労働時間延長の裁判で勝利
キリスト教労組連合(CNV)サービス産業協議会は8月6日、米国系事務用品企業スミードが同国北東部の事業所で、週36時間から40時間への賃上げなしの労働時間延長を強行しようとした問題で、裁判闘争に勝利した。北東部の都市フロニンヘンの裁判所は同日、企業が従業員との個別契約で8月1日から週40時間労働を実施しようとしたことは労働協約に違反し、従業員の労働条件を悪化させるもので違法だと判決した。労働時間延長そのものについては判断を示さなかった。ドイツやフランスで一部労働者が「雇用確保」を理由に労働時間延長に応じたことで、オランダでも経費削減のための労働時間延長の論議が広がっていた。週36時間労働を明記した労使協約を突き崩そうとするスミード社のこの試みは、政労使三者間で確立された合意システム「ポルダーモデル」を損なう危険がある。
労働組合は3%を要求
オランダ労組連盟(FNV)は、団体交渉で合意した1.25%の引き上げに、早期退職と児童保護費をまかなうための1.75%を加え、合わせて3%を要求した。緩慢な経済回復のもとで賃金コストを引き上げる恐れがあるからと、政府がゼロ賃上げを呼びかけている中でこの要求が出された。
しかしFNV交渉部長は、労働組合の要求は「責任の重いものであり」、組合は雇用水準の維持を願っていると強調した。同部長は、組合の要求は予想されるインフレと生産性の向上の双方にもとづいていると説明した。FNV議長は、賃上げは消費の増大をもたらし、経済成長を促進すると指摘した。
経団連(AWVN)は失望し、各企業と部門の生産性を高める展望なしに要求を出すのは「古いやり方」だといった。
さらにFNVは、全体に拘束力をもつ団体協約で賃上げを宣言しない政府の意図を無視している。9月20日にFNVは、社会問題相のこの決定を法的に訴える計画であると発表した。
CNVは賃上げ要求を延期し、予定されている国会討論の後で、政府が労働廃失制度を改革するか、それとも早期退職の公約の修正をするかの提案のいずれかを変更するかどうか様子を見ることにした。
金属労働者の賃金要求
FNVの金属部門労働者は、1.25%の賃上げを要求した。これは政府の低賃金政策に反する動きであった。労働組合は、将来の団体協約が部門全体に適用することを宣言できないような危険を冒していた。およそ17,000人の労働者(この部門の労働者は175,000人)は、この協約の範囲が拡大されてはじめてそれを適用される。もし拡大されないと、これらの労働者にはどの協約も適用されないことになる。
04年はじめの協議が失敗した後、金属労組は03年秋に政府と労使が到達した協定を守る必要があるとは考えなかった。この協定は05年のゼロまたはきわめて低い賃金協定を定めていた。この問題は、この組合が金属労働者の60歳退職を要求し、また1年以上病休を取っている労働者が続けて94%の賃金を受け取れるよう要求している事実によって混同が生じた。
政府としては65歳以前に退職しないことを補償するつもりであり、病休中の労働者に賃金の70%を支払い、速やかな職場復帰を勧めたいと思っている。
金属の経営者団体FMEは、組合要求に応えるのを嫌がり、金属の状況をもっと仔細に研究することを望んでいる。
04年6月2日、金属のもう一つの組合(CNV加盟)は、新団体協約に賃金要求を出さないと宣言した。同労組は秋の協約に拘束されていることが分かり、05年賃金交渉の戦略を組合員と協議することになっている。
社会保障改悪案の撤回でストライキ、そして勝利
10月14日、鉄道やバスなど公共交通部門の労働者が、中道右派のバルケネンデ連立政権による年金など社会保障制度の改悪案の撤回を求め、戦後第二の規模のデモ・集会、交通ストライキを決行した。紛争は11月はじめ、政府側が譲歩、対話へ復帰する形で収拾された。
バルケネンデ政権は、2040年に65歳以上の人口が今の2倍になり現行の社会保障制度を維持するのは困難だとして、政労使交渉の場で、早期退職年金制度への税優遇措置の撤廃、傷害保障や失業保障の受給資格制限などを提案した。
協議は、03年11月から続いていたが、政府が一方的に04年5月を交渉期限として設定。このため同年5月中旬に交渉は決裂し、オランダ労組連盟(FNV)、キリスト教労組連盟(CNV)、管理専門職労組連盟(MHP)の3労組は、政労使で合意されていた賃金凍結の無効を宣言、政府との全面対決の構えをとった。
三労組センターが呼びかけた10月2日のアムステルダムの「博物館広場」での集会には約30万が集結、1980年代における中距離ミサイル配備反対以来の規模の集会・デモになった。
