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国旗 世界の労働者のたたかい
オーストラリア
2005

概 観

◎ 2001年の9.11米中枢同時テロ、02年10月12日のインドネシア・バリ島爆弾テロ事件(オーストラリア人は88人死亡)後、ハワード政権は、(1)治安情報局(ASIO)の捜査権限の拡大、予算・要員の増強、(2)国防軍に対テロ部隊新設、(3)一部航空便に武装警備員配置など、テロ対策強化策を実施したが、04年9月9日、インドネシア・ジャカルタのオーストラリア大使館前で爆弾テロが発生。ハワード首相は同月20日、連邦警察にテロ対策の専門チーム6隊を設置し、2隊を東南アジア諸国に配置するとの計画を発表した。
 ハワード首相は、キーティング労働党前政権の「アジア重視」から一転して対米関係を最重要視し、米国に追随して地球温暖化防止のための京都議定書の批准を拒否し、米主導のアフガニスタン攻撃(01年)、イラク戦争(03年)へ兵員を派遣、イラク戦争後も駐留部隊約850人を派遣した。ハワード首相は02年10月のバリ島爆弾テロ後、近隣諸国で活動するテロ組織への先制攻撃もあり得ると発言し、東南アジア諸国から非難の声が上がったが、04年の総選挙でも同様の発言を繰り返した。
◎ 他方、2001年総選挙で敗れた労働党は、キム・ビーズリーの後、党首に就任したサイモン・クリーンの下で支持率が低迷。クリーンは03年11月に辞任し、若手のマーク・レイサム下院議員を12月議員総会で新党首に選出した。労働党支持率は上昇に転じ、与党保守連合と同レベルにまで回復し、レイサム党首は04年3月、「次期総選挙で労働党が勝利すれば、イラク派遣の国防軍全員をクリスマスまでに帰国させる」と表明した。
◎ 04年6月27日、バグダッド郊外でオーストラリア空軍C130輸送機が地上からの攻撃を受け、米国人1人が死亡。ハワード首相は8月31日に下院を解散。10月9日行われた総選挙では、与党・保守連合(自由党、国民党、地方自由党)が下院で解散時より5議席増の87議席を獲得し、上院でも躍進して39議席を確保、24年ぶりに与党が両院を支配した。4期目のハワード政権は1949〜66年のメンジズ(自由党)に次ぐ歴代2位の長期政権となった。
◎ 04年7月、タイとの自由貿易協定(FTA)に調印。11月には東南アジア諸国連合(ASEAN)とオーストラリア、ニュージーランドがラオスでの2004年首脳会議で、05年初めから3者の自由貿易協定(FTA)交渉を開始することで合意し、10年以内の関税撤廃をめざす。ASEANとのFTA締結はシンガポールに続き2ヵ国目。マレーシアとも7月にFTA締結に関する予備的な研究着手で合意した。
◎ 03年10月、ブッシュ米大統領がオーストラリアを初訪問し、イラク戦争参戦に謝意を表明。ハワード首相は04年6月に訪米。前年の3月から政府間交渉を行っていたFTAの締結で合意し、04年5月に調印した。工業分野では協定発効後、関税をほぼ全分野で速やかに撤廃。農業分野では砂糖の米国内産業保護の問題でオーストラリア側が妥協し、関税撤廃要求を棚上げ。牛肉の関税撤廃は18年間かけて段階的に実施することで決着した。
 オーストラリアは日本とのFTA締結を望んでいるが、農業分野が障壁となって日本側は消極的姿勢。両国は「日豪友好協力基本条約」署名30周年にあたる06年を「日豪交流年」に設定した。経済関係では、日本は最大の輸出相手国。03年12月に米国で牛海綿状脳症(BSE)感染牛が確認され、日本が米国産牛肉の輸入を停止したため、04年は日本への牛肉輸出が急増した。トヨタ自動車がメルボルンに生産工場。三菱自動車は04年5月、アデレードのエンジン工場を閉鎖し、現地生産車種も縮小すると発表した。
 物品サービス税が導入された00年以降、景気が減速したが、個人所得税の軽減や住宅購入者への補助金などの施策で住宅建設と個人消費が上向いた。03年の経済成長率は2.4%、インフレ率2.8%。就業者数は堅実に伸び、04年11月の失業率は5.2%。

