州労使協議会設立に優先する(欧州協議会が設立されていなくとも、労働者は情報協議権を有する)との判決を下した。
  • 7月22日 欧州委員会の新委員長に保守系のポルトガルのジョゼ・マヌエル・バローゾ前首相を選出。
  • 7月27日 欧州委員会がEUにおける、同性愛者の権利保護をはじめとする多様性尊重、差別禁止法制の実態など、平等・差別禁止に関する第2次年次報告を発表した。
  • 8月12日 バローゾ欧州委員会新委員長が新欧州委員名を発表(ただし、この新委員名簿は、イタリア出身委員候補の男女差別的、同性愛者差別的発言などが主原因で、修正を余儀なくされ、新委員会の正式発足は予定の11月1日より遅れ、11月22日にずれ込む結果となった)。欧州委員会はこの日、EUレベルの労使対話の到達点――EUレベルの労働協約など労使合意の影響・実施状況を含む――に関する通達を発表した。
  • 9月10日 ユーロ・バロメーター(EUが半年に一度実施する社会・世論調査)がEU内の男性の大半が、金銭的理由、情報不足、昇進への影響懸念などで、両親(育児)休暇を取得していない、との調査結果を発表。
  • 9月22日 欧州委員会が労働時間指令(93/104EC)の改定案を発表(詳細は別項「欧州委員会が労働時間指令改定案発表 ― 労組が『長時間労働促進』と反対」を参照)。
  • 10月4日 ルクセンブルクで開かれたEU社会的政策・雇用理事会で、職場外における男女均等待遇・派遣労働・労働時間の編成に関する指令案の具体化について討議した。
  • 10月8日 EUレベルの労使関係当事者が、各国レベルの労使間でのストレス対策合意を奨励する、労働関連トレスについての枠組み協定に調印した。
  • 10月19日 世界最大の米自動車メーカー、ゼネラル・モーターズ(GM)の、欧州各地での人員削減計画に反対する統一行動が全欧各地で実行された(詳細は別項「全欧統一行動で工場閉鎖阻止 ― GMの人員削減計画」を参照)。
  • 10月15〜17日 ロンドンで第3回欧州社会フォーラム開催(詳細は別項「04年欧州社会フォーラム――「イラク」、「働くルール」での連帯誓う」を参照)。
  • 11月3日 高級専門家グループが「リスボン戦略の進捗状況に関する報告書」を発表(詳細は別項「専門家委員会が『リスボン戦略の進捗状況に関する報告書』」を参照)。
  • 11月12日 欧州委員会が労働関連の筋骨格障害防止について、労使関係当事者との第1次協議を開始。
  • 12月6〜7日 ルクセンブルクで開かれたEU社会的政策・雇用理事会が、欧州委員会提案の労働時間指令改定案、男女均等待遇関連諸指令の単一指令への統合案、放射線被曝からの保護指令案などについて討議した(詳細は別項「男女均等指令、労働時間指令の改定などについて討議――欧州社会的政策理事会」を参照)。
  • 12月10日 EUレベルの観光・ホテル・レストラン産業労使が「企業の社会的責任(CSR)」に関する共同文書に調印。
  • 12月16日 ブリュッセルで欧州首脳会議開催(詳細は別項「EU首脳会議が合意――トルコ加盟交渉05年10月から」を参照)。

