全労連 TOPへ戻る BACK
国旗 世界の労働者のたたかい
ベルギー
2003

ベルギー・キリスト教労連大会での所得政策の議論

 ベルギー最大の労働組合であるキリスト教労働組合連合(CSC)は最近、4年に1度の大会を開いた。大会の主要テーマは、所得政策ならびに所得格差の増大であった。大会の目的は、過去4年間の活動を評価し、次の4年間について組合政策の柱を打ち立てることであった。2002年大会は10月16-18日に開かれ、約900に人が参加した。
 組合の主要な要求の一つは、「全般的な社会的拠出」の導入であった。この中には、賃金、財産や資本による収入を初め、あらゆる形の所得にたいする全般的な税金を含んでいる。この拠出金はベルギーの社会保障に資金を調達し、最低基準、たとえば年間12、500ユーロ以上のあらゆるタイプの所得が支払うことになる。
 この拠出金は、現在労働者だけが支払っている社会的拠出金に取って代わり、保健や家族手当など、労働に関連しない社会保障の資金を供給することになる。
 労働組合はまた、高所得と低所得の格差を埋めるために、最低賃金や手当の引き上げを要求している。さらに、労働組合は年齢に結びついた賃上げは年齢による差別の一形態と考え、この廃止を要求している。しかし年功による賃上げは認められる。それは経験との結びつきと考えられるからである。

労働組合員数の増大

 ケント大学の最近の調査によると、ベルギーの労働組合員数は1990年代に1.3%増えた。つまり、1990年の234万人から2000年には270万人になった。これはベルギーの労働者の58.1%にあたる。しかし労働組合員の大多数は労働市場の外におり、学生ないしは失業者である。
 労使関係を支配している労働組合連合は、キリスト教労働組合連合(CSC、145万)、ベルギー労働総同盟(FGTB、105万)、ベルギー自由労働組合総連合(CGSLB、19万)の3組織である。このなかでCSCは非常に大きく、ベルギーの全組合員の半分以上を結集している。
 CSCとFGTBはいずれも、ブルーカラー、ホワイトカラー、公務員を組織している。ブルーカラー労働者はなお全組合員の半分以上を占めているが、1990年代にその比率を低下させ、他方ホワイトカラーと公務員は増えている。
 上述のように、労働市場の外に多くの組合員がいるため、数字の歪みが起こる。加えて、ベルギーの労働組合は失業手当支払いを担当している。これは労働者が失業したとき、かれらを組合に留めておく強力な要因になっている。したがって、ベルギー失業者の8%は労働組合に加盟していると見られる。これは労働者のあいだの加入率よりかなり高い。

新年度の全国協約のための要求を発表

 2003−2004年の団体協約の第一次段階が始まり、労働組合は新しい全国協約に盛り込むべき要求を明らかにした。
 2002年の秋いっぱい、労使は新しい全国協約で規定する条件を交渉した。この条件は伝統的に、賃金引き上げの上限として、中央経済評議会が9月に発表する賃上げ提案に従っている。2002年は経済見通しが不確定なために遅れ、最終的算出は11月半ばとなった。他方、キリスト教労働組合連合(CSC)、ベルギー労働総同盟(FGTB)、ベルギー自由労働組合総連合(CGSLB)の3組合は、次を含む主要な要求をまとめた。

  • 賃金の自動的な指標化を維持する。
  • タイム・クレジットの利用条件を拡大する。
  • 現行の早期退職制度を維持する。
  • 全国最低賃金の引き上げ(現在は21歳以上の労働者にたいし、1ヵ月1、163ユーロである)。
  • 昼食券に代わって、100ユーロないし150ユーロを支払う。
  • 公共交通による職場への往復の定期乗車券の代金を全額支払うこと。現在は全額の60%に制限されている。