その後労組側は同月14日、鉄道やバスなどの公共交通部門で約2万人が参加するストライキを行い、同国の交通機関を麻痺させた。同月27日、金属機械産業では2万1千人(200社)がスト。11月には建設産業、教育・医療部門、公共サービスでストが計画され、同月29日にはゼネストも予定された。また労組側は、早期退職制度を守るための国民投票を要求する運動をはじめた。
11月6日未明に成立した合意は、労組のこれらのたたかいを背景にして達成されたものである。労組側はこの合意を30万人集会が開かれた地名にちなんで、「博物館広場合意」と名づけている。
合意では、早期退職制度への財政援助措置撤廃などが政府案どおりとなったが、その代替措置として、勤務年限に応じた休暇制度「生涯休暇制度」を大幅に拡充し、これを利用することで早期退職制度が維持されることになった。この措置で、40年間保険料を支払った労働者は、60歳から年金生活に入ることができる。
また生涯保障制度では、政府が提案していた労働災害による障害者への評価基準の厳格化で年齢が引き下げられた。失業保障制度でも、政府がねらっていた短期失業者への給付廃止などの計画が延期された。
政労使三者が対等の立場で合意をめざすルール「ポルダーモデル」が根づいているこの国での突然の労働争議は注目を集めた。
労働による障害者の動向
労働廃失制度(WAO)を受給する人数は減っているが、政府はこの制度をさらに変更しようとしている。政府はこの点でさまざまな措置をとってきた。中央計画局がまとめたデータによると、従業員がWAO制度に加入した場合に経営者の保健拠出金を増やす罰金制度を実施してから、WAO給付をもらう人数は15%減った。この罰金は1998年に導入され、5年後に従業員25人以下の企業にたいして廃止された。
04年前半には、WAOの新規請求者は30,100人で、03年後半より5%減った。これは01年には104,000人、02年には92,400人、03年全体では66,300人である。この年、WAO制度を脱退したのがおよそ80,000人で、初めて脱退者が新規請求者を上回った。これら全体を合わせて、UWV公共給付者は、01年には労働による障害者数を792,100人、02年には802,500人と登録している。
同時にFNVは、WAO制度の大部分の民営化を要求している。民間保険業者の方がよい給付を提供するからである。FNVはまた、部分的に障害をもつ人びとに、民間保険業者は所得の支援を行うべきであると考えている。この点で政府は、民間保険業者とUWVが責任を分担すればよいと主張しているが、FNVは混乱を起こすと考えている。替わる見込みのあるものとして、FNVはUWVの商業部門がよいとみている。夏期休暇が終わったら、全組合でこれらの問題を討議して最終的立場を決めることになっている。社会問題相は、この制度の変更を06年までに導入するため、法案を議会に提出するという。
− 欧州議会選挙
8月10日投票の欧州議会選挙(27議席)では、イラク戦争に反対した社会党が前進し、与党は後退の見込み。
− 経済相、週40時間を標準に
ブリンクホルスト経済相は、週40時間を「標準にすべきだ」との見解を表明した。180度の方針転換である。
− 職場評議会法の変更
04年10月5日、社会問題相は、職場評議会および共同決定に関する現行の法律を単純にするための法案を国会に提出した。
− 新しい年齢差別法への憂慮
年齢差別を禁じる新しい法律は、高齢者の雇用に否定的な影響を及ぼしている
04年5月1日、年齢に関する均等待遇法が施行された。この法律は、募集と選抜、労働条件、解雇に関して、「客観的に正当化される」場合を除いては年齢制限を禁じている。
均等待遇委員会は法の実施を監督し、持ち込まれる苦情を処理している。この法律が導入される前は、差別されていると感じる高齢者は、どんな形の差別も禁じている憲法第一条に訴えていたが、実際には利用しにくかった。
− アウトソーシング協約
ホテル・料理調達産業の賃金支払事務企業であるバン・デル・ノルトが6,000人を対象とする団体協約を結んだ。この企業は主としてホテル・料理調達部門から従業員を採用し、ついでこれらの従業員をもとの使用者に戻して雇用している。この企業は、FNV加盟のホレカボンド・ホテル・料理調達組合と団体協約を締結した。協約は従業員に訓練の予算を与えることになっている。また、年金の取り決めの改善および病気の場合の追加賃金規定が含まれている。(坂本満枝)
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