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国旗 世界の労働者のたたかい
オーストラリア
2004

2003年の動向
 
 「オーストラリアにとっての9.11(米中枢同時テロ事件)」ともいわれる2002年10月12日のバリ島爆弾テロ(オーストラリア人88人が犠牲になった)を背景に、米国主導の対テロ戦争に積極的に協力するハワード政権の動きが目立った。
 03年3月20日に開戦したイラク戦争に、オ一ストラリアは特殊部隊を含む2000人の地上軍を派兵した。01年の米中枢同時テロ後のアフガニスタン攻撃にもオーストラリアは当初から参加しており、「テロ、大量破壊兵器との戦い」を強調するハワード首相の対米協力姿勢はいっそう鮮明になった。ブッシュ米大統領は10月、オーストラリアはこの地域での米国の「保安官」と発言、対テロ戦争でのハワード政権の役割を称賛したが、東南アジアでは「米国の代理人」との反発が起きている。オーストラリア国内でもイラク参戦に反対するデモなどがあったが、好調な経済を追い風にハワードは高支持率を維持し、04年に予想される総選挙での続投をめざし、内閣改造を実施するなど態勢固めを図った。
 オーストラリアとシンガポールの自由貿易協定(FTA)が03年7月28日に発効。他の東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国では10月、タイのタクシン首相とハワード首相との会談で、04年までのFTA締結で合意した。同月22日にオーストラリアを訪問したブッシュ米大統領とは、FTA交渉の年内合意をめざすことで一致。続けて迎えた中国の胡錦濤国家主席とも、FTA交渉開始に向けた共同研究実施で合意した。
 経済面では、物品サービス税が導入された00年以降、景気が減速したが、個人所得税の軽減や住宅購入者への補助金などの施策で住宅建設と個人消費が上向いた。02年の経済成長率は3.5%、イソフレ率3.0%。

賃金・付加給付・組合員数に関する調査結果

 オーストラリア統計局(ABS)は2003年3月、「賃金・付加給付・組合員数に関する調査結果」を公表した。2002年8月時点の調査結果の概要は
 賃金 2002年8月の週平均賃金は707豪ドルであった(前年同月比で3%増)。このうちフルタイム労働者の週平均賃金は863豪ドル、パートタイム労働者のそれは320豪ドルとなっている。1992年の週平均賃金は475豪ドルであったので、この10年間におよそ50%上昇したことになる。
 付加給付 労働者の92%が少なくとも1つの給付の対象となっていた。最も一般的であったのが老齢退職年金(労働者の90%)で、この他には有給疾病休暇や有給休暇、長期勤続休暇などが多くの労働者に適用されている。有給の出産休暇(父母を対象)については、24%の労働者に認められていた。他方、こうした有給の休暇が与えられていない労働者の6割強がパートタイム労働者であった。
 労働組合員数 2002年8月の組合員数は183万3700人となり、労組組織率は2001年の24.5%から2002年には23.1%にまで落ち込んだ。公共部門の組織率は47%であったのに対し、民間部門は18%となっている。

失業率が22年ぶりの低水準に

 オーストラリア統計局は2003年11月6日、2003年10月の失業率が5.6%とこの22年間で最も低くなったことを明らかにした。過去に失業率がこれを下回ったのは1981年6月の5.4%で、その後89年に5.6%に達した。とくに、労働力参入率が上昇したにもかかわらず、失業率が低下している点が注目された。雇用者数は7万人程度増加し、総数961万6800人となった。オーストラリア経済は急速に成長しており、楽観的な展望が示される一方で、問題も指摘されている。
 オーストラリア社会事業評議会(ACOSS)は2003年11月に「オーストラリアの隠れた失業」と題する報告書を公表した。そのなかでACOSSは、統計局による失業率が著しく誇張されており、非自発的失業の実際は2003年9月時点で12.9%であると主張している。ACOSSは、統計局の統計手法が国際比較の点では有効であるものの、非自発的失業やそれに伴う貧困の実際の程度を反映するものではないとしている。例えば、統計局の手法では、週1時間しか働いていない71万6000人は雇用者に分類され、失業統計から除外されている。さらに、いわゆる求職意欲を失った「挫折求職者」も公式統計からは除外されている。すなわち、失業者と分類されるためには現に求職活動を行っている者でなければならず、それは求職のために企業と接触を持ったことを当該使用者が記入する書類で証明されなければならない。