45ヵ国以上、数百万人が「イラク侵略ノー」 ― 3・20国際反戦平和行動

 米英によるイラク戦争開戦1周年の3月20日、米国の平和団体、世界社会フォーラム、欧州社会フォーラムなどが呼びかけた、米英によるイラク侵略反対、軍隊の撤退、テロ反対、国連中心のイラク復興を求める反戦平和統一行動が45ヵ国以上で実施され、数百万人が参加した(以下、参加者数は主催者発表)。
 行動の波は、東のオーストラリア、日本から始まり、アジア・太平洋諸国、トルコ、インド、欧州各国、エジプトなどを経て、南ア、中・南・北アメリカ諸国へと広がっていった。アメリカでは250ヵ所以上で、フランス、ドイツ、スペインなどでも主要都市、米軍基地所在地を含む、それぞれ数十カ所でデモ・集会が実行された。
 ローマでは200万人が結集し、この日の最大規模となった。デモは100メートルもある虹の旗を先頭に、バルベリーニ広場を出発、ベネチア広場、コロッセオを経てチルコマッシモまで行進し、そこで集結集会が行われた。デモの先頭部隊が集結点に到着しても、出発点には依然、大勢が待機中で、参加者が事実上、ローマの中心部全体を埋め尽くした。
 直前の3月14日の総選挙で勝利した次期首相が撤兵方針を打ち出しているスペインでは、バルセロナ15万人以上、マドリード10万人以上をはじめ各主要都市で大規模な参加となり、新政権の撤兵・反テロ政策への国民的支持を再確認した。
 以上のほかニューヨーク、ロンドンでも参加者が10万人を超えた。各国、各地の行動ではイスラエルによるパレスチナへの武力侵略反対・平和解決を求める声も広がった。
 各国とも、多くの労組センターが社会フォーラム、平和運動ネットワークなどを通じてこの日の行動に参加した。とくに大規模な行動を成功させたイタリア、スペインなどでは、労組ナルセンターと各レベルの労組が独自課題として全力でとりくみ、成功の先頭に立った。
 ベルルスコーニ右派政権が対米追随をとり、イラク派兵(2600人)もしているイタリアでは、「戦争ストップ」委員会に結集した最大労組センターCGIL(労働総同盟)、同傘下のFIOM(金属機械産業労組)、二番手の労組センターCISL(労働組合同盟)、独立系労組センターCOBASなどが組織決定をしてとりくみ、当日はそれぞれの書記長らが隊列の先頭に立った。市町村旗を掲げた「平和を求める地方自治体」の隊列も目立った。スペインでは2大労組センターのCCOO(労働者委員会連合)、UGT(労働者総連合)がとりくみの先頭に立った。

EUが25カ国に拡大 ― 高まるEUの経済・外交的比重

 EU(欧州連合)は5月1日、新加盟10ヵ国(国名は資料1の最下段参照)を迎え入れ、25ヵ国に拡大した(一度に10国新加盟は初めてのこと)。これにより、人口で19.6%、GDP(国内総生産)合計で9.1%増加した(同前参照)。その結果、EUは人口約4億5400万人、GDP(国内総生産)総計9兆6000億ユーロ(米国の87%、日本の2.26倍。以上数字は2002年分)という巨大な経済圏になった。中国、インドなどの前進により比率ではやや低下しつつも、米国とEUで世界のGDPの約6割を占める。
 下表の略史にみるとおり、2度にわたる大戦からの教訓を汲み、平和・繁栄の欧州を誓って1952年設立された石炭鉄鋼共同体(ECSC)およびEC(欧州共同体、1967年発足)を前身とする。そして、計5回・19ヵ国を加えて、半世紀余りの年月をかけて、EUはこの地点に到達した。
 拡大のたびに国民1人当たりGDPが既加盟国平均の約半分という新加盟国を迎え入れてきた(資料1の最右欄)。この事実だけからも推測される域内格差、経済的対立・摩擦をはじめ、(過去の歴史的問題を含む)民族的摩擦など、必ずしも統合を歓迎しない各国の実情や感情を克服し、言語の違い、多様な文化や伝統を包容しながら、一歩一歩進んできた。なかでも、1989年の「ベルリンの壁崩壊」と翌90年の「東西ドイツ統一」は、今回の中東欧諸国の加盟へとつながる一大画期だったと言えよう。さらに、99年に12ヵ国で発足させた新通貨ユーロ(正式名称は欧州経済・通貨同盟)は、危機的状況を深める米国経済とドルからの自立性を強化する役割を発揮しつつある。
 EU拡大の機会に、仏独英などEUの政治指導者が「社会的欧州を発展させよう」、「グローバリゼーションをヨーロッパ化しよう」と呼びかけたことが注目されている。これはイラク戦争を含む中東情勢の深刻化、グローバル化の下での不安定雇用の急増とも関連して、拡大EUの平和・共存共栄、「社会的(=労使対話、雇用・社会保障重視の)欧州」に向けたイニシアチブへの期待がますます高まっていることの反映と言える。フランス、ドイツ、スペイン新政権のイラク戦争反対、国連中心の解決という対応の正しさが事実によって立証され、国際的にも支持を広げている。経済面でも、EUは補完原則(各加盟国の自主自立を前提に補完する立場)に立ち、多様性を統一する共同体的な経済圏をめざしており、アメリカやそれに追随する日本の、多国籍・大企業の利益最優先のFTA(自由貿易協定)やその別名「経済連携協定」による「グローバル化」強行とは対照的である。EUと中国をはじめとするアジア、中南米(とくにメルコスール)、ロシア、アフリカとの経済協力も着実に拡大・強化されつつある。
 今回の拡大に前後して、多くの既加盟国が新加盟国を含む外国人労働者の入国を厳しく制限する措置をとった。その背景には、たとえば、ドイツと新加盟国ラトビアでは平均賃金が8倍の格差があり、低賃金の労働力がこれまで以上に「自由に」、大挙して流入することへの警戒がある。それだけに、域内での社会保障・福祉を含む労働条件の統一化、格差解消が拡大EUの大きな課題になっている。とくに、EUがこれまで指令によって促進してきた労働時間規制、解雇規制、男女均等待遇化などを新加盟国に普及することが急務である。
 欧州労連、欧州金属労連をはじめ、各国労組は、拡大EUの発足と同日となった04年メーデーで、EU拡大を歓迎するとともに、「労働条件ダンピング反対」、「欧州社会的モデルの新加盟国への普及」を実現することが拡大EU成功のカギだと訴えた。
 EUは今、昨年末、案文確定に失敗し、今春再開されたEU憲法制定への取り組みを急ピッチで進めている。また、トルコとの加盟交渉促進に加え、バルカン、中東、北アフリカの諸国、アルメニア、アゼルバイジャン、グルジアを対象に緊密協力関係地域を広げる「新隣接国戦略」を展開しつつある。

