スウェーデン統計局(SCB)は国内の総人口が900万人に達したと、2004年8月12日に発表した。また、10月21日には、内閣改造が行われ、新内閣が誕生している。新内閣は男性・女性ともに11ずつの“男女平等”内閣で、平均年齢は46歳と若い。最も若いのは30歳の教育担当大臣で、最年長は、副首相の62歳である。
9月に発表されたILO調査によると、スウェーデンの労働者が世界で最も恵まれているという結果が出た。この調査は、90カ国を対象に7つの項目(労働市場、雇用、職安全、労働、技能再生、表現の各安全保障)から経済安全保障指数を算出した結果、1位がスウェーデン、2位フィンランド、3位ノルウェーで、日本は18位、アメリカは25位となった。
また、年末のスマトラ沖地震・津波では外国人として最大級の犠牲者を出し、国民は悲しみに沈んだ。日の光に憬れるスウェーデン人にとってタイは人気の観光スポットである。
■ EUの拡大と企業・雇用の海外移転
EUの拡大とともに生産・雇用の海外移転も本格化している。サーブ(Saab)は本格的に中国進出を開始している。サーブはGMの傘下ではあるが、北京と上海に合計5店舗を開き、GM車の販売はせずに、サーブのみで勝負をかけるという。また、スウェーデン輸出業協議会の調査によると、輸出業界の3割はスウェーデンを離れてより人件費や管理費のかからない物価の安い国へ会社や工場を移転する考えがある。また、輸出業界以外の企業においてもおよそ2割が物価・人件費の安い国々への移転を考えており、スウェーデンでも産業の空洞化が始まりつつある。移転先は中・東欧や中国を挙げている会社がほとんどである。ただし、スウェーデン産業界はこの空洞化に対して楽観的に捉えているという。たとえば、今後、中国などにスウェーデン輸出業が進出すれば中国・スウェーデン両国の経済が伸びるとみている。
スウェーデンの家電メーカー、エレクトラックス(Electrolux)社は2005年2月に、コスト削減案として自社の生産拠点を生産コストの低い地域へ移転させる方針を発表している。エレクトラックス社は過去5年間で、事業の売却や閉鎖により、すでに1万人の人員削減を行っている。サーブ社も国防省からの軍用機関連の発注が減少しており、航空機部門の縮小、人員削減が予想されている。スカニア社は、中東欧諸国への生産ラインの移転と国内のレイオフを同時に計画している。エリクソンも生産集約のためニィネスハムン工場の閉鎖を決定している。
民間部門のなかで、特に深刻な状況になっているのは工業部門に部品を納入する下請企業である。発展途上国で低賃金労働者を雇用する企業との競争に敗れ、多くの企業が倒産した。零細企業だけはでなく、より規模の大きな下請企業も経営は厳しい。
スウェーデン政府によると、2004年のGDP成長予想率は2.6%、2005年は2.7%という順調な経済成長が予想されている。しかし、経済の成長とともに通常低下するはずの失業率は依然5%台で高止まりしており、雇用なき経済成長(jobless recovery)が問題になりつつある。スウェーデン職業安定所の2004年7月の統計で、全国の失業者数は278,000人と報告された。これは労働年令人口の6.1%にあたり、90年半ば以来最高の数値である。
雇用なき経済成長は、近年の“生産性の上昇”や“休暇取得方法の変化”とも密接な関連がある。労働市場庁(AMS)によると、従来スウェーデンのほとんどの産業では7月頃に3〜5週間のまとまった休暇を設定して、職場を閉鎖するのが一般的であった。しかし、現在では厳しい生産競争を背景として、製造業分野の多くが夏期休暇期間中もフル稼働させ生産を行っている。その中で従業員は、休暇が集中しないように各自が調整した上で長期休暇を取得するか、あるいは細切れの休暇を取得するようになっている。
■ 雇用・失業
2004年7月、労働市場委員会(AMS)は、2004年及び2005年の労働市場予測に関する報告書を発表した。それによると、スウェーデン経済は、輸出資本投資、民間消費支出の好調に支えられて成長を持続すると予測している。この経済状況は徐々に労働市場にも波及し、失業率は、2003年の4.9%から2004年には5.6%に増加するが、2005年には5.1%まで低下し、失業者数と積極的労働市場政策プログラムの参加者数を合計した総失業率は、2003年の6.9%から2004年に7.9%へ増加した後、2005年には7.2%まで低下するとしている。
若者が働き出す時期がますます遅くなり、逆に中高年層の退職時期が早まってきている。労働市場省の統計は、2030年までに、さらに45万人の雇用をしないと産業経済維持が上手くいかなくなるとしている。その原因としては、1つは中高年層が、55歳を過ぎた頃から退職者が増え始め、退職まで勤務しているのはわずか3分の1である。50歳を過ぎた頃から勤務時間を2割・4割減らす人も多いことである。もう1つは、海外生まれの移民に関してはスウェーデン国内での就職に時間がかかり、またスウェーデン人の若者に関しては高等学校卒業後の充電期間がより長くなってきている点で、就職時期は平均で25歳前後となっているが、この時期の遅れが問題となってきている。