「ジョブ・ネットワーク」の改革−民営化の抱える問題

 「ジョブ・ネットワーク」事業は、政府による就労支援・職業紹介サービスを民間委託し、市場にゆだねることを基本として、1998年5月1日から始まった。その一環として、求職支援サービスや失業手当の支給を管理していた公的機関であるCESは廃止された。
 この事業の基本的な発想は、民間のほうがより効率的なサービスを提供できるというものであった。失業者は失業手当の受給要件として民間職業紹介業者に登録することが求められ、紹介業者は失業者がその名簿に登録されている間、政府から資金を受け取る。さらに失業者が就職すれば、業者に対し報奨金が支払われる。他方、職業紹介業者は、企業からの求人情報を全国データベースに掲載する。
 このように、「ジョブ・ネットワーク」事業は市場原理にゆだねる考えで着手されたが、実際は政府が設定した条件やサービスの量に基づいて業者に資金が提供されていた。また、「ジョブ・ネットワーク」事業の中心的役割を果たすものとして政府機関である「エンプロイメント・ナショナル」が設置された。職業紹介サービスを提供するためには、まず職業紹介業者は入札に参加しなければならないが、その落札価格を左右するのは国内最大の職業紹介業者であるこの「エンプロイメント・ナショナル」であった。問題となったのは、サービス料があまりに低く設定されたため、職業紹介業者が倒産してしまうということであった。さらに、業者間の競争を勝ち抜くために、多くの業者は求人情報を全国データベースに掲載せず、自分のところで蓄えるようになっていた。
 そこで連邦政府が2003年7月1日から実施した新しい「ジョブ・ネットワーク」事業の内容は次のとおりであった。第1に、エンプロイメント・ナショナルは廃止され、全国165ヵ所の事業所が閉鎖、400人あまりが職を失った。これによって失業者へのサービスの大幅低下が始まった。第2に、政府は民間業者の業務を大幅に増加させようとした。具体的には、7月1日から職業紹介を受ける者に対して面接を義務づけ、その履歴書を政府のデータベースに載せるよう求めた。現在、およそ70万人の失業者が登録しているが、そのうちの14万人強は面接に参加できなかった。そこで政府は業者に対し電話や文書による追跡調査をおこなうよう求めた。こうした業務量の増大と新規則実施に伴うソフトウェアの変更などで、コンピューターシステム自体にも問題が生じた。
 また14万人強もの求職者が面接に参加しなかったということは、求職者がその際に業者から職業紹介を受けていないということであり、政府から提供される資金はその分減額される。そのため業者は資金不足に陥った。規則では、面接に来なかった求職者は最高で3ヵ月間失業手当が支給されないこともありうる。こうした事態が「ジョブ・ネットワーク」や政府の失業支援策に対する批判を噴出させることになった。
 政府の「改革」によって職業紹介業者の多くが危機的状況に陥った。その結果、政府はジョブ・ネットワークにたいして緊急援助措置を講じざるをえなくなり、2000万豪ドルが計上された。しかし政府は依然として「自己責任」の名の下に今後も失業支援サービスに対する支出を削減する方針である。

