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国旗 世界の労働者のたたかい
スイス
2005

 この国には国民投票という直接民主主義の制度がある。04年にはその国民投票が2度行われた。5月16日と9月26日のそれである。前者は政府の年金・税制「改革」案の可否を問うもの、後者は在住外国人の2世、3世の国籍取得の簡素化、および母性保険の成立を求めた2つの政府案と、政府が推進してきた郵便公社「改革」、特にそれの地方郵便局閉鎖に反対する国民側発議(中心は「情報労組」)の可否を問うものであった。この2度の国民投票で政府案は、母性保険と郵便公社「改革」では支持を得たが(郵便の場合は49.8%:50.2%の僅少差)、他はすべて否決された(年金、郵便、母性保険については後述)。
 国民投票の結果が示す政府への異議申し立ての一部に、現政府のかかえる不協和音の反映が見られた。そしてその主要因が右翼政党「スイス国民党」(SVP)の進出にあることは明らかである。03年10月の総選挙でSVPは第1党となり、7人で構成する内閣(連邦評議会)に、「魔法の公式」と呼ばれた半世紀以上の慣例を破って2人の入閣を果たした。こうして議会と内閣が右への傾斜を強めたことの経過は本報告第10集で述べた。不協和音はSVP以外の閣僚がマスコミのインタビューで、SVDからの入閣者、党の最高実力者ブロッハーを公然批判するほどの異例の事態を生んでいる。例えば大統領(首相権限をもつ)を兼ねるクシュパン経済相はあるインタビューで、「クリストーフ・ブロッハーの態度はわが国の民主主義にとって危険である」、SVPは「世論操作」にはしり、国民を「誘導することのできる大衆」とみなしている、と警告した(新チューリヒ新聞、10月3日、日曜版)。この警告が9月の国民投票の直後であることが注意される。
 9月国民投票における国籍取得簡素化案は、両親や祖父母の時代からスイス国内に居住する外国人2世と3世の国籍取得を連邦の統一基準を設けて簡素化しようとする政府案であるが、2世については43%対57%、3世については48%対52%でいずれも否決となった。否決は保守色の強いドイツ語圏の票の結果だとされたが、その中心都市チューリヒはブロッハーの選挙区でもある。SVPは現在、「亡命許可権」の強化を要求している。「スイスは難民にとって非魅力的にならなければならない」とは当人の弁であった。SVPの政治的発言力の増大は、「人材の移動の自由」に関するEUとの双務協定にも影を落としている(後述)。
 さて04年のスイス経済は、輸出が牽引力となって3年来の好況を記録した。労働市場も緩和し、失業率も秋以降に多少の上昇を見たが、平均して3%後半を維持した。しかし他方で04年は企業の倒産と創業がともに戦後記録を更新したと言われ、産業構造の激しい変動が指摘される年でもあった。また連邦統計局の発表では、労働時間は微減を示し、03年のフルタイマーのそれは平均で週41.7時間(1次産業43時間、2次41.4時間、3次41.8時間)となり、過去10年間で13分の短縮だとされた。にもかかわらず、ドイツやフランスで起こった労働時間延長の逆流はスイスも例外としない。機械産業を中心に延長・弾力化の論議が高まっている。関係する労働組合の側からは、労働時間延長は「隠された賃下げ」だとして反論するとともに、これが次年度のハードな協約課題になることが予示されている。さらに労使関係をめぐっては、前述した「人材の移動の自由」協定の問題が、EUの東方拡大を契機にして重要性を高めている。