資料1 EU拡大のあゆみ
(既加盟国の総計または平均を100として比較)
加盟国
総人口の増加(%) GDP総計の増加(%) 新加盟国平均一人当たりGDP(%)
1952 欧州石炭鉄鋼共同(ECSC)設立
ベルギー、フランス、(西)ドイツ、イタリア、ルクセンブルク、オランダ 〔ECSCは条約期限50年経過の2002年消滅〕



1958 欧州経済共同体(EEC)発足(ローマ条約発効)



1967 欧州共同体(EC)に発展



1973 イギリス、デンマーク、アイルランド
33.4
31.9
95.5
1981 ギリシャ
3.7
1.8
48.4
1986 ポルトガル、スペイン
17.8
11
52.2
1993 EU(欧州連合)に発展(マーストリヒト条約)



1995 オーストリア、フィンランド、スウェーデン
6.3
6.5
103.6
2004 キプロス(ギリシャ系)、チェコ、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、マルタ、ポーランド、スロバキア、スロベニア
19.6
9.1
46.5
資料出所: EU統計局などの資料による *統計は2003年分

ベルギー、フランス、(西)ドイツ、イタリア、ルクセンブルク、オランダ 〔ECSCは条約期限50年経過の2002年消滅〕                    


25ヵ国体制EU、初の欧州議会選挙

 EU(欧州連合)は25ヵ国体制になって初めての欧州議会選挙(6月10〜13、各国毎に割当定数を選出)と首脳会議(同17〜18日)を実施した。選挙ではイラク侵略戦争加担と福祉破壊の政策への審判が各国で共通して下され、首脳会議では欧州憲法条約が採択され、4億5000万人の憲法としての発効めざして批准手続きに入った。
 欧州議会は欧州理事会と共に共同決定権をもつEUの最高議決機関。その選挙は1997年に各国での直接選挙制なってから、今回で6回目。25ヵ国一斉は多数国・直接選挙としては史上最大で、投票日はイギリス、オランダが10日、アイルランド11日、チェコ11〜12日、マルタ、ラトビア12日、その他の国が13日。
 選挙は、米英が強行したイラク戦争への対応、グローバル化・国際競争激化を口実とした大企業の負担軽減・社会福祉削減に与するか否かへの審判という性格を強く帯びたものとなった。イギリス、イタリア、オランダなど米国のイラク戦争を支持し派兵を強行した国々で、与党が軒並み大敗した。後述するように、旧加盟国のうち13ヵ国に関して、議席数が前回99年と比べ削減され、議席数では比較しにくいので、得票率中心に比較してみよう。
 イギリスでは与党労働党が28.0→22.3%に、イラク戦争に賛成した保守党も35.8→27.4%に後退。イラク戦争反対を掲げた自由民主が12.7→15.1%と増やした。イタリアではベルルスコーニ首相出身の最大連立与党フォルツァ・イタリアが25.2→21.0%と減少した。オランダでも派兵を強行した与党キリスト教民主勢カが26.9→24.4%と減少。反戦の新政党「透明な欧州」が7.3%(2議席)を獲得した。他方、イラク撤兵を主張し、3月の総選挙で政権に復帰したスペインの社会労働党は35.4→43.3%と大幅増を果たした。ポーランドなど中東欧でも、イラク派兵反対の野党が大きく前進した。
 政府・与党がイラク戦争反対のドイツとフランスでも政権党が後退した。これは主に労働条件・社会福祉改悪への有権者の反発と見られている。ドイツは議席定数が削減されなかったが、最大与党・社会民主党の得票率30.7→21.5、33→23議席と、戦後最低レベルに下がった。フランスでも、シラク大統領の与党、国民運動連合は16.7%、17議席しか獲得できず、2年前の総選挙比で半減した。
 共産党を含む左翼勢力では、ドイツの民主的社会主義党(5.8→6.1%、6→7議席)、イタリア共産主義再建党(4.3→6.1%、5→6議席)と議席を伸ばした。その一方、フランス共産党(6.8→5.2%、3減の2議席)、スペインの統一左翼(5.8→4.1%、3→2議席)、スウェーデンの左翼党(5.8→4.1%、3→2議席)など、与党がイラク反戦の、いくつかの国で後退した。「欧州懐疑派」と呼ばれ、EU脱退や統合反対を唱える諸政党が一部の国で議席を伸ばしたのも一つの特徴である。とくにイギリスでは、反EUを掲げる英国独立党が6.7→16.8%と躍進した。