労働党党首が交代 ― 労働組合との緊張関係

 マーク・レイサム氏が、2003年12月に労働党の党首に就任した。前任者のサイモン・クリーン氏が国民に人気がなく、このままでは総選挙で勝つことができないということで党首選が実施され、キム・ビーズリー候補とレイサム候補との間で争われたが僅差で42歳のレイサム候補が選ばれた。この結果は、ともにオーストラリア労働組合評議会(ACTU)議長から労働党党首、さらに豪首相となったボブ・ホーク、ポール・キーティング時代に決別する世代交代ととらえられた。
 ボブ・ホークに代表される以前の労働党党首は、政策についてACTUと事前に協議してきた。ところがレイサム新党首の場合には、労働組合の役割に対する考え方がそれまでの労働党党首とは異なり、社会的責任や福祉からの脱却、流動性の高い社会を信条として、亡命者の強制的な留置や同性婚といった問題には理解ある立場をとるものの、それ以外の問題についての見解は政治的には保守派と変わらない。そのため、労働党と労組との間の緊張関係が高まる可能性があった。例えば、新党首は富裕層に対する減税を支持しており、ACTUの見解とは異なる。
 その後、04年10月の総選挙で与党保守連合に敗れた労働党は、レイサム党首が05年1月、健康上の理由から政界引退を表明。ビーズリーが党首に返り咲いた。

豪米自由貿易協定(AUSFTA)をめぐって

 2004年2月9日、オーストラリアと米国は自由貿易協定(AUSFTA)に署名した。同協定発効のためには両国の立法府による承認が必要で、米議会はすでに承認したが、オーストラリア議会ではなお検討中となった。AUSFTAの最終的な内容は一般には公開されず、さらに両国代表がその利益について相反する主張を行った。オーストラリアはすでにこうした協定をニュージーランド、シンガポール、タイと締結している。
 マスコミは、同協定がオーストラリア経済に40億豪ドルの利益をもたらすと宣伝したが、その評価については意見が分かれている。協定の主な内容は、米国の農業市場がオーストラリアの生産者に開放され、代わりにオーストラリアが米国からの輸入品に対する関税を撤廃ないしは引き下げるというものである。後者の関税撤廃の部分は、組織率の高い製造部門の雇用を減少させる可能性があるため、労組にとっては長年の懸案となっていた。

◆労組の対応にも温度差
 ACTUは、AUSFTAが一方的な協定であり、製造業、とくに自動車部品での雇用が失われる可能性があると非難する見解を発表した。また、オーストラリアにとってプラスと主張されている米国の農業市場の開放についても疑問を投げかけた。
 しかし、こうした反応は当然予想されたもので、その一方でACTUの反応が意外にも穏やかであったことが注目された。その理由の一つとして、環境基準と労働基準を守るという条項がAUSFTAの中に挿入されたことが指摘されている。タイやシンガポールとの自由貿易協定にはこうした条項はなかったため、こうした条項が挿入されたこと自体、驚きを持って迎えられた。
 さらに、この問題に関してACTUは、オーストラリア製造労働者組合(AMWU)に比べてそれほど力を注いでこなかったという背景がある。AMWUは、協定のコストと利益に関し客観的な当事者による十分な分析がなされていないと主張し、製造業とそこで働く労働者が敗者となりかねないとの懸念を表明した。
 04年7月の全労連大会に参加したオーストラリア建設・林野・エネルギー労組(CFMEU)代表は、大会前日の「国際交流会議」で、同協定の内容と政治的問題、さらに協定が労組に与える影響について、とくにILO条約・勧告の支持の欠落、米巨大メディア・コングロマリットに与える譲歩によるオーストラリアの文化的アイデンティティへの脅威、そしてオーストラリアの医薬品給付制度(PBS)による手ごろな値段の医薬品にたいする脅威をあげ、「国民大多数の利益ではなく、金持ちで力のある人々の利益に役立つもの」と批判した。「自由貿易協定がオーストラリア国民の利益に反するものと広く認められているにもかかわらず、メディアがこれへの反対をすべて反米的だとして攻撃することで、それは承認されるだろう」との見通しを述べていた。