スウェーデン企業連盟は、2004年に国内総生産(GDP)の1.8%成長、2005年に2%成長と、2003年の1.4%成長を上回る成長を予想している。しかし、失業は今後増加すると見込んでいる。生産が増えても雇用の増加が伴わないという状況が続くことになる。
失業が問題になっている一方でスウェーデン企業連盟によれば、有能な人材が確保できない企業が多い。同連盟に加盟している企業の22%が、有能な人材が不足しているため、受けた受注を断らざるをえなかったという。
■ 不足する人材
<産業界が人手不足>
労働市場省によると、多くの産業界や技術関連企業が今後5年間に事業を拡大していくことを既に決定しているが、産業界に将来就職を考えて大学で学科を専修する者が減ってきており、将来同業界で新規採用者を募る際、この分野の知識を学んできた学生を確保することが非常に難しくなるという。今後5年間に退職する職員は相当数にのぼることは確かであるが、退職者数を埋めるだけの新規採用は現時点で非常に難しく、この将来の問題点を解決できない場合、スウェーデン経済に打撃を与えることは間違いないとしている。
<医療関連の資格保持者に高い需要>
単科大学庁の進路調査によると、看護士、医師そして薬剤師の資格保持者が学業終了後に早く確実に職を得ることができる、高い需要がスウェーデンに依然あることが分かった。
<技術者の失業率回復>
土木工学技術者組合の統計によると、国内における技術者の失業率が下がってきている。組合のメンバーの3.1%、2,378人の技術者が5月時点で失業中であるが、1月から4月にかけての失業率が3.2%であったことから、ゆっくりとしかし確実に失業率が減り続けているとみられている。多くの企業が今日、技術者採用に乗り出しており、例えば技術コンサルタント会社のEpsilonは計測士、医学技術、生物技術などの分野に長けた技術者100人を国内30ヵ所で募集している。
<外国人労働力が必要な建築業>
スウェーデンの建築業界は常に人手不足に悩まされてきたが、多くの中高年労働者が退職する数年後にはさらに深刻な人手不足に見舞われることは明らかだ。慢性病のように続くスウェーデンの住宅不足を少しでも和らげるには建物を建てなければならないが、誰が建てるのか。解決には海外からの労働力に頼る他ないというのが現実である。外国人労働者を雇用する際にも、スウェーデンの労働基準法にのっとった形で雇用するため、安い賃金で違法に就労する不法外国人労働者を寄せつけない環境だが、人口が増加の一途を辿っているスウェーデンの住宅事情を改善するには外国人労働力の手を借りる他ないようだ。
<将来の教師不足必至>
教育省の目標の1つに、2010年までに就学前学校の教師のうち65%が大学卒業レベルの資格をもつことを掲げてきたが、現在の状況をみると2人に1人も大学出の資格を持っていない。教育省の調べでは、2010年までに就学前学校に不足している教師2万9千人を新たに雇用する必要がある。今後も大学卒が必要条件となるなら、なおさら教師数の不足問題は深刻化する。そのほか基礎学校と高等学校の教師は新規に6万7千人を2010年までに雇用する必要があるが、いずれも深刻な教師不足となることは必至である。
■ 深刻さ増す労働市場
<多くの企業が新規採用を見送る>
スウェーデン統計局は10月に国内324企業の今後6ヵ月の新規雇用状況をまとめたが、それによると半数以上は今後6ヵ月以内の新規採用はなし、または人員削減を段階的に行っていく必要があると答えており、先行きは必ずしも明るくない。唯一、医療・介護関連の職業においては今後も継続的に求人を行っていくと答えている。
<若者に厳しい労働市場>
今日、スウェーデンにおいて、学生を除く25歳以下の5人に1人が失業中である。EU25カ国中でスウェーデンの25歳以下の失業率は12番目に高い。2004年6月スウェーデンの25歳以下の失業率は17%で、2003年6月の14%より大分増えた。25歳以下に限らずスウェーデン全土の失業率がここ10年間で最高の6.1%に達したのは7月であり、若者には今後さらに厳しい労働市場が訪れると考えられる。
<コンピュ-ター部門の求人先>
Dagens Industriの調査によると、スウェーデン企業の6割は現時点で、人件費削減を主な理由とする海外進出を真剣に考えているとし、それが現実のものとなるまでに5年もかからないとみている。最も早く影響を受けるであろう部門はコンピュ-ター部門であるが、同部門だけでも、この5年以内におよそ15,000人がスウェーデンにおいて職を失うことになる。その際、スウェーデン企業のコンピューター部門が移転先に予定しているのは、他のヨーロッパ諸国のようにインドや中国などアジア諸国ではなく、東欧諸国が移転先の筆頭にあがっている。
<人員削減>
トゥロルヘッタン市のサーブでは、金属加工部門の300人と営業部門200人、合計500人に対し解雇通告(2005年上半期まで)を行うことになる。