公的年金制度の改悪を国民投票でストップ

 前年の9月24日に上下両院協議会は「第11次老齢・遺族保険修正」(die 11.AHV-Revision)を可決した。1948年実施の同保険法の11回目の修正が議決された。修正は次の諸点を含む(本報告第10集も参照)。(1)年金財政の「健全化」のために「再建保険料」を設定できるようにする。(2)年金からも保険料を徴収。(3)子供のいない女性にたいする寡婦年金の廃止。(4)子供をもつ寡婦の年金切り下げ。(5)女性の年金受給年齢を09年から男性と同じの65歳に。(6)年金調整をこれまでの2年ごとから3年ごとに(これまで調整は賃金と物価の変動の「混合指数」を適用して行われてきた。法案は物価調整だけにしようとしたが反対運動に押され見送られた)。
 労働組合はこの「第11次修正」が、AHV発足以来はじめての給付削減のためのそれであるとして一貫して反対した。「修正」法成立後の10月5日に、法案に反対した社会民主党(SP)が同法の可否を国民投票に問う方針を決めたのに呼応して、「スイス労働総同盟」(SGB)も10月7日に同じ方針を固めた。11月20日、全国200ヵ所で組合員約1000名が街頭に立ち、国民投票発議のための署名活動を展開した。20日16時から22日16時までの48時間に、署名は8万1000名に達した。「2×24時間」の合言葉が生まれたほどの記録破りの成果であった。「AHV修正法」の場合、国民投票の発議は5万名の署名者で成立する。投票に向けてのたたかいが年を越して続いた。

◆ 署名提出、「ヨーロッパ行動日」、再び「2×24時間」、メーデー ― 国民投票に向けて

 04年1月16日、労働組合、障害者組織、年金者組織、さらには政党(社会民主党、緑の党)などが組んだ幅広い行動同盟の代表が、「第11次AHV修正」に反対する18万7638名の署名を内閣官房に提出した。そのうち15万3638名分が認証ずみの国民投票署名として、残りの3万4000名分は新年に入り実務上の理由から認証手続きに回されなかったため、請願のためのそれとして。請求手続きを受けて、政府は投票日を5月16日と決定した。
 国民投票に向けて賛成・反対両派の宣伝・論戦が続いた。「AHV修正」推進派の3党(自由民主党、キリスト教民主人民党、スイス国民党)は「AHVにイエス(賛成)」委員会を設け、「手遅れにならないうちにAHVを救おう」、「スイスのデモグラフィックな(人口統計上の)発展を見誤り、5月16日にノーを投じて老後の備えのための最重要の柱の1つを危険にさらすのは間違いだ」と宣伝した。国民党は、反対者は「赤いねずみ」だと挑発した。
 対抗する国民投票推進派の動きを、ここではSGBの場合についてかいつまんで報告する。
 4月3日の「欧州統一行動」についてはドイツの場合を述べたが、これにはSGBも参加を表明し、2日、3日の両日、連帯行動を展開した。「AHVから手を引け―第11次AHV修正にノー!」をスローガンにしての共同行動であった。「ヨーロッパばかりでなくスイスでも、市場万能の政治家と企業家が同じ歌をうたっている。賃金が高過ぎる、労働時間が短すぎる、社会保障はもはやまかない切れない、といたるところで判で押したような説教。社会保障こそ経済成長の重要なモーターであることが忘れ去られているようだ」。呼び掛けはまた次のようにも言う。「スイスの労働組合は現在、社会保障と税の公平をめぐる特に重要な対決の場に立っている。だからSGBは、第11次AHV修正と非社会的な税制改定法案に反対する取組みを、欧州統一行動日への寄与と宣言した」と。全国15の都市で宣伝行動が展開された。
 4月22日から24日にかけて、合言葉となった「2×24時間」が取組まれた。22日16時から24日16時まで、全国数百ヵ所で100万の街行く人に話しかけ、「AHV修正」にノーを投じてもらおうとする大行動である。SGBの25日のホーム・ページはこれを次のように伝えた。「スイス労働総同盟の第11次AHV修正に反対する2×24時間行動は完全な成功であった。・・・男女活動家たちの帰還報告は、話しかけられたきわめて多くの人たちが、AHVの給付を削減しようとするもくろみに不安を感じていることを示す。労働組合の活動とあらゆる社会保障削減に対するその反対はきわめて大きくな歓迎を受けた。第11次AHV修正を拒否するSGB、あるいはまた他の組織の代表者たちは、2×24時間で約70万の反対はがきと情報データを配った」と。
 04年メーデーをマスメディアは「近づく国民投票一色のメーデー」と報じた。「どの集会でも社会保障削減と国家の緊縮措置とが時に激しい言葉でさらしものにされ、税制改定案とAHV修正への反対が宣伝された」(新チューリヒ新聞5月2日)。各都市に別れてメーデーに参加した組合リーダーには強い語気が目立ったと言われる。広域労働協約への攻撃が激しくなっていることにふれて、レヒシュタイナーSGB議長は、スイスの労働組合がストライキを再発見することが絶対必要だと訴えた。建設労組(GBI)のペドリナ委員長は、「ボスや社会保障削減屋たちは、連邦評議会選挙後(国民党の2人の入閣―引用者)、いよいよ転機到来と考えた。しかしこれは、たたかう左翼のおかげでこれまで起こっていない」と。