◆米国との自由貿易協定が成立 − 経過と紆余曲折
 連邦議会は8月13日、米国との自由貿易協定を認める法案を通過させた。法案通過に対しては、労組や環境保護団体が強く反発した。法案通過の鍵を握ったのは野党労働党であった。労働党内部でも左派系議員は反対の意思を明らかにしていたが、それ以外の議員は自由貿易協定が短期的には問題があるにせよ、長期的には十分な利益をもたらすと評価した。
 自由貿易協定をめぐる労働党内部での対立が明らかになったのは04年1月。しかし党の公式見解は、協定を審議している上院委員会の報告待ちということになり、協定をめぐる対立は一時的に収まったが、労働組合は協定には大きな懸念を表明していた。
 とくに問題とされたのは、自由貿易協定が医薬品給付制度(PBS)の崩壊をもたらすのではないかということであった。PBSは国内における医薬品取引を規制し、その価格を抑制している。協定締結交渉の過程で、米国の製薬業界はこのPBSを問題にした。その後連邦政府は、PBSに対する製薬業界の影響力を排除するために、手続に透明性を持たせるという方針を明らかにした。しかし多くの国民は政府のこの方針を信用せず、またPBSはいずれ崩壊し、それに伴い薬価も上昇するという暗黙の合意がなされたのではないかと疑いが根強く示された。
 このほかに問題とされたのは、(1)関税ゼロ政策を採ることで製造業における雇用が失われ、とくに自動車組立業に深刻な損害をもたらす、(2)自由貿易協定が対等なものでなく、オーストラリアに負担を強いる不均衡なもの、(3)協定は知的財産に関しオーストラリアに多大な損失をもたらす。とくに米国の安価なテレビ番組により、国内で製作したプログラムが減少し、ひいてはオーストラリア独自文化の危機を招く、との懸念も出された。さらにいくつかの労働組合は独自に世論調査を行ない、国民の反対を根拠にして労働党に対し協定反対の意思を明らかにするよう迫った。ACTUもこうした動きを受け、7月の全国大会では協定反対の決議を行った。
 これによって労働党は非常に困難な立場に立たされた。レイサム労働党党首は自由貿易を強く支持しており、労働党としては協定を支持しながら、同時に労働組合などの懸念を払拭するために、協定に対する修正案を提出するという方法をとった。それはPBSの保護を目的としたもので、政府も最終的にこれを受け入れた。その結果、労働党が協定支持にまわり、法案は成立した。
 多くの労組が労働党のこの決定に反発した。とくにAMWUは労働党に対する寄金の削減を明らかにした。ACTUは、協定には反対の立場を取りながら、反労働党運動は行わないとした--。

本格的な高齢社会むかえ、年金制度が大問題に

 オーストラリアも本格的な高齢社会を迎え、高齢者の所得保障が大きな問題になっている。
 現行年金制度は1986年に当時の労働党政権によって導入された。政府拠出による公的年金ではなく、労働者が賃金の一部を老後のために拠出し、使用者は賃金の一部を控除して、それに使用者負担分の保険料を合わせ、退職年金基金に納入する。基金は投資を通じて積立てを増やし、労働者は退職時に一時金または年金、あるいはそれらの組み合わせたものを受け取る。退職時の積み立てが十分でない者に対しては、最低保障という形で政府拠出年金が平均賃金の25%を限度に支給される。一時金と年金では異なる税率が適用され、年金を選択した者が優遇される。
 近年、第1次「団塊世代」の引退が始まったことをきっかけに、年金支給額が老後の生活に不十分ではないかとの懸念が強まり、退職年齢の引き上げ、パートタイム労働の奨励、保険料率の引き上げ、税金・手数料の減免等について再検討の声が高まり、基金口座の出入金に対する15%課税や基金徴収の手数料、加入・脱退料、基金の投資戦略に対する批判が出された。
 連邦政府は、65歳を超えて退職年金保険料を納める場合の税額控除、55歳以降の在職年金導入など、労働者の就労促進・生涯現役の奨励といった政策をすすめている。

  1. 低賃金労働者の自己負担分の保険料を政府が補助する共同保険料制度の適用対象を年収2万7500豪ドル未満のすべての労働者に拡大し、これによって従来低賃金であったために使用者による保険料負担の対象となっていなかった者も対象に含まれることになった。
  2. 年収が2万7500豪ドル〜4万豪ドルの者についてはスライド制による保険料補助を実施。
  3. 基金が徴収する手数料の透明性を高めるために、消費者への手数料開示を要求。

 他方、労働党は、2004年3月15日、65歳定年を可能とし、老後には退職前総賃金の65%を保障するという新しい退職年金政策を発表。政府の課税額と基金の各種手数料の削減または制限を提案した。