資料1: 欧州議会の政治会派別議席数
グラフ
04年6月15日現在、各会派正式名称は下表参照

 こうした特徴を内包しつつ選出された欧州議会の政治会派別は資料1、2のとおりになっている。今回の選挙は732議席を25ヵ国に配分して争われた。人民党(キリスト教民主党)系が最大会派を維持し、社民党系、リベラル系(独・自由民主党、英・自由民主など)、「緑」系、統一左翼系(独・民主的社会主義党、仏・共産党、西・統一左翼、伊・共産主義再建党など)、民族(右翼)系、諸派と続いている。
 新加盟国があり、会派別の前進・後退を前回選挙(1999年、15ヵ国626議席)と直接比較することは無理なので、新加盟10ヵ国への配分(162議席)を加えた会派別現勢(計788議席、25ヵ国体制になった直後の5月5日現在)と、今回選挙結果を比較したのが、資料2である。ただし、5月5日現在では計788議席であったが、今回選挙に際しては規定により、旧加盟15ヵ国に関して計56議席減らして570議席を再配分し(独、ルクセンブルク以外は議席減。新加盟10ヵ国分162はそのまま)、計732議席で争われたので、「選挙後」と「同直前」の比較は「議席占有率」でするしかない。非常に大雑把だが、「統一左翼系の減少」と「無所属の増加」を除いて、会派別では大きな変動はない。「左派系」(表の(1)、(2)、(3)の計)と「右派系」((4)、(5)、(6)の計)を比較すると、前者は42.36%から38.12%に4.24%減少、後者は49.71%から50.82%へ1.11%増加したことがわかる(ただしこの計算では、9%前後を占める「(4)リベラル系」を「右派系」に加えている)。

資料2:  欧州議会の政治会派別構成(議席数、議席占有率=%)
選挙後(04年6月15日現在) 選挙直前(04年5月5日現在)
英 語 略 称 ・ 会 派 名
議席数
占有率
議席数
占有率
(1)EUL-NGL = 「欧州統一左翼・北欧緑の左翼」連合
39
5.33
55
6.98
(2)GREENS-EFA = 緑・欧州自由連合
41
5.6
47
5.95
(3)PSE = 欧州社会主義党
199
27.19
232
29.43
(4)ELDR = 欧州自由民主改革党
67
9.15
67
8.46
(5)EPP-ED = 欧州人民党(キリスト教民主党)・「欧州民主」
278
37.98
295
37.43
(6)UEN = 「諸民族の欧州」連合
27
3.69
30
3.82
(7)EDD = 「民主主義と多様性の欧州をめざして」
15
2.05
18
2.28
(8)無所属
66
9.02
44
5.59
  計
732
100
788
100
(注)上記は今回選挙前の政治会派を基準に作成。選挙後の新会派は2004年7月20日召集される新会期の冒頭に決定。
資料出所: 欧州議会当局が発表した選挙結果統計から作成