◆ 「SGB国民投票の成功 ― AHV解体にストップがかかった」

 標記は5月16日にSGB(スイス労働総同盟)が出した声明のタイトルである。「これはAHVについての支持表明! SGBはAHV削減修正法に反対する自らの国民投票の成果について大喜びしている。すでに昨年秋の大衆抗議において、そして国民投票のための記録的な署名集めにおいて示されたところが今日確認された。スイス国民は社会保障削減を望まない。彼らは年金受給年齢の引上げを望まないし、年金でのどんな悪化も望まない」。声明は冒頭でこのように述べた。
 5月16日(日曜)の国民投票には3つの発議があった。1つは年金制度改悪反対=「第11次AHV修正法」反対であり、SGBなどの発議によるもの。2つは1に関連してAHVとIV(廃疾保険)の財政補填として政府(連邦評議会)が提起した付加価値税1.8%引上げについての反対発議であり、これは「国民党」(SVP)をはじめとする議会多数派から出された。引上げは企業への追加負担だとの経済界の意向を受けてのものであった。3つ目は政府の税制「改定」案(「税パック」と呼ばれる)への反対であり、これは全く異例だといわれるが州(Kanton)の発議によるもの。「税パック」は既婚者や住宅財産についての税制見直し案であったが、州・自治体側はそれが歳入減を引き起こし、さらに根本的には州の租税高権を侵害するとして反対した。
 国民投票の結果は政府の3連敗となった。「AHV修正法」は各州平均60%強で否決された。ジュネーブでの反対は73.8%に達した。組合声明は次のようにも述べる。「AHVはデモグラフィーからして給付削減をしなくてはまかなえないという主張の誤まりが見抜かれた。有権者は、AHVがそれの憲法上の付託―皆のための生存を保障する年金―を満たそうとするのであれば、それは削減されてはならず拡大されなければならないことを知っている」と。「AHV修正法」が否決されたいま、こんどは組合があるべき年金像を早急に提起する番だ、と声明はその末尾で述べた。
 SGBレヒスタイナー議長は、「第11次AHV修正法に反対する労働組合の国民投票勝利は歴史的次元をもつ」とし、この勝利は「力強く改善された組合の動員力を確証する」と述べた。「年金アラーム」の反対行動を展開し、議会でのAHV審議の中で、「混合指数」を廃止して物価とのみ年金調整しようとするのにストップをかけた03年の「9月動員」(本報告第10集参照)、同年11月の国民投票のための「2×24時間」の署名活動、そして04年4月下旬の2度目の「2×24時間」宣伝行動。議長はこれらをその例証とした。一方で議長は、「国民投票の成果はAHV自体にたいする大成功である」とし、次のように指摘する。「いわゆる世代間紛争というパニック作り、先行き不安カンパニア、あおり立ての数年間ののち、老若・男女スイス人の大多数はAHVへの、したがってまた社会的連帯への感銘深い支持表明を行なった」と。
 議長声明は次のように締めくくられている。「これを要するに国民投票の成果は、議会の多数派が社会的な羅針盤を完全に失ってしまったことの報いである。そして財界上部団体エコノミースイス(economiesuisse)の希望通りに編まれた、古い右寄りの男たちが多数の過渡的内閣は、その新自由主義的な闘争プログラムによって破綻することを認めなければならないだろう。スイスは改革を必要とする、しかし社会保障削減、国家機能縮小ではなく、社会的な、そして社会契約的な改革を」。
 9月24日、政府は05年1月1日から年金を1.9%引上げる調整を行なった。「修正法」が否決されたため、これまで通り2年ごとの、そしていわゆる「混合指数」による調整であった。