2005年1月、紙製食卓用ナプキンやテーブルクロスで大手のドゥーニ(Duni)社が労働者210人を一斉解雇することを発表した。生産体制はすべてポーランドとドイツに移転する。ポーランドではスウェーデン人の給料の5分の1で従業員が雇え、年間4,000万クローナ(約5億9600万円)の人件費削減が可能だという。解雇通知したドゥーニ社は同日ポーランドやドイツで100から150人の従業員の募集を開始している。ドゥーニ社の労働者のほぼ全員が住むDalsland地域ではこの一斉解雇により深刻な問題が起きることが今後予想されている。
Vin&Spirit社はSystembolaget(酒類専売公社)への卸業者の国内最大手であるが、EU委員会からの勧告をよそに、政府は酒税の引き下げを行う気配はなく、酒類専売公社の売り上げ回復は見込めないことから、人員の削減に乗り出すことになった。
<病欠勤が減ったVolvo>
スウェーデン国内のボルボグループ全体(国内:26,000人)の病気による欠勤者数が2002年度から2003年度にかけて,6%から5.3%へ減少した。また、病欠者に支払われる病欠給付金の合計額は5年前の4分の1に減った。
■ 雇用対策
ヨーラン・パーション首相は、8月初め、失業情勢に関し、現状は許容しがたく、積極的労働市場政策により資源を投入することを表明している。スウェーデン労働組合総連合(LO)も労働大臣に積極的労働市場政策の拡充を要請している。不況期には、公共部門における雇用創出が期待されるが、現在、地方政府は財政赤字を抱えており、雇用拡大は期待できない。多くの地方政府は、離職率の高いケア部門などで採用を手控え、自然減による人員削減を行っている。首相は、地方政府が、少なくとも職員の雇用を維持し、さらに多く採用できるくらいの補助金を出すことを表明したのである。
労働市場庁(AMS)は、今後は失業者を民間のサービス産業等の成長分野へ再就職させていくための職業訓練や雇用助成金が必要になるとして、新たな予算の獲得や新規プログラムの立ち上げに取り組んでいる。また、政府は2004年中に15億クローナ(約225億円)を、そして2005年には60億クローナ(約900億円)、2006年には70億クローナ(約1050億円)の予算を各地方自治体や州議会にかけ、現在深刻な財政難にある地方自治体により多くの教職員や看護士の採用を促している。
<高齢者福祉、人材教育に国家予算投入>
スウェーデンの高齢者福祉を支える介護職員の40%が専門教育を受けていないという。高校の福祉看護科を希望する若者が減少する一方で、将来この分野における人手不足やサービスの低下が懸念されている。若者のこの分野における職業離れの原因の1つに、充分な教育制度が整っていないためキャリアアップが難しいということが挙げられる。そのため、国会は2005年から2007年の間に人材能力開発予算として1050Mクローナ(約157億円)を投資することを決定している。
<政府系機関への求職は匿名で>
政府系機関への求職を匿名で応募できるように政府は匿名制度の導入を検討している。応募者は2枚の用紙のうち1枚目に自己アピールを、2枚目に個人情報を記入する。採用者は、応募者が面接に呼ばれるまで2枚目の封筒を開封しない。応募者が名前や年令、性別、出身地を明かさずに応募することによって、人種差別や年齢、性差別をなくし公平に応募者を評価することができる。外国人の雇用を促進し、多様性を許容する社会を確立することがねらいとされている。この匿名制度は一部のコンミューンで試験的に導入される。
■ 労働時間
<育児休暇を取りづらいLOの父親>
LOの調査によると、LOに所属する小さい子どもを持つ父親で2ヶ月未満の育児休暇をとったのは29%だったのに対し、SACOに所属する父親で同じく2ヶ月未満の育児休暇を取ったのは48%であった。LO、SACO両方の父親に共通することの1つに、なぜ約4ヶ月以上取れる育児休暇を2ヶ月未満にしたか。その理由は、収入の多い父親が母親の代わりにあまりにも長期に渡って休暇を取ることで生じる経済的な問題があった。また夫婦がお互いに平均以上の収入を得ている家族では、父親と母親がほぼ同期間育児休暇を取っているのに対し、夫婦のうち片方が働いている、もしくは夫婦共働きでも収入の少ない家族では父親よりも母親の育児休暇期間がずっと長いことも分かった(父親が育児休暇を取らないことも多い)。
<7月の夏期休暇取得者減る>
Jobline Monster社の調査によると、以前は7月一杯休みを取る人が多かったが、2004年は僅か15%のスウェーデン人しか7月を中心に休みを取っていない。全体の55%が6月のほとんどを、または6月から7月上旬にかけて休みを取ったことが分かった。また、24%が7月下旬から8月にかけて3,4週間のまとまった休みを取っているようだ。この理由は気候の事情やオリンピックなどの影響と考えられている。
<幼稚園児に夏期休暇を強制>