労使関係委員会がアワード最賃引き上げ

 オーストラリア労使関係委員会(AIRC)は2003年5月、連邦アワードの適用を受ける労働者について最高で週17豪ドルの賃金引き上げを決定した。AIRCの決定は「全国賃金ケース」と呼ばれ、政労使からのヒアリングの後にアワードの適用者を対象に賃上げを認める制度である。
 AIRCは、まず週あたり賃金が731豪ドル未満の者に週17豪ドル、731豪ドル以上の者に週15豪ドルの賃金引き上げを認めた。適用される労働者は前者が約150万人、後者20万人と予想されている。これにより連邦最低賃金は週当たり448.40豪ドルとなる。
 今回の最高週17豪ドルの引き上げは、連邦政府やオーストラリア産業グループ(AIG)の主張する12豪ドルよりやや高く、オーストラリア労働組合評議会(ACTU)が求めていた24.60豪ドルよりは低いものとなった。
 ACTUは、賃上げ幅がインフレに追いつかず低賃金労働者にとっては実質的に賃金下げになると指摘し、とくに連邦政府が提案している医療・教育制度改革が実現すると最低賃金では生活できないとの懸念が広がっている。

IT産業、コール・センター組織化のとりくみ

 IT(情報技術)産業は労組の組織化が進んでいない分野というのが一般の認識である。高い技術を持ったIT技術者にとって組合はさほど魅力がないかもしれないし、これらの企業が警備会社を使って組合オルグが職場に立ち入らないようにするなどの困難もある。他方、コール・センター産業は圧倒的に女性の職場であり、労組との結びつきが薄いと考えられている。
 しかし、こうした傾向にも変化が見られるようになった。というのは、株式取引の減少や企業倒産の影響を受け、IT産業でもレイオフが行われたり、倒産に伴う労働債権の保護が社会問題になったりした。そうした中で、2002年11月、連邦労使関係委員会は大手電気通信企業やコール・センター企業を対象とした産業単位のアワードを認め、これにより、従来アワードの対象とされていなかった約1万人の労働者にアワードの保護が及ぶこととなった。
 ただ大企業の多くがIT部門を外部化(アウトソーシング)するようになったため、労組は多くの組合員を失っている。そこでいくつかの組合は、IT労働者連合といった組織を立ち上げ、レイオフに不安に直面するIT労働者に労組加入を働きかけている。労組は解雇や労働債権の保護などで一定の実績を上げてきたため、人員削減の噂が広がると労組加入に関する問い合わせが増えている。外部化は、労働組合にとって脅威である一方、組合員を増やす機会ともなっている。
 また、コール・センター産業では、アワードによる労働条件の改善が不十分であったことから、オーストラリア労働組合評議会(ACTU)が組織化の活動を強化し、労働条件改善にとりくみをすすめている。コール・センターは1990年代に急成長し、今では3850のコール・センターに約2万2000人の労働者が働いている。顧客はオペレータの対応までにしばしば待たされ、イライラがつのってオペレータや電話交換手に八つ当たりする。そのためコール・センター業務はもっともストレスが多い職場ともいわれている。さらにオペレータは1日平均800本の電話に回答している。その結果、欠勤率は高く、ストレスを理由とした退職者も目立っている。加えて、業務のチェックや監視が日常的に行われ、職場で個人的な電話をかけたり受けたりすることが事実上禁止されているケースもある。そこで、労組は労働条件改善と組織化の促進を掲げ運動を展開している。公務・公共サービス労組(CPSU)はコール・センター産業での組織率倍加を目標にして活動を開始し、酒類・ホスピタリティ等労働者組合(LHMWU)はこれまでのような団体交渉だけでなく、広く社会に訴える方法をすすめてている。

ACTU、コール・センター産業の契約労働者に関するアワードを締結

 オーストラリア労働組合評議会(ACTU)と使用者団体、労使関係委員会はコール・センター産業で働く契約労働者に関するアワード(「The Contract Call Centre Industry Award 2003」)をまとめ上げた。18ヵ月間をかけて今回ようやく作成されたアワードにより、様々な労働条件の最低基準が規定されることとなった。
 2003年9月1日から施行される同アワードは、コール・センター産業主要7社のうち3社に適用される。対象となる契約労働者とは、契約に基づき複数の依頼人に対して電話などの通信機器を利用した顧客サービスを提供する事業に使用される者をいう。
 同アワードでは、賃金・諸手当、労働時間・休憩、年次有給休暇や育児休業、さらに苦情処理手続きや雇用の終了など多岐にわたる基本的な労働条件が定められている。とくに、6段階の職務体系とそれに従った賃金率を設定し、実質的に最低賃金レベルを引き上げた。また労働時間の変更や当番表の変更にあたっては、使用者に事前の通知を義務づけ、時間外労働や交替労働に関する割増手当を規定している。
 これまでコール・センター産業の請負業者に対してはほとんど規制が行われず、契約労働者の労働条件は一般企業内で同一の労働を行っている者よりも格段に低いといわれていた。今回のアワードはそのような産業界における全国的な最低労働条件基準を設定したとものであり、ACTUは今後、残り4社とも交渉を行うとしている。