母性保険(有給育児休暇)を国民投票で可決

 9月26日に実施された国民投票で政府提案である母性保険が55.4%の多数で可決された。社会保険による働く母親の有給育児休暇制度であり、出産後14週間について賃金の80%、日額では最高172フラン(約1万5000円)の給付の請求権を認める法制度である。
 母性有給休暇制度が国民投票にかけられるのは今回で4度目だとされる。家族政策や財政負担などがからんで難産を続けた制度であったが、今回の政府案は法制的には既存の「就業補償規則」(EO)に基づく保険制度を用い、母性有給休暇をそれに組み込む改正で実施しようとするのもであった。EOは本来的には消防士および市民防衛隊員の事故にたいする給付制度である。今回の政府案を固めるに当っては、政党間の対立については後にふれるとして、財政負担の問題では特に中小企業とのあいだで妥協点を見出すのに曲折があったと言われる。
 スイス労働総同盟(SGB)はすでに6月初めに「4たび」賛成を決議していた。母性の就業補償は今まで拒否的だった小規模工業団体との良い妥協だと。一方、反対を強く打ち出したのは「国民党」(SVP)であり、同党は政府案に対抗する国民投票に取組むことさえ行なった。「国の子供」に反対というモットーでのカンパニアが展開された。出産は国家が女性に保障しなければならないような損害ケースではない、賛成は社会国家に過大な負担をかけ、長期的には経済を弱体化させる、と同党は主張した。先述したように、クシュパン経済相が新聞インタビューで、SVP閣僚ブロッハーは「スイスの民主主義にとって危険」と異例の発言をしたのが、今回の国民投票の直後であったことが注意される。
 ところで母性保険の国民投票に向けての動きの中で、特に注目されたのは女性政治家たちの党派を超えた宣伝行動であった。7月には政権4党(社民、自由、キリスト教民主、それにSVPも)、緑の党などの女性議員が一体となって街頭宣伝を展開した。また8月には所属政党の異なる元閣僚の女性3人が、女性の元国会議員全員に連名で手紙を送り、提案支持を宣伝してくれるよう訴えた。手紙で3人は母性保険の多難な歴史にふれ、「母性保険のように、これほどに長くその実現が待たれる政治案件はほとんどありません」、「いまこそこの案件の成功を助ける可能性が訪れています。経験は私たち3人に、私たちの出番でなにかできるのではと教えました」と訴えた。
 7月の女性議員の宣伝行動にはベルン選出SVPのハラー議員が党の方針に逆らって参加していた。「母性の就業補償という正当な案件がまたも難破することなどあってはならない、この提案を拒否する理由はもはや全くない、スリムで公正で、また財政的にも可能だから」と彼女は述べた。
 11月に入って政府は、国民投票で承認された改正就業補償法を05年7月1日施行と決定した。「現在、法律は8週間の就労禁止にもかかわらず3週間だけの賃金継続払いを保証している(健康保険で―引用者)。有給母性休暇はほぼ40年にわたる憲法の付託に添うものである」と新聞は報じた(新チューリヒ新聞11月24日)。改正法は労使の保険料(これまでは労災保険に準ずる使用者負担)0.2%を予定するが、政府は今後3年間は現行制度の予備金でまかなう方針である。