労組も全欧最低保障など訴えて選挙戦
 欧州レベルおよび各国の労働組合は、既加盟国より労働・福祉条件が低い新加盟国の統合を機に、切下げを狙う使用者団体や政党などに反対し、EU共通の最低保障の設定、青年が自分たちの将来に安心して働ける政治などの実現を求めて、創意ある選挙戦を展開した。
 欧州労連(ETUC)は、10本の柱からなる要求を盛りこんだ立候補者宛ての公開書簡「私たちの欧州――欧州とは私たちのこと!」を発表した。10本の柱は、(1)労働者権の強化、(2)完全雇用と持続的経済成長、(3)より多い、より良質の雇用、(4)社会的EU憲法の制定、(5)すべての人の機会均等、(6)将来性のある社会保障制度(全員に人並みの生活ができる年金・健保・高齢者介護の保障など)、(7)持続可能な発展と健全な環境、(8)公共的ユニバーサル・サービスの確保・強化、(9)(合法的居住権を持つ)EU以外国籍の労働者の移動権保障と社会的統合、(10)EUレベルでの労働組合権の強化。
 これを受け、イギリスの労働組合会議(TUC)、フランスの労働総同盟(CGT)、ドイツの労働組合同盟(DGB)など各国労組ナショナルセンターと労組も、EU型の労使関係・労働条件・福祉重視を意味する「社会的欧州」の強化を柱としたアピールを発表し、同時に、欧州労連はじめ各労組の幹部が各地に出向いて要求で一致する候補への投票を訴えるとともに、職場・地域で宣伝行動、討論集会などを展開した。
欧州労連青年部は、とくに青年失業解消と安定雇用、将来性のある社会保障の確立などに関して、今回選挙が6400万人のEU内青年(15〜24歳)にとって重要であり、必ず投票をと訴えた。また、「平和、安定、青年の未来保障の、強力な社会的欧州」を柱とする青年の独自要求を発表。同時に、各国の労組青年部も独自の取り組みを展開。具体的要求では、住宅・教育・職業訓練の保障をはじめ、EUが進めている民営化や規制緩和(電力をはじめとしたエネルギーや各分野の公共サービス民営化、「時間外労働込みで週48時間」の上限を定めた労働時間指令の緩和など)への反対などを掲げた。「社会的欧州」の強化では、EU指令と既加盟国で確立されてきた男女平等・均等待遇、解雇規制、労働者代表の情報・協議権などを同水準で中東欧の新加盟国へ徹底させること、各国間格差解消を要求した。

EU首脳会議が憲法条約採択

 6月17〜18日開催されたEU首脳会議は18日深夜、意見対立を超克して、「25ヵ国EU」の基本法になるEU憲法条約の全会一致での採択にこぎつけた。全25ヵ国が批准して発効に至るには多くの困難が予想されるとはいえ、EUが経済的側面とともに政治的側面でも統合・共同体化を深化させつつ、前進を続けていることを実証する画期的かつ歴史的な出来事である。
 憲法は前文と本文全4部、および付属文書で構成され、欧州統合の基礎となったローマ条約はじめ過去50年の諸条約を集約した内容になっている。前文は、分断と対立の歴史を乗り越えて再統合を果たした東西欧州が平和と繁栄への道を進むことを宣言。第1部は民主主義や人権、法の支配といった基本的理念とともにEUの権限を規定している。欧州労連(ETUC)などが、英政府の狙う骨抜きに強く反対し、原型のままの採用を要求してきた欧州基本権憲章が、第2部に盛り込まれている。
 憲法により、EU大統領や外相職が新設される。巨大な組織の意思決定を迅速にするための新たな多数決ルールも設けられる。議決機関である閣僚理事会の可決条件は、(1)加盟国の少なくとも55%、(2)賛成国の人口がEU総人口の65%以上、という「二重多数決制」が導入される(ただし、税制、司法など重要分野では引き続き全会一致制)。また、欧州議会の役割強化など、市民の参加や権利を強化する仕組みが採用される。100万人の市民が要求すれば、EUの政府に相当する欧州委員会に法案策定を求めることができる。
 憲法は積極的半面と同時に、強く批判される側面も含む。欧州労連は憲法を「一歩前進」と評価しつつも、イギリスの「削除要求」に譲歩し過ぎ、賃金、団結権、スト権に加えて社会保障についてもEU政策の対象外とし、各国権限のままとしたことなどを、「憲法諮問委」原案より後退したと批判。「統一左翼」に結集する諸党やファビウス仏元首相(社会党)は新自由主義的競争原理の明記は「社会的欧州」と両立しないなどの理由で、同憲法への反対を表明。発効までの前途は平坦とは言えない。
 一方、今回の首脳会議は、首脳間の意見の対立が解消できず、10月に任期が切れるプロディ欧州委員長の後任選びを一旦、打ち切った。

欧州委員会が労働時間指令改定案発表 ― 労組が「長時間労働促進」と反対

 EUの政府に相当する欧州委員会は9月22日、「労働時間指令」(93/104EC)の改定案を採択し、共同決定権限を持つ欧州理事会と欧州議会に送付した。
 同指令は「労働者の健康・安全の保護」という基本的目的をうたい、「時間外込みでの週48時間上限」などを定めている(別掲参照)。加盟各国は指令の内容を国内法化することを義務づけられているので、指令はEU25ヵ国の共通最低基準という重要な役割を果たしている。

EU労働時間指令の主要内容
 EU指令=93/104/EC(その後の改定を経た現行指令は2003/88/EC)の主な内容は次のとおり。
(1)1日最低、連続する11時間の休息(=1日の労働時間の上限は13時間)。
(2)1労働日が6時間を超える場合には最低1回の休息。
(3)1週最低1日の休日(ただし2週単位の変形休日は可)。
(4)時間外労働を含む1労働週の最大限は平均で48時間(4ヵ月単位までの変形は可)。
(5)年間の有給休暇、最低24日。
(6)夜間労働者は平均で、24時間につき8時間を超えて労働してはならない。