マルメの南部スヴェーダーラー自治体はスウェーデンで初めて、就学前学校に通う子どもたちに夏休みを取らせることを決定した。同自治体では幼稚園に通う子どもに夏の間の4週間、しかも連続した夏休みを親とともに過ごすことを2004年から実行することとなる。この背景には、親が夏期休暇中あるいは失業中や病欠中で実際働いていないにも関わらず、子どもを普段と同様に朝から夕方まで幼稚園や保育園に預け、自分達の休暇を子ども抜きで楽しむ親の数が増え続けてきたことがある。スウェーデンの就学前学校全体で同様の問題が発生している。今回の強制夏期休暇は、自治体が就学前学校を運営していく上での経済問題もある。また、そのためより多くのスタッフが必要となったり、正規スタッフが夏休みを取り辛くなるという新しい問題が生じている。
<Volvo、夜間シフト導入の論争点>
ボルボ・トーシュランダ工場では、乗用車生産量を18万4000台から25万台へと大幅な増加を図るための投資計画を立てている。また、労働効率を増加させるため2005年秋には従業員の夜間シフトを導入することを検討しているが、夜間の作業はけがを起こしやすく能率が落ちること、また深夜手当などの給料にかかるコストなどが課題となっている。自動車製造のような大型機械作業は職務中の怪我を起こしやすく、トーシュランダ工場では常に平均約10%の従業員が怪我のため欠員している。そのうち6%は長期間の休業者であり、病気による欠勤届提出中の従業員の手当にかかる費用も無視できない。夜間シフトの代わりに変形労働時間制を導入し現在のベルトコンベアの休憩時間による1日3回の停止を廃止するだけでも1日当たり102台多く生産できるという点を含め、現在検討されている。
<勤務時間を更に短く>
勤務時間削減も2004年国会の話題の1つであった。左党は現在の1日8時間労働をさらに短くすべきと躍起になっている。労働省大臣は左党に対して消極的で、労働時間短縮は非情に困難なものであり、数年の内に時間短縮を行うことは不可能であるとしている。しかし、2005年から2006年にかけて5,000万クローナ(約7億5000万円)の予算を組んで実際に数百人を試験的に1日6時間ほど働かせ、いかなる成果が出るか、またどんな問題が起きるかなど試すことが既に国会で決定済みである。国民党は逆に週当たり3時間ほどの勤務延長の必要性を訴えている。ついに6%に達した失業率や、子ども人口の減少により起こりうる将来の年金問題などに歯止めをかけるために勤務時間の延長が必須であるという。
■ 賃金
<一番安い製造業界の給料>
製造業労働組合の調査によると、北欧において製造業の給料が最も安い国はスウェーデンである。1975年当時、スウェーデンの製造業の給料はスカンジナビア諸国のみならず西ヨーロッパ全体でも最も高いものであった。しかし、2003年の調査をみると、スウェーデンの製造業界の給料は西ヨーロッパ内でちょうど中間ほどのものであるが、スカンジナビア諸国内では時間給202クローナ(約3000円)でスウェーデンの製造業が最も安い。西ヨーロッパ内では、ポルトガルが最も安く時間給55クローナ(約820円)、そして最も高かったのはノルウェーで時間給262クローナ(約3900円)であった。
<ヨーロッパで最も高価な労働力を持つ国>
スウェーデンの労働力がヨーロッパで最も高額である。ヨーロッパ統計事務所が1996年から2002年度にかけ現在のEU25ヵ国のうち21ヵ国について、人件費の進展具合について調査してきた結果。調査対象となった部門は産業界とビジネスマンや公務員を含むホワイトカラーであり、給料、社会保障費、雇用税、経費などすべての支出を含んだものを各国の比較調査をする際の尺度としている。2002年のスウェーデンの総人件費は一月当たり4072ユーロ(約55万円)で最も高額で、次にデンマーク3922ユーロ(約53万円)が高かった。逆に低かったのは、リトアニアの361ユーロ(約4万8000円)、ブルガリアの194ユーロ(約2万6000円)などであった。この調査結果は2002年度のもので当時EUのメンバーでなかった国々も調査対象となっている。
しかし、着眼点を変えて、給料だけに目を向けると調査結果は変わってくる。時給計算するとデンマークが最も高く29.1ユーロ(約3930円)、ついでスウェーデンの28.7ユーロ(約3870円)、そして3位にドイツの26.9ユーロ(約3630円)となる。つまりスウェーデンは他国と比較すると給料以外の社会保障費や雇用税が高い。このようなこともあり、1990年初頭に産業の海外移転が始まり、昨今ではスウェーデンの産業の空洞化は加速の一途を辿っている。
■ 労使交渉
各産業で対決色の濃い労使交渉始が行われた。各産業の労使交渉の進展状況を時期を追ってみておきたい。
<製造業で賃金合意>
SIFと技術関連会社は今後3年間に及ぶ新しい賃金協定に合意した。この合意によると、5.8%の賃金アップで、今後SIFは同時に労働時間8時間の短縮を要求していく予定だが、この時短要請は今回の3年合意には現時点で含まれていない。しかし、年間有給休暇を数日増やすことでは既に合意している。SIFの組合員が最も重視している点は賃金アップで、今後3年間にわたり各個人の月給を最低675クローナ(約1万円)上げることであった。