「みんなのための郵便事業を」― 組合の国民投票発議、僅差で否決される

 「みんなのための郵便事業を」名称の国民投票発議(イニシアチブ)に向けたカンパニアに取組んだのは、SGB傘下の「情報労組」(GK)であった。7月に始まったこの取組みは、国民投票の合意を得て全国的な郵便局ネットを確保し、またネットの構築に当って自治体に協議権を与えようとするもの、そしてこのことによって、この4年間に約1000ヵ所の郵便局が閉鎖された現状で、将来も全住民が自分の近くでよい「公共サービス」(Service public、郵便局の新しい呼び名)から利益が得られるようにしようとするものであった。この国も「郵政民営化」によって現在は郵便公社(以下ではポスト)の形態にある。
 カンパニアは7月9日を全国行動日として始まった。60都市で、ところによっては郵便局前でイニシアチブへの賛成を呼びかけるビラや行動カードが配られた。ポストは、この行動が許可なしにポスト側の同様の文字や色を使ってとられており、これではポストがイニシアチブのうしろにいるかのような誤まった印象を与えかねないと非難し、カンパニアのストップを要求した。
 7月22日にはポストは、勤務時間中のユニフォームへの国民投票バッジの着用、仕事着での要求活動、勤務時間中のイニシアチブへの支持勧誘を禁止すると通告した。組合側はこれを「黄色い口籠」をかませるもの(かん口令)だと非難し、ベルンのポスト本社前で抗議行動を行なった。自由な意思表明の権利の後見や制限は受け入れられないし、職場での保障された権利にも反すると。
 前述のように9月26日の国民投票では、賛成49.8%、反対50.2%の僅差で組合のイニシアチブは否決された。しかし情報労組委員長は述べた。「国民はポストにイエローカードを渡した」、この結果は、スイスにはこれ以上の自由化のための多数派はいないことを示すと。SGBも投票結果はポスト首脳部への警告だとし、国民が下した決定は急速な自由化やサービス削減にたいするフリーパスではないと訴えた。反対派は結果を「賢明な国民決定」だと述べた。
 国民投票が終わった直後の10月8日に、ポストは郵便物輸送(手紙、新聞、小包の集配)従事者約800人中270人の削減と、将来この部門を第3者との共同業務にすることを発表した。削減は組合との協議で「社会計画」を立て実施するとされた。
 この発表に組合は硬化した。特に業務の移管計画によって、現行の全域労働協約(GAV)が雇用条件に関して失効となる点を重視し、計画の撤回を要求した。ポスト側はポスト組織法を引合いにし、それが会社の設立と移管の可能性を与えているとして譲らず、交渉は停滞した。
 11月24日の夜、情報労組は3ヵ所の小包集配センターと手紙集配センター1ヵ所で封鎖行動を行なった。ポストの移管計画に反対する最初の行動で、集配業務は完全にストップした。組合は職員270人の移籍の撤回を要求し、業務が私法上の株式会社に移されるのであれば、その人員は全域労働協約のもとに引き続き置かれなければならない、と譲歩提案を行なった。
 12月8日に紛争はひとまずの解決を見た。協定は、業務を民間コンツェルンへ移管する場合には全域労働協約上の雇用条件が基本的に引き継がれることを合意、例外的な取り決めは労使の改めての補足協定によらなければならないと決められた。

SGB傘下民間5組合が合同

 民間部門5組合の大合同が04年秋に行われた。工業、建設および小営業に足場を置くスイス最大の2組合GBI(建設・工業労組)とSMUV(工業・小営業・サービス労組)と、サービス部門3組合VHTL(商業・運輸・食品労組)、Unia(サービス労組)とActions-Unia(サービス労組・行動 ― ジュネーブ地区の組合)の合同である。新組合の略称はUNIA(サービス労組)、組合員数は20万人強、スイス労働総同盟(SGB)傘下で最大、しかもSGB組合員総数の半数以上を占める大組合の発足である。
 旧5組合は工業、建設、小営業およびサービスの4職業分野を組織基盤とし、60部門約500の全域労働協約と企業内労働協約についてこれまで当事者権限をもってきた。新組合は当面共同議長を置くこととなり、GBIのペドリナ委員長とSMUVのアンブロゼッティ委員長が選出された。
 合同大会は10月15、16の両日バーゼルで行われた。大会を前にしてペドリナ議長は次のように述べた。「こんにちではもはやなにひとつ手が抜けない。SVPのネオ保守主義は癌のように拡がり、最上部の使用者団体を巻きこみ、それによって協約両当事者の土台を崩してきている。組合は動員することができ、闘争手段を実行に移すことができる時にのみ強い。だからUNIAは組織率も全部門で拡大しようとする」と。また大会後のSGBとのインタビューでは、新組合の最重要目標として3点を挙げた。(1)工業と小営業で組合の足場を固めること。(2)来年の機械産業と建設での全域労働協約の更新を差し迫った協約政策上の試金石とすること。(3)第3次産業分野でのUNIAの構造を本質的に強化すること。10月30日に、新組合は最初のデモンストレーションとして「賃金ダンピング阻止」の全国行動を行なった。