 早期退職は、勤続期間に関係なく58歳以上のベルギー人の権利である。

中央経済評議会による新しい賃上げ幅の決定

 2002年11月15日発表の中央経済評議会による賃上げ幅の提案は、向こう2年間で、6.6%以下であった。しかし、最近の統計資料発表の後、評議会はこの引き上げを制限するよう要望したため、労働組合から激しい反撃を浴びた。
 評議会はベルギーだけでなく、フランス、ドイツ、オランダにおける指標、賃金動向、正味賃上げのさまざまなデータを使って、勧告すべき賃上げ幅(最大限賃上げ)を計算した。現在の経済情勢が不確かで、最新の統計が欠如していたため、評議会はその発表を9月から11月まで延期した。評議会はそれ以後勧告すべき賃上げ幅を計算しなおし、ポイントで0.6%引き下げて6%にし、あるいは別の計算にしたがって、ポイントで1.5%引き下げて5.1%にした。後で修正の計算をすることは法によって認められている。しかし後者の数字は、意味のある賃上げを実質的に不可能にする。物価指数だけでも3.3%の上昇と推定されているからである。
 評議会の最近の指摘によると、ベルギーの賃金はフランス、ドイツ、オランダより急速に上昇している。また2001-2002年には合意の賃上げ(5.9%)を1.5%超え、1999-2000年には合意の6.4%−7%を3%超えた。これの主要な理由は1999−2001年に労働力が不足し、2001-2002年にはインフレが予想以上に高かったからである。
 労働組合は賃上げの引き下げ提案にはことごとく激怒した。FGTBは、6.6%は法にもとづいて計算した数字に過ぎないといった。CSCは、賃上げ幅全体を維持することの正当性には疑問を投げかけた。経営者も満足しておらず、6.6%は異常に高いと考えた。FEBは経済成長が協議会の認めるものより低いので、賃上げは低くなるはずだとみていた。
 賃上げ幅は、差し迫った2年協約ラウンドの核心をなす交渉である。11月6日には民間の交渉が始まり、年末には新しい全国協約も決まる。そのあとで2003年春には、産業別交渉がひかえている。

ベルギーのフィリップ工場の閉鎖

 オランダのエレクトロニクス多国籍企業のフィリップが、光学貯蔵(ファイバー・ストレイジ)生産を台湾に移す。CMB、CCMB、LBCNVK、SETCA-BBTKは、オランダのフィリップ本社が、ベルギーのハッセルトにある生産工場を台湾に移すという決定にたいし抗議行動を展開する。この工場移転によって、およそ1、000人の労働者が仕事を失う。

解雇された高齢労働者の配置転換の保障

 労使は全国団体協約を締結し、45歳以上の労働者の配置転換を保障することになった。新しい全国団体協約第82号は、2002年7月10日に締結され、同年9月15日から施行された。これは2001年9月5日採択の法律の条項を実施するものである。この法律は高齢労働者にたいし、団体協約に定める条件に応じて、配置転換のための職業指導を受ける権利を与えている。
 したがって、余剰になった45歳以上の高齢労働者はだれでも配置転換のための職業指導を受ける。そのための資格として、労働者は最低一年間の勤続が必要である。しかし、早期退職あるいは重大な不行跡による解雇の場合には、そのための要件はない。
 次は協約の詳細である。

  • 配置転換の職業指導は、解雇後、最高12ヵ月にわたって行われる。これは三つの時間帯に分けられ、それぞれは20時間までである。
  • 最初の2ヵ月間、労働者は20時間までの再配置職業指導を受ける。これの一部は専門的指導であり、その中で労働者の技能と職業上の期待度が評価される。
  • 労働者が失業を続けている場合には、さらに4ヵ月の期間が開始され、その中でふたたび20時間の指導が行われる。
  • 引き続き失業している場合には、最後の6ヵ月の期間に、さらに20時間の指導が行われる。

 もし労働者が新しい仕事を見つけた後、3ヵ月以内に失業した場合には、配置転換のための職業指導制度をもう一度利用できる。ただし、最初に解雇された日から12ヵ月以内に限る。
 解雇された労働者は、その雇用者に配置転換を要求する権利をもち、雇用者は2ヵ月以内に雇用を提供しなければならない。配置転換にかんしては個人あるいはグループ別に助言をし、心理的な指導、生涯にわたる職業指導を含み、どのように新しい仕事を見つけるか、探すかの計画を援助し、新しい雇用での条件の交渉を指導し、新しい労働環境に溶け込むよう援助し、また事務的な手続きも支援する。
 配置転換のためのサービスは公認された顧問によって行われ、また雇用主はおよび労働組合は地域的、地方的機関を運用でき、その場合には雇用主および労働組合はそれら機関の評議員の席につくことが団体協約に規定されている。大量失業の場合には、企業の閉鎖後に臨時紹介機関を設けることもできる。例えば、1997年2月、ビルボルドのルノー工場が閉鎖されたとき、あるいはベルギー国営航空サベナが倒産した時がそうであった。
 配置転換の費用は雇用主が負担する。ただし労働者が受け取る解雇手当にはいっさい影響しないようにする。しかし協約は、合同委員会が部門別に費用を分担する措置を規定することも認めている。
 雇用主が配置転換のための仕事の提供を拒否した場合には、1人につき1,500ユーロの罰金が課される。これは配置転換基金に提出され、倒産で解雇された者のための活動に運用する。