特にSIF女性組合員は男性と女性の賃金格差に触れ、将来的にこの賃金格差をなくすことを強く要請すると同時に、女性が育児休暇中に賃金アップがなされた場合には職場復帰後にその新賃金を得ることが出来るよう訴えている(現在では、育児休暇中に賃金アップがなされた場合、復帰する時には、その本人の賃金アップは認められず過去の賃金を得ることになる)。
<建設業で新合意>
4月に建設業界において新しい合意がなされたが、新合意とはいえ内容はほとんど以前と変わらず、今後19ヵ月に渡り旧合意内容の延長をすることが主だ。建設労働組合は他の業界が取った3年超の合意を獲得できなかった。同業界は常に生産業の最低賃金と同額程度にあり、今後19ヵ月の間にも話し合いは続行するものとみられている。
<鉄道職員に新合意>
SEKO(組合員165,000人)と雇い主であるAlmegaにおいて賃金に関する最終合意がなされた。この合意はSEKO会員である鉄道職員1万5千人に向けたものである。フルタイムで働く鉄道職員1万5千人に対して月450クローナの賃上げを今後3年間保障するというのが今回の主な合意内容である。
また、パートタイムで働く鉄道職員に対しては、2005年までに給料を2.4%アップ、そして翌年2006年までに2.5%アップとすることで合意した。現在、18歳以上の鉄道職員の最低額面月収は12,970クローナ(約19万4500円)だが、2005年4月以降は13,260クローナ(約198,900円)に、そして2006年には13,700クローナ(約20万5,500円)となる。
<囚人のストライキ>
4月マリーフレッド刑務所において囚人50人によるストライキが行われた。同刑務所長の決断により、囚人の中庭への外出を禁止されたのと同時に個人で使用できる洗濯機を撤去されたことに対するストライキである。中庭への外出禁止を決定した理由は、外部より投げ込まれる薬物・麻薬等を所内に持ち込ませないのが主な目的であるようだ。各囚人に個室、ベッド、机やテレビ(インターネット除く)等が与えられるスウェーデンだが、麻薬は別である。
<地方自治体職員組合(Kommunal)がストライキ>
Kommunalは6月25日より医療介護職員1万5千人が部分ストライキに入ると発表した。Kommunalが使用者に提示した要求(月480クローナ=7,200円の賃金アップ)に関して交渉決裂したのが原因である。交渉の解決は容易ではないようである。医療介護施設で働く1万5千人職員の賃上げが論点となっている。
<パートタイム消防士のストライキ>
スウェーデンにおいてパートタイムで働く非常勤消防士は1万2千人に及ぶが、そのうち9千人がストライキに突入するであろうと、スウェーデン消防士協同組合は地方自治体に対し警告している。組合はパートタイム消防士に対してより良い保険を保障するよう地方自治体に要求している。
<ストライキ回避>
劇場・映画館労働組合は、今後3年間に渡り、劇場・映画館の機械エンジニアに対する給料を月当たり450クローナ(約6,700円)上げることで合意し、予定していたストライキを中止した。
運輸及び輸送業労働組合は、労使間の4ヵ月に渡る交渉にようやく決着をつけた。それによって予定されていたストライキは回避されることになった。今回合意に至った労使間団体協約によると、39ヵ月以内に現状より9%引き上げる形で賃金調整が行われる。
10月25日、SEKOとAlmegaの間で持たれていた労使間交渉が合意に至った。これによって予定されていた郵便局従業員のストライキは回避されることになった。今回締結された団体協約は2007年9月まで有効で、主に賃金体系が改善された。新協約に含まれる主な内容は、3年間の全体的増額を7.3%とする、最低賃金については初任給が月額14,000クローナ(約21万円)で段階的に3年間で1万7,500クローナ(約26万円)まで増額させる、3年間の賃上げは2.4%−2.4%−2.3%とする等。
<航空運輸労組、新賃金協約締結>
スカンジナビア航空(SAS)は、10月に航空運輸労組との間で、新賃金協約を締結した。同労組はストライキを構えて交渉に臨んでいた。スカンジナビア航空側は、パイロット及び客室乗務員との間で合意した3年間の協約と同様、航空運輸労組に賃上げの凍結と労働時間の延長を要求していた。
新協約は、2004年10月から2007年末までの39ヵ月間、主に手荷物を扱う3,000人のブルーカラー労働者に適用される。協約期間の賃上げは合計7.9%、賃上げ額は、毎年500クローナである。協約は賃金に関してのみ結ばれており、使用者が要求していた労働時間の延長は含まれていない。
<ST(政府従業員組合) 新しい労使間団体協約まとまる>
LO傘下のSTと使用者は8月30日、ようやく労使間交渉の合意に至った。今回締結された団体協約は2004年10月1日から2007年9月30日まで有効で、協約期間内に7.3%のベースアップと下限額700クローナ(約9,000円)を各個人に保証する。対象は軍労働者、警察官と社会保険事務所の職員などST組合員およそ10万人である。
<ストライキ>