労使関係委員会、最低賃金引き上げを決定

 オーストラリアでは、アワード制度に基づき、大部分の労働条件が連邦・州労使関係委員会(AIRC)を通して決定されている。オーストラリア労使関係委員会(AIRC)は、2004年5月5日、連邦最低賃金を週19豪ドル引き上げ、週467.40豪ドルとする決定を行なった。(05年4月現在1豪ドル82円)
 最賃の引き上げに関しては、ACTUが03年11月、週26.60豪ドルの引き上げを要求。使用者団体や連邦政府は10豪ドルの引き上げを支持していた。ACTUの説明では、パートタイム労働者や臨時労働者を含め約160万人の労働者がアワードに基づく賃金を得ており、その半数以上が時間当たり15豪ドル(約1135円)に満たない賃金で生活している。
 所得格差の拡大が指摘されており、例えば1996年から2001年にかけて給与所得者の下位20%の週当たり賃金は3豪ドルしか増えなかったのに対し、上位20%は109豪ドルも増加している。ACTUは、アワード賃金引き上げが所得格差拡大に歯止めをかけるための有効な手段であると主張。同時に、最賃引き上げが雇用や総賃金コスト、インフレに与える影響は少ないとして、連邦政府に対し低所得者の生活水準向上のためにもACTUの主張を支持するよう求めた。
 AIRCは、これら労使の見解や経済状況・失業率の推移などを考慮し、アワードが適用されるすべての労働者を対象に週19豪ドルの賃金引き上げを認めた。
 04年の引き上げ幅は1997年以降最大のものであり、連邦政府は、今回の決定によってオーストラリアの最低賃金は世界で一、二を争うほど高くなったと主張。ACTUは今回の賃上げ幅が不十分であるとはしながらも、歓迎の意向を示した。今回の決定は160万人の低賃金労働者に影響を与えると言われ、特にホテルや保育施設で働く労働者、パート、臨時労働者に大きな意味をもつと予想されている。

NSW州で臨時労働者の条件改善をめぐる動き

 ニューサウスウェールズ(NSW)州労働評議会は、臨時労働者の多くが現在の働き方を自ら望んで選択しているわけでなく、銀行のローンも組めず、休暇もとれない現状にあるとして、(1)6ヵ月以上継続的に就労した臨時労働者に常用雇用の機会を提供する、(2)派遣労働者に派遣先企業の労働者と同じ賃金率を保障する、(3)業務を外部化する企業には、既存の労働者に同一賃金率で同一請負業者での別の雇用を提供することを義務づける、との3要求を提起した。この臨時労働者の労働条件の改善を求めるNSW州労働評議会の申請について、州労使関係委員会は04年5月5日、審議を開始した。
 使用者側はこうした動きに反発しているが、注目されたのは最大の雇用主であるNSW州政府の動向である。仮に労組の主張を認める決定が下されれば、それは州内の公共部門に適用され、最終的には州内の他のすべてのアワードにも間接的な影響を及ぼす。
 結局、NSW州政府は、臨時労働者の利用制限も正当化される場合があるとしながらも、今回の申請に反対する姿勢を示した。またアンドリュー連邦職場関係省長官も労組の主張を退ける見解を明らかにしている。

政府の職業紹介サービス事業へ批判が高まる

 三菱自動車による工場閉鎖等の決定を受けて、連邦政府はその人員削減対象者に対する大規模な救援策を打ち出した。ところが、政府によるこうした特別支援策がかえって現在の職業紹介サービスの不十分さを浮き彫りにしたため、政府に対する批判が高まった。

<批判の背景 = 民間職業紹介事業>
 現政権は、失業者等の職業紹介サービス事業のほとんどを民間委託し、現在ではジョブ・ネットワークを通じ職業紹介が行われている。この制度の下で、失業者は職業紹介サービスと失業給付を受けるためにいわゆるセンターリンクで登録を行い、適当と思われる職業紹介業者を通じサービスを受ける。失業者が業者の名簿に登録されている間、業者は政府から報酬を受け取る。さらに失業者が就職先を見つけると、業者に報奨金が支払われる。この制度についてはかねてから、必要なサービスを提供するわりには政府から支払われる報酬は不十分だとの批判が出されてきた。特に高齢失業者のニーズを満たしていないといった批判が根強く示されてきた。
 最近になってそれを裏付ける報告がの存在が明らかになり、問題をさらに大きくしている。同報告は、雇用職場関係省の高齢化審議会により2003年10月に作成されたもので、マスコミ報道では、その内容が政府にとって不都合であったため公表されず、リークせざるを得なかったという。報告書は文化的にも構造的にも職業紹介サービスが高齢化社会に対応しきれていないことを指摘。特に高齢失業者は、権利や必要性があるにも関わらず十分な支援を受けていない。その原因の1つとして、業者側スタッフの多くが年齢差別に直面している高齢労働者の特別なニーズを認識していないことを挙げている。高齢者に十分な職業紹介サービスが提供されない状況が続けば、技能や経験の伝承が途絶するなど様々な問題が生じる可能性があると指摘した。