 今回の改定案の最も重要な内容は週労働時間の上限に関するもので、二つのポイントを含んでいる。第1は、指令が、使用者と労働者個人の契約があれば週48時間上限を超えることができるという、実質的にイギリスだけの特例措置として維持されてきた「オプト・アウト(上限規定の選択的適用除外)」を ― 若干の制限強化を図りつつも ― 維持・残存させるという内容である。従来は個人的契約さえ整えば認められていたが、改定案は労働協約など労使双方間の合意が認める場合と、労働組合が存在しないなどで集団的合意がない場合に限って個人的契約によるオプト・アウトを認めている(ただし、いかなる場合も週65時間を超えることは許されない)。第2は、週48時間上限は従来、最長4ヵ月平均での達成を義務づけられていたのを、「1年の平均で達成」まで延長できるようにする。
 改定案はこのほか、「待機を要する労働者」(当直医、各種呼び出し労働など)の職場での待機時間を「非実働的」部分と呼んで区別し ― 法律などでの規定がない限り ― 時間外労働として算定しなくともよく、72時間以内に代償休息で補償すればよい、としている。
 改定案に対して、欧州労連は同日の声明で、「欧州委員会は、一部の加盟国と使用者側圧力団体の圧力に大幅に屈服した。欧州委員会は労働時間に関する経営者側の全面攻撃の側に立っている」と非難し、欧州議会に対して、従来からの「オプト・アウト廃止」の立場を堅持し、改定案を可決しないよう求めた。
 イギリスの労働組合会議(TUC)、ドイツ労働組合同盟など各国の労組ナショナルセンターも相次いで反対を表明し、行動を起こしている。欧州議会内では、社会・社民党グループ、欧州左翼党・北欧「緑」などの左翼グループも反対を表明した。
 改定案が存続を図っているオプト・アウトは、イギリスの一部企業が乱用している上限破りの長時間労働を許すだけでなく、労働時間規制が遅れているEU新加盟諸国などでも乱用される危険性が高い。

04年欧州社会フォーラム ― 「イラク」、「働くルール」での連帯誓う

 「もう一つの世界は可能だ」、「もう一つの世界のなかのもう一つの欧州を」をスローガンに掲げた「2004年(第3回)欧州社会フォーラム」が、10月15〜17日、ロンドンで開催された。参加者はイラク反戦、各国で強まりつつある新自由主義的リストラ攻撃反対闘争などでの労働組合間、労働者と国民各層の間の連帯強化を誓い合った。
 最終日17日午後の、フォーラム主催の国際デモには5万人が参加し、イラク占領反対・即時撤兵を訴えてロンドン中心部を行進した。
 欧州社会フォーラム(ESF)は、2001年に始まった世界社会フォーラムに結集する欧州レベルのフォーラムで、今回のロンドンは3回目のESF。大ロンドン市(リヴィングストン市長)の後援を受けて開催された。主催者である英ESF組織委員会には、TUC(労働組合会議)傘下各労組、その支部、TUC地域組織をはじめ、人権、国際連帯、環境などの多彩な200近い社会運動組織が結集した。
 組織委員会の発表によれば、3日間にわたったフォーラムには、70近い国々から延べ2万人が参加し、6つの基本テーマにもとづく30の「本集会」を含む計500以上の大小の集会で討論・交流した。
 6つの基本テーマは、(1)「戦争と平和」、(2)「民主主義と基本的諸権利」、(3)「社会正義と連帯 ― 民営化(規制緩和)反対、労働者の権利・社会的権利・女性の権利を守るために」、(4)「企業のグローバル化と公正なグローバル化」、(5)「人種主義・差別・極右に反対し、平等・多様性を守るために」、(6)「環境危機と持続可能な社会」。
 討論では、イラクの戦争と占領の問題、批准手続き中のEU憲法条約がとりわけ強い関心を呼び、関連した本集会や分科会はどこも盛況だった。ブレア政権のイラク政策に激しい非難が集中し、「3B(ブッシュ米大統領、ブレア英首相、ベルルスコーニ伊首相)を打倒しよう」の声が上がった。
 労働組合関係では、イギリスTUC傘下の各労組のほか、ドイツのIGメタル(金属産業労組)、ヴェルディ(統一サービス産業労組)、フランスのCGT(労働総同盟)、イタリアのCGIL(労働総同盟)など各国の労組ナショナルセンターとその傘下組織が団体として正式参加し、積極的に発言した。
 17日には、主要な関係組織が参加する「社会運動総会」が開催され、今後の運動強化を呼びかけるアピールが採択された。アピールはイラク、パレスチナなどでの戦争・占領強行を「新自由主義の素顔」として糾弾し、公共サービスの民営化、労働時間指令改悪案などEU政策に現れている新自由主義的傾向との闘争強化を強調。とくに、イラク戦争2周年とEUサミット開催などが重なる05年3月に、大規模な欧州中央行動を展開することをよびかけた。また、次回(第4回)欧州社会フォーラムを2006年3月、ギリシャのアテネで開催することを決定した。