2005年1月にはスウェーデン電機技師連合(SEF)の60人がストライキに突入した。エネルギー会社雇用主組合(EFA)との間で主に最低賃金の確保に関して交渉を行ってきたが解決をみなかった。EU加盟国が増え、旧東欧諸国からスウェーデンに進出してきた電気会社の増加にともない、彼らの安い給料にならってスウェーデン人電気技師の給料を引き下げることを阻止し、最低賃金を確保するよう求めている。
SACO傘下のSFBF(商船乗務員のための労働組合)はストライキを構えて賃上げから労働条件の改善などについて約20項目の要求を掲げて労使交渉を続けている。
<教員、労使団体協約まとまる>
教員労働組合と全国教員労働組合は2005年3月10日、新しい労使間団体協約を締結した。今回締結された協約は2005年4月1日から2007年6月30日まで有効で、2005年から2006年までの間にコミューンレベルで最低2%の賃上げを保証する。この協約では、2007年10月1日までに、幼稚園教諭と余暇活動教諭、小学校教諭の最低賃金を1万8,800クローナ(約289,520円)に引き上げる。対象はコミューン及びランスティングの教員で、総会員数はおよそ20万人である。
■ 健康・安全
<ボルボ、新入社員に薬物テスト>
2004年春からボルボは営業・技術・生産すべての新入社員にアルコールまたは薬物テストを行うことを明らかにしている。人事部長はボルボは現在特に他の産業などに比べて問題はないが、今後は入社前に薬物テストを行うことで前もってアルコール中毒者や薬物中毒者を内部に取り込むことを避け、さらにそれが職場の雰囲気をより良いものにし、かつ社員全員の勤労意欲を掻き立てるであろうと睨んでいる。また、これが社会に対しボルボの信頼性と安全性をより高いものにするだろうとみている。今後は新入社員のみならず順次、全社員を対象にこの薬物テストを実施していく予定だ。
<男女不平等の労災認定>
同じ様な負傷・病気をしても、男性より女性のほうが労働災害に関してその認定を得ることが難しい。例えば、肉体労働をする男性が怪我をした場合、即座に労災認定がおりるが、老人介護を日々行う女性が老人の世話をしているなかで、じわじわと得た腰痛や関節症は労災と認めづらい。2001年、1万3,300人の女性が労災保険の申請をしたところ、認められたのはおよそ3分の1であった。一方、1万4,900人の男性がほぼ同じ内容の負傷や病気が原因で労災保険の申請をしたところ、実に半数以上が認可されたことを労働生活研究所は突き止めた。調査は男女ともほぼ同様の腰痛、肩こり、関節痛、頭痛、精神通ほかなど、負傷・病気が対象であるが、調査結果によると、女性より男性の方が労災認定が下りやすいことが分かった。理由は明らかではないが、現在のところ男性にはより確かな安全管理者がついていることが挙げられている。また、労災認定をする側が男女差別をしている可能性、もしくは男性は重労働で、女性はそうではないといった伝統的な偏見の下に判断している可能性がある。
■ ジェンダー
<男女の給料格差>
LOの経済学者Anna Thoursieは、いかなる理由で女性の給料が男性の給料より悪いのかについて報告書をまとめた。女性に限定されている職種、例えば介護に携わるスタッフに関して将来的にそして段階的に給料が男性の給料と比較して妥当であるレベルに達するまで上げていかねば、こういった職種に大幅な人員不足が発生することは間違いないし、そうすることで女性の新たな採用に成功し、今後ますます加速する高齢化へ対応できる。これら女性に限定された職場に今後も職員を確保していくために、スウェーデン国民として介護費用をより多く払うか、税金を上げないと多くの人が必要とする介護や医療に関わる現場を取り仕切る女性の確保は難しい。精神的、肉体的にも重労働であるこういった職場を周りがよりよく理解することで男女間の給料格差問題の解決に少し近づくのではないかとLOは報告している。
スウェーデン中央統計局(SCB)も男女間の給料格差について調査を続けているが、基本的に伝統的な女性の仕事は特に低賃金で給料格差が大きく、それ以外の職種でも女性が多い職種はもともと低賃金であることなども分かってきた。女性の平均給料は男性のそれより18%低く、たとえ同じ職種でも男性の給料の方が10%は高いことも明らかになった。男女平等行政監察官はこの現実に落胆の色を隠せない。これはまさに労働市場の男女差別による隔離、または単純に女性の労働力が不当に安く見積もられているのが原因とみている。また、女性の多くが公務員として働いており、私的企業に勤める多くの男性の給料と比較すると賃金アップが困難であることも考えられる。男女平等行政監察官はこういった事態を考慮しながらも男女間で根付いた職種格差をなくすことが給料格差問題解決に結びつくのではないかと期待している。
<初の女性向け道路整備士コース始まる>