農業労働者に労働協約を ― 労働組合、農民団体、消費者団体が共同行動 付:「移動の自由」をめぐって

 11月末に労働組合、農民団体、消費者団体の3者の連合が、持続的な農業のためのマニフェストを発表し、その中で農家経営で働く労働者の労働条件の抜本改革を要求した。連合に加わった労働組合は、前月に合同大会で結成を見たばかりのUNIA(サービス労組)である。
 現在スイスの農家経営には約4万5000人の労働者が雇用されている。彼らの雇用条件は劣悪で、いまだに作男(Knechte)、作女(M?gde)と表現されるような雇用関係が残っており、低賃金と週50時間を超える長時間労働が広く存在するとされる。しかも彼らはこれまで労働法の適用外にある。
 農業労働者のこの劣悪な状態の理由を、マニフェストは国際競争と巨大集配業者の政策に見ている。農産物価格がますます巨大集配業者の市場支配力によって決められるようになり、この価格闘争の犠牲者が農民経営者であり、彼らはまた受けたこの圧力を農業労働者にしわ寄せする結果となる。この悪循環を断つために、社会的でエコロジカルな生産基準の導入が要求され、その一環として農業労働者の雇用条件の抜本改革が求められる。全国的な労働協約と労働法の適用が中心要求として提起された。
 ところで「サービス労組」のこのような労農提携への積極関与は、この国の労働組合が04年に改めて対処を迫られた重要課題と連動していた。全ヨーロッパ的な「移動の自由」の中で生ずる「賃金ダンピング」の危険性を防ぐ課題であり、農業部門はその一環に位置づけられたのである。「移動の自由」への組合の関わりについて若干の補足をすることにする。
 6月1日からスイスの労働市場は、旧EU15カ国およびノルウェーとアイスランドからの流入者に開放された。さらに12月には国民議会が、5月の「拡大EU」による新EU10カ国について、同じ「移動の自由」の問題の審議を開始した。スイスはEU加盟国ではない。01年に、EU加盟についてEUとの協議に入ることの可否を問う国民投票が行われたが、80%の多数で否決されている。しかし加盟はしていないもののEUとの関係では双務協定の形で門戸を開いており、「移動の自由協定」もその1つである。6月に実施された協定は、3ヵ月を限度として上述諸国からの労働市場参入を認めるもの、07年を当面の協約有効期限とし1万5000人の流入が認められている。この「移動の自由」の実施は、労働供給上の国内居住者優位がもはや適用されないことを意味する。
 政党レヴェルでは、「少ない外国人、少ない外からの干渉」を掲げる国民党が新EU諸国からの流入を5年間先送りする主張をしているが、大勢は流入を「必然」(Muβ、must)とする立場である。経済界も肯定的で、特にそこでは輸出市場拡大、さらには立地の当該国への移動(Offshoring「岸離れ」と言われる)に期待する動きが強まっている。
 労働組合はもとより「移動の自由」に反対する立場をとらない。しかしそれが賃下げ圧力、「賃金ダンピング」に利用されることを警戒する。そしてすでに近隣諸国からの安価の労働力の流入が、特に建設、農業、商業、運輸の分野に見られることに懸念をもっている。例えばSGB(労働総同盟)広報は、東ドイツ地域で、「連邦雇用機関」の支援を受ける形で正規の「スイス・デイ」が設けられ大量募集が行われているとの風聞を伝えてさえいる。
 6月1日の協定実施時に、その弊害を防止する目的で政・労・使の代表で構成される監察委員会を各州に設けることが決定された。委員会は就労現場の賃金・労働条件を抜き打ち検査する権限を与えられたが、組合によれば、各州の取組みは「人もカネも」欠けたままほとんど機能していないのが現状、組合は委員会活動の強化を要求するが、州政府や使用者側は消極的だと言われる。組合自体は賃金のデータバンクを設置するとともに、雇用条件のコントロール強化、そのための上記委員会の活性化、さらには一般的拘束力宣言による最低賃金決定手続きの簡易化などを当面の要求課題としている。そして今後、スイスとEUとのあいだの「移動の自由」が、労働者にとって「赤字取引」になることが明らかな場合には、組合は国民投票もあり得る点を留保するとしている。