専門家委員会が「リスボン戦略の進捗状況に関する報告書」

 EUは、2010年までにEUを世界で最も競争力のあるダイナミックな経済圏にすることを目的とした「リスボン戦略」を2000年のリスボン欧州理事会で採択し、2005年春に中間見直しを行うことを決めている。そのため欧州理事会と欧州委員会は、2004年3月にコック元オランダ首相を座長とする高級専門家グループによる委員会を設置した。委員会は、6回に渡ってリスボン戦略の進捗状況を検証し、11月3日、「挑戦に立ち立ち向かう」(”Facing Challenge”)と題する報告書(コック報告書)を欧州委員会に提出した。
 報告書は、過去4年間のリスボン戦略の進捗状況に落胆を示し、確固たる政治的行動の欠如により、数多くの課題調整ができず、優先順位の設定も誤っていた、と結論づけた。高級専門家グループは、リスボン戦略が掲げる経済、社会、環境保護の3つの分野の目標は現在も有効であり、世界的競争の激化と高齢化が進展する中、とりわけ経済成長率を高め、雇用を増大させることが重要であるとしている。そのためには、(1)知識社会 ― 研究開発、情報技術活用の促進、(2)内部市場 ― 金融サービス等内部市場の整備と貿易障壁の除去、(3)ビジネス環境 ― 行政コストの軽減、法制度の質の改善、新会社設立の簡易化とビジネス支援環境の整備、(4)労働市場 ― 欧州雇用タスクフォースの勧告を速やかに実施し、生涯学習、活力ある高齢者及び経済成長と雇用促進のパートナーシップのための戦略を発展させること ― などの重要分野において確固たる政策を緊急に講じなければならないと提言している。報告書は、欧州理事会、加盟国、欧州委員会、欧州議会、欧州労使関係当事者それぞれにリスボン戦略を前進させるための行動を勧告している。また、各国レベルでも政府、議会、労使が協調して2005年末までに行動計画を策定するよう呼びかけている。

全欧統一行動で工場閉鎖阻止 ― GMの人員削減計画

 世界一の自動車メーカー、ゼネラル・モーターズ(GM、本社アメリカ)は10月14日、2006年までに欧州の従業員の約20%削減を含むリストラ計画を発表した。GMは欧州にオペル(ドイツ)、サーブ(スウェーデン)、ボクソール(イギリス)などの子会社を持ち、従業員は合計で約6万2000人。欧州での事業再建のために、上記3社での1万2000人削減やグループ企業の工場統廃合などにより、年間5億ユーロ(約680億円)のコスト削減をする大リストラ計画である。この発表に先立ってGMは、ベクトラ、サーブの一部「兄弟車」の生産を、ドイツかスウェーデンのいずれかのコストの低い方に統合するとして、両国の労働者を競争させ、分断しようとしたが、両国労働者は連帯行動で反撃していた。
 人員削減予定の大半を占めるドイツでは、リュッセルハイム、ボッフム両工場で警告ストを実施。10月19日には、このリストラ計画、とりわけ、工場閉鎖と解雇に反対してオペル全社事業所評議会、同金属産業労働組合(IGメタル)、欧州金属労連などの呼びかけで、欧州統一抗議行動が決行された。行動にはドイツ(オペル主力工場のあるリュッセルハイム1万6000人デモを含む4都市)、ベルギー、ポーランド、スペイン、ポルトガル、スウェーデン、イギリスなど10カ国13工場の5万人以上が、職場放棄、デモ・集会に参加した。フォルクスワーゲン、ダイムラークライスラー、ポルシェなどの自動車労働者や鉄鋼など関連産業の労働者も集会に駆けつけ、参加者総数は10万人を超えた。ブラジルのGM3工場の労働者も、この行動日に連帯した会合をもち、過剰設備・過剰競争の抑制を訴えた。
 こうした闘いを背景に続けられた交渉の結果、GM労働者欧州フォーラムと会社側は12月9日、「会社都合による解雇と工場閉鎖の回避」を盛り込んだ欧州レベル基本労働協約(全欧州工場を対象)に合意した。フランツ・オペル全社事業所評議会議長によれば、協約の具体化は各国レベルの交渉で詰められることになっている。
 ドイツ・オペルについては、当初1万人とされていた削減は、特別退職金での自主退職、再就職準備のための職業訓練会社設置などを含む「社会的計画」による6500人の削減に縮小された。
 IGメタルは、この合意について、大幅人員削減、賃金15%削減などを余儀なくされたが、「工場閉鎖・解雇を回避したことが労働者にとっての朗報であり、最初の、中間的成果」と評価した。
 しかし、投資・生産計画など各工場立地の持続的確保策の交渉は残され、この合意の具体化の闘いはその後も続いている。