8月からスウェーデンで初めて女性向けの道路整備士(主にアスファルトによる道路舗装)養成の2年間教育コースが始まった。建設業界の大手、SKANSKA社による協力もあり、今回の新しいコースには全国から280人の応募があり、その中から40人が選ばれた。SKANSKA社では、現在750人の男性に対してたった一人の女性がアスファルト舗装作業員として働いているが、実際の仕事内容をみると重労働というよりはむしろチームワークが非常に重要な仕事であることから、女性作業員の採用を積極的に行う運びとなった。典型的な男性の仕事であったアルバイト舗装作業員の仕事は、男女給与格差のいまだ残るスウェーデンにおいて女性が男性と同額の給料を稼げるユニークな職種となることは間違いない。
<パートタイム労働者>
LOの調べによると、労働時間の少なさに不満を抱くパートタイム労働者が全国で23万5,000人いるという。この不満は、コンミューン職員とホテル・レストラン業界や販売業に従事する若い女性に特に多い。希望するパートタイム労働者がフルタイムで働く権利を有するように、現行の労働法を見直すべきだという声が上がっている。
<職場における男女平等の意外な側面>
国連開発計画(UNDP)の2004年度版人間開発報告書によると、スウェーデンはノルウェーに次いで世界で最も平等が進んだ国であることが分かった。カテゴリー別にみていくと、労働市場における男女の賃金格差はスウェーデンが最も少なく、また国会議員を女性が占める割合は、45,5%と高い数字を示している。それにも関わらず、公的機関及び私企業で、重役職に女性を登用している割合は31%と低く、24位となっている。ちなみに、このカテゴリーの上位3ヵ国は順に、フィリピン、コスタリカ、フィジーである。
<女性の取締役採用率で2位>
SEB銀行の新しい最高経営責任者として、初めて女性が指名された。指名されたAnnika Falkengrenさんは勤続17年の42歳という若さである。2006年1月1日に就任が予定されている。
スウェーデンはヨーロッパにおいて女性を取締役に採用する頻度が2番目に高い。一番はノルウェーだ。European Board Women Monitor2004はヨーロッパの主要企業270を選び、その各企業における女性の取締役の採用率について調査した。その結果、スウェーデンの企業では、取締役のうちおよそ20%が女性であった。スウェーデンをしのぐ女性の取締役採用率を誇るのはただ一国、22%を示したノルウェーだけであった。しかしノルウェーでは、各企業の取締役会に一定率の女性を入れなくてはならないという法律があるので、実質、スウェーデンが法律という強制外で女性の取締役会への採用率がヨーロッパ1位と言っても過言ではない。ところでこの調査の全体の平均値は、8%であった。もっとも低い国はイタリアの2%、ベルギーの3%などであった。
<男女平等、まだまだ前途多難>
「重要役職へ女性の登用を、目標は2人に1人」。1994年に当時の首相イングヴァール・カールソンの掲げた公約は、10年経た今尚、達成されていない。官選によって任命される重要役職(総長、レーン知事、博物館長や大学学長)のうち、女性が占める割合は全体の34%にすぎないという。男女平等問題を司るモナ・サリン大臣は、14年前は女性の割合が3%にも満たなかったことを考慮すれば進歩はしている、前進あるのみとコメントしている。
<両親保険の見直し案>
男性の育児休業制度利用を促進させるため、両親保険の見直し案が政府によって検討されている。現行の育児休業制度では、両親保険によって、休業直前の8割の所得を390労働日にわたり保障している。見直し案は、カップルがそれぞれ平等に育児休業制度を利用する場合に限り9割の所得(ただし上限金額あり)を保障するというものである。この「男女平等へのボーナス案」はTCOが2001年から提唱してきた。
<フェミニストの党への期待>
元左翼党女性党首のGudrun Schymanは左翼党を脱退後、フェミニストの党を結成する準備に取りかかっている。
■ 移民・外国人問題
<スウェーデン人と外国人の就業格差>
政府の発表ではスウェーデン人と外国人との就業格差は年々広がっているという。スウェーデンに滞在もしくは永住している外国人の10人に6人は学位に適した職業に就いているものの、その他の4人に関しては母国での学位または専門がスウェーデンにおいて認められておらず全く異なった職種に就いていることが解った。関係省の局長は、これらスウェーデンに滞在している外国人で、各国において学位のある者や専門家や技術者の多くが適した職種に就いておらず、エンジニアが清掃作業員として働いたり、医師が保育しとして働かざるを得ない状況があるのは国としては財産を失っているのと同じであると話している。同省の報告によると、スウェーデンに滞在している外国人技術者・学位保持者のうち3万人が失業中ということで、今後、いかにしてこの就業条件格差をなくし外国人の雇用拡大を図っていくかが同省の課題であるとしている。ちなみに、スウェーデン人学位保持者の10人に8人は学位に見合った職業に就いている。
<子どもを貧困から救う>
