【ゆにきゃん発 実践レポート②】職場に同性パートナーシップを認めさせるユニオン(しょくぱん)
職場に同性パートナーシップを認めさせるユニオン(しょくぱん)
岩崎唯(さっぽろ青年ユニオン執行委員長/札幌地区労連副議長、写真左)

きっかけ――ストーリーオブセルフ(自己紹介)と「しょくぱん」の共有目的
”普通じゃない”と突きつけられて
私は、異性のパートナーと夫婦別姓を目的に事実婚をしています。
でも、夫婦別姓を決断するまでパートナーと二人きりのしんどい話し合いや、親への報告、行政手続き、職場への手続きで何度か嫌な思い出があります。例えば、私たちが夫婦であることを証明するための、唯一手に入る公的な書類である“住民票”を手に入れるために行った区役所の窓口で「婚姻届を出していないなら同居人としか表記できない」といわれました。
何度かやり取りをしたのちに「妻(未)」(※婚姻届け未届けの妻という意味)と表記した住民票が発行されました。覚悟はしていたけれど、こうやってスムーズにいかないたびに“普通じゃない”ことを自覚させられるのかと悲観しました。けれど、それらのスポット的な嫌な場面を思い出しながらも、私は私の幸せのために行動し、自分もパートナーも大事に思って対等に生きていけていることを誇りに感じています。
「なぜ行動したいか」――4人の思いを共有
そんな私に、2023年9月13日、同じく札幌で組合活動をしている桃井希生さんから「労働組合で同性パートナーの配偶者手当や慶弔休暇等を求める運動を全国に向けて出来ないかと考えているので、一緒にやりませんか?」とメッセージが届きました。そこに4人のメンバーが集まりました。初対面の同志がいたので、いきなり本題に入らず、最初に書いてある私の話のように「ストーリーオブセルフ」を語って、関係構築からしてみようとなりました。
9月から11月にかけて3回のミーティングを経て私たちのチーム名が「職場に同性パートナーシップを認めさせるユニオン『しょくぱん』」になりました。
ミーティングの中身
●1回目 ストーリーオブセルフ的自己紹介
●2回目 1対1の関係構築、共有目的
●3回目 ノーム、チーム名、チャント
しょくぱんの目的と活動は、(目的)あらゆる差別や暴力、ハラスメントを見過ごさず、自分と他者の尊厳を守れる社会のために、(同志)労働組合で闘う人、自分の職場でパートナーシップを実現したい人と共に、(活動)労働運動を通じて、声をあげる姿を可視化し、家父長制をひっくり返し、職場で同性パートナーを配偶者と認めさせることです。
チームのノーム(決まりごと)
【意思決定プロセス】
議論を尽くしたうえで、割れた場合は最終的な決定者になる人を指名する。
【必ずすること】
オープンで正直な議論、言ってくれてありがとうの意思表示、必要な支援を求めるなど
【決してしないこと】
個人攻撃、結論に飛ぶ、差別、達成できないと思う仕事にコミットするなど
チャレンジ
“同志のいないキャンペーンはどうしようもない”
12月24日の戦略会議でタイムラインの大枠までを作成し、戦略的ゴールは「2024年11月22日までに100社が結婚、家族にかかわる就業規則を事実上結婚状態にある同性パートナーシップを結ぶ労働者にも適用させる」としました。
しかし、2024年2月にしょくぱんアドバイザー(マリフォー弁護団や札幌で活動している当事者の方)との懇談を経て、“同志のいないキャンペーンはどうしようもない”といったん白紙に。
ここでいう同志は、
①同性のパートナーとの制度を求める当事者
②自分の職場に同性パートナー制度を作りたい労働者
③同性パートナー制度を作るときに一緒に活動する労働組合です。
①の当事者と私たちの接点不足に加えて、③もまだまだ整っているとは言えず、全国的な運動に展開するには道筋が見えていない状態でした。
学習会を開催――誰に参加して欲しいかを考えながら
課題が整理されたところで、タイムラインを遂行するための準備期間として、③のネットワークづくりとして、レインボーノッツ合同会社の五十嵐ゆりさんが札幌に来るタイミングに合わせて「職場で同性パートナーシップ制度をつくる労働組合講座」を9月14日に企画しました。講座を行うにあたって、セクシャルマイノリティだけでなく、障害の有無でマイノリティになりがちな方の参加も想定し準備をしました。桃井さんから声をかけられてちょうど1年、70人を超える方が参加してくれました。
講座で新しく加わったメンバーと労働組合で同性パートナーシップ制度を求める取り組みを継続しています。

これから――しょくぱんで変えよう(ストーリーオブナウ)
日本企業は、婚姻届を出して家族を形成している人に手厚い仕組みがたくさんあります。一方でどのくらいの会社で、事実婚や同性婚に法律婚と同様の制度が適用されているでしょうか。家族がいても、福利厚生を受けられない人、家族の存在を明かすことを躊躇する働く仲間が大勢います。
労働組合ができることは、不平等がないように会社に迫り、社会ごと変えていくことです。それは確実に身近にいる性的マイノリティの仲間に届きます。労働組合で同性パートナーシップやLGBTQについての理解を深め、偏見をなくし、職場の就業規則、労働協約を変えることにチャレンジすることで、法律が作られる追い風になると信じています。法律ができるのを待つのではなく、法を上回る労働協約を作れる労働組合の皆さんと一緒に明日から頑張ろうという気持ちになれたらと思います。
福利厚生等の格差が生じる項目例
- 結婚祝い金
- 結婚休暇
- 住宅手当(扶養家族の有無で差額がある)
- 忌引き休暇
- 育児・介護休業など
しょくぱん連絡先:shokupan.union@gmail.com
(月刊全労連2025年4月号 通巻338号掲載)
「ゆにきゃん発 実践レポート」
参加者が始めた職場や地域で、変化を起こすチャレンジをレポートする『月刊全労連』の不定期連載。
ゆにきゃんとは、困難に直面する当事者が仲間と共に解決を目指すコミュニティオーガナイズの手法を学ぶ全労連主催のワークショップです。2020年の開始から500人以上が参加し、各地でキャンペーンがうまれています。参加者が始めた職場や地域で、変化を起こすチャレンジをレポートする不定期連載。