04年秋の賃金協約

 スイスの賃上げ協約ラウンドは秋に集中するのが慣例である。8月上旬に2つのナショナルセンターが傘下の組合の要求内容を集約し、それに基づいて協約交渉にたいする一般的方針を明らかにした。「労働スイス」(Travail.Suisse)は3%、「スイス労働総同盟」(SGB)は2−3%を賃上げの共通項として掲げ、好況に向かっている景気を持続的なものにするためにも、賃上げによる国内需要の拡大が重要だと訴えた。
 「目下の急務は景気上昇を新たな緊縮プログラムによってサボタージュするのでなく、それを促進することだ」と述べるSGBは、協約交渉での課題として次の点を指摘する。1つは「一般賃上げの原則を下位・中位の所得に適用する」ことの重視である。企業での成果主義賃金に当てられる賃上げ分を拒否すること、各部門の最低賃金を引上げること、男女賃金格差をさらに縮小することが、そのために必要であり、またそれは数年来のたたかいの実績でもあることが強調される。いま1つは人件費を切りつめるべきは経営トップと幹部であり、そのためにもその給与の透明化が必須だとされた。この点はTSも同じ主張をもち、「経営者と上級幹部は10%以上の給与引上げをお手盛りで決めているのに、下部の賃金は0.4%引上げられただけだ」と批判している。
 「軽い実質賃金引上げ」とマスメディアは秋の協約結果を報じた。名目賃金の引上げは平均では1.5%プラスで、予想される物価上昇率を超えるものとなった。しかし一方では各種社会保険料の引上げもあり、実質的には大部分の労働者にとって物価上昇分の調整以上には出ない賃上げで、組合側の評価でもそれは「可もなく不可もない」、「ほどほどの満足」と評される結果であった。
 賃上げ幅は部門間でかなりの開きを示した。上げ幅の最高はエネルギー、IT、テレコムの2%で、続いては銀行、機械、金属電機の1.8%であった。逆に低率は州公共職員、旅館1%、印刷0.8%(スト権集約を行い、警告ストを実施)、繊維・衣服0.4%であった。
 企業内協約ではスイスコムが2%、製薬会社のノヴァルティス2.3%、ロッシュ2.25%であった。賃上げ幅は比較的大きいが、企業内協約では個人別配分、成果依存の部分を含む例が今回も見られた。スイスコムは0.3%がそれであったし、スイス最大の小売業コンツェルン・ミグロス(6万2000人)の場合は、1.5%から2%の妥結額を傘下の各店舗での個人別配分に委ねるものになった。この協約の当事者組合はGBI、SMUV、VHTL(前述「5組合の合同」の項参照)の3組合であったが、VHTLは妥結に合意しなかった。妥結した賃上げ率を成果給として配分すれば、全従業員にたいする物価上昇率調整さえ保証されなくなる、というのがその理由であった。同組合は個人別配分とは別に、最低限0.9%を物価調整分として全従業員が受取れるようにすべきだと主張した。(島崎晴哉)