<政府の特別支援策>
 連邦政府は、こうした事業での資金不足を露呈するかのように、三菱自動車工場閉鎖の影響を受ける労働者に対する特別支援策を公表した。この時点では1000名程度の労働者が職を失うと伝えられており、総選挙を控えた連邦政府にとってこの問題への対応が選挙結果を大きく左右すると見られていた。そこで政府は即座に1000万豪ドルに及ぶ特別支援策を打ち出した。
 ところがこの特別支援はジョブ・ネットワーク加盟業者を通じてのみ利用できるため、政府はこの特別支援策を通じ自らが支援する業者を援助しようとしているとの非難が巻き起こった。通常、失業者は職業紹介業者に連絡することでまず900豪ドル相当のサービスを受けることができる。しかし三菱自動車の人員削減対象者はより高いサービスを受給でき、これにより業者には自動的に1350豪ドルが支給される。この資金は、職業訓練や交通費、書籍購入など就職支援のために使われる。さらに賃金補助や引っ越し、起業支援などのために最高で4000豪ドルの特別財政援助が提供される。これらの特別支援策が公表されると、なぜ三菱自動車の人員削減対象者だけ特別扱いされねばならないのか、そしてそれ以外の失業者にとってなぜ現行制度は十分ではないのかとの疑問が提起されるようになった。
 こうした機会に、野党労働党は2004年7月8日に高齢失業者に関する政策を明らかにした。労働党はこの問題に対し2億1200万豪ドルを投じ、職業訓練施設の建設や高齢失業者を対象とした施策等に利用するという。これに対し雇用サービス大臣は、現行制度が高齢労働者にとって十分機能していないという主張を否定し、高齢労働者を雇用するよう啓蒙・教育活動を行うことが最重要課題であると指摘した。

総選挙における連立与党の大勝が労使関係にもたらす影響

 2004年10月9日の連邦議会選挙でハワード首相率いる連立与党が再選を果たし上下両院で過半数を占めた。これまで連邦政府は労使関係改革法案を継続的に議会に提出してきたが、そのほとんどが実現されてこなかった。これは法案成立には上下両院を通過する必要があるが、労働者保護の立場を取る上院の少数政党との協議が難航することが多かったため。今回の連立与党の躍進により否決されてきた重要法案が通過する可能性が濃厚になった。

<労使関係改革法案の主な内容と組合の反応>
 アンドリューズ職場関係相は、2005年3月までに労使関係改革関連法案の検討に入ることを明らかにした。主な労使関係改革案は、1)不当解雇禁止法案の条項見直し、2)小企業の解雇手当支払い義務の免除、3)労組への加入・非加入の自由を保障する法律の強化、4)労働協約が有効な期間中の争議行動の違法化、の4項目。
 現在、従業員には不当に解雇された場合、雇用者を訴える権利があり、企業がこの条件に従わなければ、従業員には賠償金を受け復職の可能性もある。政府は解雇が妨げられることにより、特に中小企業における雇用が抑制されているとし、不当解雇禁止をやめれば8万人の雇用を創出、失業対策の一助となると主張している。政府はこの他にストライキ実施前に無記名投票の実施義務付け、ストライキ突入前に組合に義務付けられている72時間という通告期間の延長、組合の職場「立入権」の制限などの改革案を打ち出し、上院における多数支配の効力が発生する2005年7月5日以前にも法案を通過させたい考えだ。
 これに対しオーストラリア労働組合評議会(ACTU)は、交渉力をもたず、個人契約社員としての地位に甘んじなければならない低賃金労働者が増える「米国式」労働市場が確立されつつある中、新たな法律によって組織労働者が一層困難な状況に陥ると主張。労使関係改革に対して全面的に闘うと宣言、対抗手段として現行の労働協約(ABAs)条件拡大の採用を検討、製造業労働者組合(AMWU)、労働組合評議会理事も同調するものと見られる。

<テルストラ社の民営化の動きも>
 労使関係改革法案に並ぶ重要案件として挙げられているのが、オーストラリア最大の情報通信サービス会社であるテルストラ社の完全民営化の問題だ。政府保有の株式51%の分割売却の姿勢を見せたコステロ財務相の意見に対し、ミンチン予算相は一括売却されると述べる等、政府内の意志統一はなされていないものの、完全民営化法案が議会を通過するのは最速で2005年8月とされており、テルストラ社自身も来るべき民営化に対する備えとして小売および卸売り部門の別組織化等の事業改革を進めつつある。(加藤益雄)