現在、およそ15万人の子どもがスウェーデンにおいて経済的困難にあるという。スウェーデン政府はこの問題を決して見逃すことのできない重要な社会問題とし、今後、社会福祉事業の見直しをすると同時に、特に子どもの貧困が多くみられる外国人片親家族の援助を強化していく方針を決めている。外国人の片親とその子どもに多くみられる経済的困難の原因の1つに、例えば、彼らが職についたことがなく、そのため失業保険手当が受け取れないことなどが考えられる。また政府は子どもが16歳を迎えるまで毎月支給される子ども給付金額の上乗せや外国人片親家族への特別子ども給付金など、この社会問題解消に向けて思い切った改革に乗り出す。2004年の春、政府は既に10億クローネ(約150億円)の予算を組み、すべての片親家族への給付金として割り当てることを決定している。また政府は、これら子ども給付金が実際にどのようにして家庭内で使われているのかなど、社会福祉事業と連携して独自の調査も行う予定である。親が家賃を払えないなどの理由で家族共々家を追い出された子どもの数は昨年1年間だけでも実に2,000人を超える。
<やっぱり多かった労働許可申請者の数>
移民局が正式にまとめた統計によると、5月1日から8月31日までの間の労働許可申請者の数は、2017件で前年比74%の増加である。最も申請者が多いのは、ポーランドの1,113件で、バルト海沿のリトアニアとエストニアが次に多い。予想よりも多い申請者に、移民局は戸惑いを隠せない様子だ。
■ 労働組合
<労働組合の再編・統合>
LO傘下にある化学産業労働組合は、8月の会合で、満場一致により金属労働者労働組合(Metall)と合併する意向であることを示した。9月に予定されているMetallの会合で、Metall側も合併の意向を示せば、2006年1月に新しい組合が発足することになる。今回の合併の背景には、両組合とも過去10年間で総勢10万にも及ぶ組合員を失って、組合として弱体化したことが理由の1つとして挙げられる。もしこの2つの組合の合併が実現すれば、総組合員数は47万人、LO傘下で2番目に大きな組合となる見込みである。
<新しい労働組合誕生>
LO傘下の地方自治体労働者労働組合(SKTF)に不満のある消防士達が結束し、独立した新しい労働組合を創設することになった。指導者の1人は、大きな組織の中で少数派の要望を受け入れてもらえることに限界を感じていたという。独立のねらいは消防士の結束を固め、労使交渉をスムーズに運ぶことにある。
■ EU加盟にともなう労働問題
<EU新規加盟国の労働者受入制限案、議会が否決>
2003年末までにパーション首相は、新規加盟国からの労働者の受入に一切の制限を課さないことを宣言していた。しかし、国内経済の停滞と失業率の高止まりが続くなか、何の制限も課さずに安価な労働力が大量流入した場合の賃金低下や、外国人労働者による社会福祉サービスの不正利用増加を懸念する声が高まっていた。そのため政府は、急遽3月に政策の転換を行い、新規加盟国の労働者に対する受入制限案を議会に提出した。しかし、この提案は議会で激しい討論の末、182対137で否決された。
この政府の制限案に対して、経営者団体は反対を表明した。労働組合は、産業により反応が異なっている。外国人労働者の大量流入による雇用喪失と賃金の低下を警戒する建設業や運輸・交通関連の労働組合は、制限案に原則賛成を表明していた。
スウェーデン政府は今後、受入制限措置を実施した場合の労働市場への影響力を検討する調査委員会を設置し、2006年3月までに結果をまとめる予定である。
<違法労働者に注意>
建築物労働者組合は建築主などに対し、違法労働者に注意するよう警告を発している。スウェーデン南部を中心にポーランドやバルト3国からの違法労働者が住宅などの建築現場で働いているが、仕事の良し悪しは別として、こういった安い建築費を提示する違法労働者によって建築された建物には完成後の保険をかけることができない。
スウェーデンでは施主が建築物件を事前に確認申請し許可を得た後に建築工事開始、工事途中でも現場確認を数回に渡って行うが、こういった細かなプロセスを違法労働者は行わない。また、違法労働者を雇い問題が発生した場合には施主に罰金が課せられることとなる。同組合がこの6ヶ月間、スウェーデン南部スコーネ地方の408の現場を調べたところ、およそ3分の1にポーランドやバルト3国からの違法業者の手が入っていた。
<どちらの労使協約が適用されるべき?>
ラトビアの建設会社とスウェーデンのLOの間で、労使間団体協約について意見が衝突している。このラトビアの建設会社は、ストックホルム市内のコミューンから学校建設を請け負っている。会社は自国労働組合の労使協約に従っているが、スウェーデンの建築・建設業労働組合(LO傘下)は同社に対してスウェーデンの労働協約を適用するよう求めている。
当事者同士の話し合いはもつれたままで、両国の政治家達まで巻き込む程の問題にまで発展している。この件は労働裁判所の判断に委ねられることになるだろうが、EU全体に関わる問題でもある。現在、建設現場はスウェーデンの労組の抗議によって封鎖されている。(猿田正機)
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