人権・機会均等委員会が有給出産休暇に関する最終報告

 人権・機会均等委員会(HREOC)は2003年2月、8ヵ月に及ぶ議論をふまえ有給出産休暇制度に関する最終報告書(A Time to Value-Proposal for a National Paid Maternity Leave Scheme)を政府に提出した。
 報告によれば、使用者の提供する有給出産休暇制度を利用している女性は38%に過ぎない。オーストラリア労働組合評議会(ACTU)は、有給出産休暇は基本的人権の一部であり、世界120ヵ国が有給出産休暇制度を持っているなかで、オーストラリアはOECD加盟国の中で米国と並んでこれを制度化していない国であるとして、労組、女性団体、政党など広範な同盟で制度実現の運動をすすめてきた。
 最終報告書は、連邦政府に対し有給出産休暇制度を設け、そこへの基金の提供を求めている。またこの制度を利用できるのは、過去52週間に40週間は何らかの有給の仕事(自営業、臨時労働者を含む)に就いている女性で、出産直前または出産後から14週間とされ、また、女性が休暇を切り上げて職場に復帰する場合にはその切り上げた期間分の手当は支払われない。出産休暇手当は、連邦最低賃金か実際の賃金額のいずれか低い方に基づいて算定され、連邦政府あるいは使用者から支給される。支給される手当が実際の賃金額等より低い場合は、使用者がその差額分を支給するよう奨励されるというものである。
 女性の賃金が相対的に低いため、この制度に要する費用は年間2億1300万豪ドル程度と予想されている。HREOCがこのように穏当な提案を行ったのは、まず制度の実現をはかる意図があったと思われる。
 ACTUはこの提案を支持したが、オーストラリア商業産業連盟(ACCI)は使用者の差額分の支払いについては反対の意向を示した。報告書は、差額分の支払いに関しては団体交渉を通じて決定するよう求めており、そうなれば労組は使用者に対しこうした規定を設けるよう要求することになる。最終報告書に対する世論の支持は高い。
 なお、日本では、政府管掌健康保険制度に加入している場合、産前産後休業中は、出産手当金として健康保険から1日当り標準報酬日額の6割が支給、また出産育児一時金として30万円が支給される。