男女均等指令、労働時間指令の改定などについて討議 ― 欧州社会的政策理事会

 12月6〜7日開催された欧州社会的政策・雇用理事会は、男女均等に関する7つの指令を1つにまとめた新たな指令を作成することについての一般的合意に達した。統合される指令は、(1)男女同一賃金指令(75/117/EEC)、(2)男女均等待遇指令(76/207/EEC、改定後2002/73/EC)、(3)職域社会保障制度における男女均等待遇指令(86/378/EEC、改定後96/97/EC)、(4)性にもとづく差別事件における挙証責任に関する指令(98/80/EC、改定後98/52/EC)である。
 理事会はまた、欧州委員会が9月に提案した労働時間指令の改定案について、10月、11月の理事会に続いて討議を行ったが、週48時間労働制の適用除外(オプト・アウト)に関する意見が大きく分かれ、合意に達することができなかった。フランス、ベルギー、スペイン、スウェーデン、ギリシャなどが適用除外条項の廃止を支持しているのに対し、アイルランド、イギリス、新規加盟国の一部が、本人同意にもとづく適用除外の維持を主張した。欧州委員会の改定案は、労働協約による適用除外、および、労働協約の適用を受けない労働者については本人同意にもとづく適用除外を許容している。
 理事会は、欧州議会に対し、改定案に関する検討を続けるよう要請した。シュビドラ雇用・社会問題担当欧州委員は、ルクセンブルグが議長国を勤める2005年1月から6月までの間に、この問題で政治的合意に達するよう希望を表明した。
 リスボン戦略に対応した2006年から2010年までの新たな社会政策アジェンダに関しては、(1)活性化 ― 就業率を向上させるためのより多くの良質な雇用、よりダイナミックで包括的な労働市場、(2)確約(Commitment) ― すべての関係当事者による実行の誓約、(3)職業訓練 ― 技能・生産性向上のための人的資源への投資、(4)編入・包含 ― 最も弱い社会的グループの編入・包含、(5))労働の組織・編成 ― 企業と労働者の適用能力の向上、(6)差別の除去 ― 生活全般および仕事やサービスへのアクセスに関するすべての人々の機会均等 ― など6つの優先的行動分野を確認した。

EU首脳会議が合意 ― トルコ加盟交渉05年10月から

 欧州連合(EU)は12月16日、ブリュッセルで首脳会議を開き、トルコとの加盟交渉を2005年10月3日に開始することで合意した。これを受け、(当時の)EU議長国オランダのバルケネンデ首相が12月17日にトルコのエルドアン首相にEUの決定を提示し、両者が加盟交渉開始の条件について合意した。トルコ(人口約7000万人)は、EUとの関係強化を以前から強く望んでおり、経済的には、1996年に結んだ関税同盟により、実質的にEUの自由貿易圏内にある。
 EU議長国との話し合いで、トルコ側は条件とされた同国のキプロス承認の問題で当初、不満を表明したが、加盟交渉開始前にキプロスを承認することを約束した。
 バルケネンデ首相が首脳会議終了後の16日夜の記者会見で、対トルコ交渉開始がそのまま直ちに加盟の実現を「保証するものではない」と述べたように、交渉は簡単ではなく、最短でも10年はかかるとの見方が強い。
 トルコは西洋と東洋の「接点」にあるイスラム教国。キリスト教文化に根差して発展した従来の「欧州」に、政治、経済、社会の様々な価値観を共有して「統一」しうるか否かが大きな関門である。
 欧州委員会は、首脳会議に先立つ10月6日、トルコの加盟交渉開始を勧告する報告書を発表している。その中で、トルコが民主主義や法の支配、人権の分野でいっそうの改革を実行する必要性を強調し、改革が中断あるいは後退する場合、「加盟交渉の停止」もありうると指摘していた。
 一方、パウエル米国務長官(当時)は12月17日、EUがトルコとの加盟交渉を開始することが決まったのを受け、「米国は決定を歓迎する。歴史的な日を迎えたEUとトルコに祝意を示したい」との声明を発表した。米国は対テロ戦争の重要なパートナーと位置づけるトルコのEU加盟をかねてから後押ししている。 (宮前忠夫)