タイム・クレジット制度が発足

 新しいタイム・クレジット制度が2002年1月1日から実施され、一年以上勤続した民間労働者は一年間、ないしはそれより短い最低3ヵ月の休暇を取れるようになった。またパートタイムでこれを取ることもできる。
 連邦政府は1ヵ月につき379ユーロから506ユーロを支払い、新しい制度の運用を奨励する。1年という期間を5年に延長することも可能である。実際問題として、ほとんどのベルギー労働者は、2年かそれ以上のタイム・クレジットの権利をもつ。
 経営者連盟FEBは、フルタイムの従業員は週労働時間を5分の1短縮して、1ヵ月に約1、983ユーロを得る計算になるので、1ヵ月の支払いが増えるといって抗議した。しかし、労働組合と政府は、この計算は1人についてだけいえることで、休暇手当や広範に払われている年次ボーナスが入っていないと指摘した。しかも労働者はタイム・クレジット制度に限られた期間しか参加しない可能性もある。

ストライキに関する紳士協定

 ベルギー政府は、少なくとも1年間は、、労使間の「紳士協定」を優先してストライキ期間中、労使の行為を規制しようとする法案を一時中止した。
 政府は争議の際に雇用者に開かれた行為をきびしく制限する法律を提案していた。現在、雇用者は争議の脅威に直面すると、問題を一般裁判所に訴え、あるいはストライキ阻止のため法による命令を追求する前に、労働組合と十分に話し合うと必要ガあるが、この手続きを一足飛びにのり越えるために、「極度の緊急性」を主張することができる。
 提案されている法律には、労使間の正式な討論、仲裁者の任命、最後にこの件を労働裁判所に出すという3段階の手続きを含んでいる。雇用主と労働組合はともに、彼らの内部問題に政府が干渉することを嫌った。このような法律を中止するよう政府に説得するため、労働組合は山猫ストをやらず、組合員には争議中に激しい対決行為をさせないと約束した。経営者連盟は加入者にたいし、スト中労働組合にたいする法的措置は取らないよう説得した。しかし協定には、何らの制裁規定は含まれなかった。
 両者はそれぞれの理由から、この問題にかんして法律の押し付けを望まなかった。雇用主はかれらの財産を守る市民権を失わないかと憂慮したし、労働組合は一般裁判所であれ、労働裁判所であれ、裁判官に介入されるのを恐れた。両者とも、法律とか外部からの干渉ではなく、むしろ企業内で話合いを通しての争議の解決を望んだ。
 労働大臣は政府にたいし、この提案を少なくとも1年中止し、その間に「紳士協定」を運用する機会を見つけよう、それが出来なければ政府がその法律を実施したらよいと申し入れた。
 この「紳士協定」を3つの全国労働組合組織の執行委員会が拒否した。3つの全国組織(FGTB、CSC、CGSLB)のトップレベルの代表がこの協定の交渉をしてきたが、その後、各執行委員会の支持は得られなかった。
 CGSLB(組合員22万人)は、長い時間をかけて討議した後で、最後に協定を受け入れたが、産業部門の内部での相互連帯によって起こる行動を排除するつもりはなく、情勢がそれにふさわしければ、山猫ストの権利を維持したいと思っている。
 FGTB(約120万人)は協定の内容は受け入れたが、フライング・ピケットを利用する権利の維持を望んだ。とくに、過去10年間、このピケットは工業地帯を封鎖するために使われ、雇用主からはひどく批判されてきた戦術である。
 カトリックのCSC(160万)の全国委員会は、この協定を全面的に拒否した。この組織は協議への参加を強調しながらも、労働者間の相互連帯から生まれる自然発生的な行動やストライキは排除できないと信じている。
 全国経営者連盟FEBは、「紳士協定」を不承不承に認めた。この協定はいまや現在の形では存続できなさそうである。