日本と赤道をはさんで反対側に位置するニュージーランドはよく日本と比較される。国土面積は日本と同程度だが、人口は400万人弱(欧州系71.7%、マオリ系14.2%)、温暖で農牧畜が盛んであり、2000年のGDPは,500億ドルとなっている。
ニュージーランドは「新自由主義政策の実験室」として、90年代もてはやされた国であり、5月の小泉首相訪問の際にもそのことがずいぶん取り上げられた。しかしニュージーランド自身は90年代の新自由主義政策による「構造改革」路線によって、公共サービスの民営化、質の低下、社会保障の切り捨て、労働法制の自由化などに国民的反撃が起こり、99年以降ヘレン・クラークを首班とする労働党連立政権により、政策転換を図っている。
■総選挙で労働党政権維持
02年7月に行われた総選挙では、ニュージーランド労働組合評議会(CTU、ロス・ウィルソン議長)は労働党支持を掲げ選挙に取り組んだ。加盟組合員に対しての広報活動や地域での労働組合員の宣伝活動などが行われた。
労働党にはCTU加盟単産の多くが組合として加盟しており、極端な規制緩和路線・自由化・行革路線修正をさらに進めるために労働党を、と組合員自身に訴え活動を組織した。
結果、労働党政権は現有49議席から3議席伸ばし52議席で第一党の地位を確保。8議席をとった緑の党や、2議席をとった進歩連合党と連立政権を組み、引き続き政権を担当することとなった。90年代に規制緩和を推進した野党第一党の国民党は39議席から大幅に減らして27議席となった。
■人間らしい生活をGet a Lifeキャンペーン
CTUでは2002年、「Get a Life(人間らしい生活を取り戻そう)キャンペーンに取り組み、さまざまな労働条件改善の運動を行った。長時間労働の問題では、CTUが報告書を発表している。報告書では90年代の規制緩和路線による労働法制改悪で長時間化している労働時間によって、労働者の生活のどのような被害があるかについて分析し、労働時間と労働力再生産時間のバランスの確保を提案している。
7月の総選挙前に発表された報告書では、団体交渉を通じての長時間労働解消の実現とともに、具体的な労働時間短縮への政策提起を政党が有権者に対し行うよう求めた。
同キャンペーンではまた、労働災害の問題にも重点的に取り組んでいる。CTUのロス・ウィルソン議長自らが弁護士として労働安全衛生の専門家であり、積極的に取り組まれた。11月に資源回収車でゴミ回収にあたっていた16歳のブラディ・スミス君が回収車両に挟まれて死亡した事件後には、CTUが改善要求を速やかに提案した。適切な訓練と指導なしに、青年労働者に危険作業に従事させることはできないと指摘し、労働安全衛生法の厳格な適用と、いっそうの罰則強化を求めた。
■CTUの組織的前進
7月のCTUの発表によれば、CTUはこの2年間で労働力人口の増加率の倍にあたる9%の組織的前進をとげた。90年代の新自由主義政策による労働組合組織率の激減から、引き続き回復を遂げていることが明らかになった。
CTUではナショナルセンターとして包括的組織戦略を作成、徐々に効果を上げており、2年前には20万人を切るほどの組織が、今年30万人近い加盟人員を擁する組織となった。労働者に占める労働組合組織率は、22%となった。
■最低賃金の改定とILO98号条約の批准
ニュージーランドの最低賃金の改定は12月に行われる。労働党政権になってからは毎年改定が行われているが、02年は時給8.50ニュージーランド・ドルに引き上げられることになった。ニュージーランドの平均時給は現在約19ドルである。CTUは直ちに歓迎の声明を発表し、さらに平均時給の約50%にあたる時給10ドルまで早急に引き上げるように求めている。また若年最低賃金を現行の成人最賃の60%から80%への引き上げ、訓練生最賃の導入、成人最賃の適用範囲を20歳から18歳に引き下げることを求めている。
ポール・ゴールターCTU書記長は「この間の最賃水準の引き上げによっても雇用が脅かされたという証拠は何もない。雇用はこの3年間で最低賃金の上昇と合わせて拡大している。ニュージーランドの最低賃金は低すぎるという問題はあっても高すぎることはない」と声明で述べた。
またニュージーランド政府はILO98号条約の批准を年末に発表。ニュージーランドでは90年代の雇用契約法のもとで、産業別団体交渉システムを完全に破壊され個別雇用交渉システムに移行したため、ILOからも問題として指摘されていた。
労働党への政権交代後は、雇用契約法は雇用関係法に置き換えられ、いったんは破壊された産別交渉も再構築されつつある。労働組合の90年代の後退の原因であった雇用契約法の廃止、雇用関係法の制定を勝ち取ったニュージーランドの労働組合にとって、ILO98号条約の批准は団体交渉権関連法を国際水準にまで引き上げるという重要な勝利となった。
■イラク戦争反対、非核政策へ圧力許さず
イラク戦争問題では、ニュージーランドの労働組合は早い段階から戦争反対を掲げてきた。12月19日に行われたCTU加盟組合全国会議ではイラク戦争反対決議をあげた。決議ではアメリカの戦争の支援反対、ニュージーランドの非核政策へのいかなる圧力も排除すること、国連決議の履行のために政府の努力を求めた。また組合員に平和の情勢に関する世論を広げること、地域でのあらゆる反戦行動を支持し参加することを呼びかけた。
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