コール王立委員会 建設業の労使関係改革を求める報告書を公表

 コール王立委員会は2003年3月、建設業の労使関係に関する報告書を公表し、連邦政府は直ちにこれを承認した。同報告書は、建設・林業・鉱山・エネルギー労組(CFMEU)の活動に重大な影響を与えるもので、同労組はこれを強く非難した。
 コール王立委員会は、建設業におけるいわゆる不正行為を明らかにし、それを解決するための方策を勧告することを目的に2001年10月に設立された。王立委員会は、当初から建設業での不正行為の原因は労組にあるとの立場をとっていたことから、その本当の狙いはCFMEUの影響力を削ぐことにあると批判されてきた。
 報告書は、建設産業がいわば無法状態にあり、その原因の多くが労組によるものであると示唆し、その上で同産業を監督する政府機関の設立を勧告している。具体的には、不正行為とは「贈賄、脅迫、不適切な報酬そして組織強制の実施」などで、たとえば贈収賄、労組幹部による脅迫等であり、産業平和を維持し、建設の工期を守るために業者や下請が労組幹部に報酬を支払っている、また、建設業者や下請業者が非組合員を採用すればストライキを実行するという脅迫が行われている、建設業者が下請業者の労働者の組合費まで負担している例もあるというもので、これらは労働条件の改善やクローズド・ショップを目的に行われているという。
 報告書は労組の不正行為を詳細に指摘する一方で、使用者側の問題にはほとんど触れていない。しかし、建設業は労働安全衛生上大きな問題を抱えており、労働災害率が高く、さらに贈収賄には使用者自身が深く関与しているともいわれているが、報告書では十分に検討されていない。
 こうした不正行為にCFMEUが関わっていると断定しているが、CFMEU幹部はこれらを根拠のない主張であり、裁判所でも支持されることはないと反論。王立委員会や特別委員会設置そのものがCFMEUに打撃を与えることにあると批判してきた。1998年の港湾労使紛争以来、CFMEUは政府の「標的」にされ、とくに職場関係省長官は建設業におけるパターン・バーゲニングの規制を狙ってきた。「組合つぶし」の功績は、将来自由党の指導者となることを考えているアボット長官にとっては何の不都合にもならないというのである。
 建設業の労使関係は、こうした敵対的な行為をひき起こす構造的体質を持っている。好不況の波が強く、仕事の性質上労働者と使用者の関係は一時的なものになりがちで、加えて何重にも及ぶ下請・孫請関係により競争が激しい業界でもある。そのため、中小の業者は職場の安全衛生を軽視し、労働者の賃金や労働条件を切りつめようとする。このことは、中央集権的な労使関係を求める労組の主張を正当化するものであり、その意味でパターン・バーゲニングはオーストラリアの労働組合の中で高い評価を得ている戦略である。
 報告書は、建設業を監督する機関としてオーストラリア建築建設委員会(ABCC)の設立を勧告している。委員会は州・連邦警察の職員や公訴局職員などで構成、強制捜査権を持つ。委員会設立の目的は、同産業でのパターン・バーゲニングやクローズド・ショップを阻止することにあり、委員会は関連法規を厳格に実行していくものと思われる。
 さらに報告書は、連邦政府に対し「建築建設業改善法」の制定を勧告した。同法は、パターン・バーゲニング廃止を明確に掲げ、未登録の労使間協定を無効とする。加えて、交渉代表の選抜や争議行為の実施にあたっては労働者の秘密投票を義務づけ、違法な争議行為に対する規制を厳格化し、アワードで定めることができる条項の削減なども含んでいる。
 労組側は王立委員会の報告書がバランスを欠くとして強く批判している。オーストラリア労働組合評議会(ACTU)は、報告書が建設業だけでなく国内の労組全般に対する挑戦であるとの見解を示し、勧告で示された法案成立阻止に向けて活動を行う方針である。

製造業関連労組の「キャンペーン2003」

 オーストラリア製造業労働者組合(AMU)傘下のビクトリア州製造業関連労組は、同州の金属・製造業を対象に統一的な労働条件の引き上げを求める「キャンペーン2003」を展開してきた。その主な要求は、(1)3年間に18%の賃上げ(2)週36時間制の導入(3)労組が管理する労働債権保護のための基金への拠出、の3点である。
 このキャンペーンはパターン・バーゲニングという新しい戦術を用いているが、こうした手法が職場関係法によって禁止されているため、その成否が注目されている。
 組合の戦略では、同産業における企業別協約の満了時期を一致させ、企業別協約が同じ時期に満了を迎えるようにしている。これによって労組は産業規模の活動を実施でき、1,100あまりの企業別協約が2003年3月から6月にかけて満了を迎えた。職場関係法では、協約満了から新協約締結までの間はストライキが適法とされている。したがって、協約満了期を同じにすることで、同一要求を掲げた統一的な争議行為が可能となる。これがパターン・バーゲニングである。
 こうした活動はビクトリア州の製造業でもっとも重要な位置を占める自動車組立業にも及んでいる。自動車組立業ではジャスト・イン・タイム生産方式が導入され、労組はその弱点を突くような形で活動を展開している。ジャスト・イン・タイム生産方式は在庫をできるだけ抱えず、部品の定期的かつ頻繁な供給に依存している。そのため一つの小さな部品供給業者でのストライキがメーカーの操業停止を引き起こすなど産業全体に大きな影響をもたらしうる。これに対し、何社かの賢明なメーカーは部品供給が途絶えることを予想し、部品を蓄えるようになっている。
 まず労組は、ブレーキ部品の供給を止めるためブレーキメーカーを対象とした活動を開始した。2003年6月26日にはFMPグループの数百人の労働者がストライキを実施した。これに対し会社側は東南アジアへの工場移転を示唆し、ロックアウトを行った。次に労組は最大規模のブレーキ部品供給業者であるPBR社と交渉を開始した。同社はフォード、GM、トヨタ、三菱といった主要自動車メーカーに部品を供給していた。労組はカルソニック社との合意を基準にPBR社との交渉に臨んだ。PBR社の回答はこれより低いものであったため労組は7月15日に24時間ストを呼びかけ、さらに今後3ヵ月に毎週1回のストを計画した。このことは主要メーカーの部品の在庫を無くしてしまう可能性があり、会社にとっては労組の要求を飲まなければならない大きな圧力となっている。
  7月14日には三菱自動車のアデレード工場が製造停止に追い込まれた。これはシートメーカーでの24時間ストにより、シートの在庫がなくなったためで、結局三菱自動車は12月に合意していた休業日を繰り上げること、つまり、7月14日の生産分を12月に生産することで調整し対応した。

職場関係省が職場関係法の厳格な順守、個別契約導入など求める

 アボット職場関係省長官は労働組合の影響力を削ぐことを目的に様々な方策を利用している。
 アボット職場関係省長官は建設業に対し、全国建設規則を厳格に守ることを求めた。同規則は6年前から存在していたが、実際にはほとんど実施されていなかった。規則は、連邦政府建築工事契約の入札にかかわる条件を定め、なかでも職場関係法のクローズド・ショップ禁止規定に反するような協定を労組と結んでいる使用者は連邦政府との契約が認められないとされている。この分野の政府予算は年間およそ50億豪ドルであり、規則に従っていない使用者にとっての影響は計り知れない。加えて、同規則は長官の裁量にゆだねられる部分が大きく、問題だと指摘されている。
  こうした動きに対しては、労組だけでなく多くの使用者が懸念を表明している。というのは、建設業では労組によるパターン・バーゲニングを通じ統一的な労働条件基準が設定されている。これによって労働条件引き下げによる競争は不可能となった。多くの大企業はこれだけでなく、クローズド・ショップ協定をも受け入れてきた。小規模企業の場合もこれらを受容してきたが、ただ常に労働条件削減の機会を窺っている。そのため使用者団体は、統一的な労働条件基準設定の圧力がなくなれば、同業界が混乱に陥ると認めている。しかし、アボット長官は、労使関係法には関係なく同業界の規則を独力で変更しようとしている。
 さらに、長官と連邦政府は高等教育産業や製造業等でも同様の戦略をとっている。高等教育産業については、連邦政府が高等教育改革案を提示し、そのなかで大学教官への個別契約提示を条件に連邦政府基金を拠出することを明らかにした。これは、全国高等教育組合(NTEU)の影響力低下を目的としたものである。製造業に関しては、主要自動車メーカーにあててその労使関係を批判する文書を送付した。また労使関係委員会による職場復帰命令に従わない労組に対し法的措置も辞さない方針を示している。

内閣改造でアボット職場関係省長官が保健省長官に−労使関係改革に行き詰まり?

 ハワード首相は、閣僚の辞任やスキャンダルなどを受け2003年9月に内閣改造を行った。これによりアボット職場関係省長官は保健省長官に横滑りし、職場関係省長官にはケビン・アンドリュース氏が就任した。
 今回の内閣改造の背景には、いわゆる第2次労使関係改革の大半が上院で頓挫する中で、実行力では定評があるアボット長官をいつまでも望みの薄い労使関係改革に従事させるのでなく、現下最大の懸案である医療制度改革に充てたいとの意図があったと見られている。そのため今回の改造人事が労使関係改革の終了を意味すると捉える向きもあり、新長官のもとで労使関係改革についてさらなる強硬策がとられる可能性は低いと見られている。

ACTU全国大会の開催

 オーストラリア労働組合評議会(ACTU)の全国大会が2003年8月18日から22日、メルボルンで開催された。全国大会は3年ごとに開催され、今後の活動方針が決定される。組織率の低下や労働党との関係の見直しなどACTUを取り巻く厳しい環境の中、様々な提案が行われた。

<厳しい環境>
 ACTUをめぐる状況は年々厳しくなっている。まず第1に、1980年代初頭には45%近くあった労働組合の組織率が、現在では23%、民間部門だけで見ると18%にまで落ち込んでいる。そのため、組織率低下を食い止めることがACTUの最大の課題となっている。第2に、労働組合にとって不利な政策を避けるためには労働党が政権を獲得することが望まれるが、近い将来労働党が政権に復帰する可能性は低いと指摘されている。というのは、労働党自体の評価は低くないものの、その党首であるサイモン・クリーン氏の人気が芳しくないのである。さらに第3として、ACTUと労働党との関係は様々な理由から緊張状態にある。例えば、労働党全国会議におけるACTU代表の議席数削減や貿易・経済政策、労使関係政策に関する方針の違いなどが挙げられる。第4に、ACTUは労働組合間の縄張り争いに何らかの解決策を講じなければならなくなっている。組織率低迷とともに労組間の縄張り争いの増加が予想され、それがACTUの活動に暗い陰を落とす可能性も指摘されている。

<今後の活動方針>
 ACTUは、職場も含めた社会的公正に関わる問題や労働時間、家庭生活と仕事の両立、税制等について幅広く運動を展開しながら、その活動の効果を高めようとしている。そのため伝統的な手法ばかりでなく、メディアを通じたコミュニティ・スタイルの活動方法がとられるようになっている。また欧州型の労働時間規制や労使協議会等も模索されている。
 大会は初日、労使協議会の設立を奨励するという提案を行った。ACTUの説明では労使協議会はある種の従業員代表制であるという。執行部は、労使協議会が従業員代表の選択肢を提供し、それにより労働者が労組を望ましい代表として選択する道が開かれると考えている。この点については、使用者が労組代表を排除する手段にもなりかねないとの批判も示されたが、最終的にこの方針は採択された。
 さらにACTUは労働条件改善を含む生活向上を目的とした方針も示した。第1に、低所得者を対象に今後3年間に17%の賃金引き上げを求めていくことで合意した。第2に、臨時労働者の増加を抑制するために、臨時労働者が6カ月間継続勤務すれば常用雇用に転換できるようにテストケースを申請することで合意した。第3に、連邦政府が有給出産休暇制度を導入しない場合には、個別のケースごとにACTUが有給出産休暇の実行を求めていくこととした。第4に、労働時間の上限規制について、ACTUは時間外労働を含めて週48時間を法定上限としている欧州型の制度を提案した。上限規制にはニューサウスウェールズ州代表が反対していたが、今後相当の協議を行うことで反対を克服した。

大規模な反戦デモ

 2003年2月半ばから3月下旬にかけて、週末には延べ数百万の人々が米ブッシュ政権のイラクへの戦争反対、ハワード豪政府によるオーストラリア地上軍の派兵反対で大規模な集会、デモが繰り広げられた。
 2月14日、メルボルンでは15~20万人がデモ行進し、16日にはシドニーで25万人が行進した。両市とも数時間にわたって以内の交通機関が麻痺し、メルボルンでは集会場所となったフェデレーション・スクウェアに参加者が入りきれず、シドニーではさらに大きな場所へとでもコースを編成しなおした。
 開戦後初の日曜日となった3月23日、国内各地で反戦デモが起き、シドニーでは5万人以上が集まった。(加藤益雄)