2012年1月17日
厚生労働大臣
小 宮 山 洋 子 殿
労働政策審議会
会 長 諏 訪 康 夫 殿
同 労働条件分科会
分科会長 岩 村 正 彦 殿
有期労働契約規制に関する意見
昨年12月26日の労働政策審議会の建議「有期労働契約の在り方について」は、非正規労働者などの期待に応えておらず、「有期労働契約研究会報告(2010年9月10日)」の到達点をも下回っているなど極めて不十分な内容である。労総契約法改正法案の検討にあたっては、下記意見をふまえた抜本的な検討を強く求める。
派遣切り、派遣村に象徴されるワーキング・プアや非正規労働の課題は、09年総選挙における政権交代の端緒ともなった大問題である。また、大震災・原発事故の発生という状況のもとで雇用の安定はいっそう切実な課題となっている。非正規労働者の雇用の不安定さと処遇の劣悪さなどは、相次ぐ労働法制の規制緩和によってもたらされた「政治災害」である。「雇止めの不安」という声に代表されるように、「有期」という雇用形態そのものに内在する根源的な矛盾への対応がなされてこなかったことの結果である。有期労働契約そのものを制限し、「期間の定めのない直接契約」を雇用の原則とすることを前提にした検討を強く求める。
建議は「入口規制」を見送り、有期労働契約期間についても「5年」という長期に緩和するなど、いつでも切れる安価な労働力、景気変動の調整弁として、有期契約労働者を位置付ける内容となっている。雇用、賃金破壊の自由を使用者に認めるに等しい内容である。
よって、下記の意見を提出し、有期契約労働者をはじめ労働者・国民の切実な願いを踏まえた論議と実効ある規制の具体化を強く求める。
1.「臨時一時的な業務」に限定するなど、合理的な理由がない有期労働契約を制限する仕組みを導入すべきである。
大震災を契機に有期労働契約が雇用にとって有益であるかのごとき論が強まっているが、実態をみれば、事実はあべこべである。被災地ではいま、月の手取りが10万円程度の短期・低賃金労働が横行しており、「これでは暮らせない。復興もできない」という声があがっている。失業給付も切れようという状況のもとで、住み慣れた地、故郷での生活再建をあきらめ、県外に出ざるをえない人が続いている。長く働きつづけられる仕事、暮らせる賃金の保障こそが必要なのであり、「仕事なら何でもいい」という論は誤りである。
リーマン・ショック後の派遣切り・非正規切りの嵐、そして「年越し派遣村」の経験を通して、「政治災害」ということが強く言われたが、その状況は今も続き、さらに深刻化している。「いつ雇い止めされるか」という怯えなど、非正規労働者の不満は「有期」という有期労働契約そのものに内在する矛盾であって、部分的な手当では改善しきれない。
よって、有期労働契約は臨時・一時的な業務に限り、合理的な理由がない場合には締結できないとする入口規制が必要不可欠である。
2.有期労働契約の反復・継続については「業務」による規制とし、「1年・2回」程度に限定すべきである。
建議は「有期労働契約が、同一の労働者と使用者の間で5年を超えて反復更新された場合には、労働者の申出により、期間の定めのない労働契約に転換させる仕組みを導入することが適当」とし、しかもクーリング期間を6月としている。しかし、これでは、入口規制がないことと相まって、利用可能期間目前での雇止め、労働者の入れ替えによる雇用の調整弁としての低賃金・不安定労働の永続的乱用につながることは明らかである。
有期労働契約を臨時・一時的業務に限定していくため、出口規制についても「期間1年・更新2回」程度に規制すべきである。
3.期間制限超えなどの場合の「無期みなし」を規定すべきである。
建議はまた、利用可能期間を超えて反復更新された場合には「労働者の申し出」により、期間の定めのない労働契約に転換するとしているが、これについては「無期労働契約とみなす」規定にすべきである。
有期契約労働者はとくに弱い立場に置かれているのであり、「労働者の申し出」のないことを悪用した有期労働契約の継続を起こさない措置とすべきである。
4.正規労働者との均等待遇原則を明記すべきである。
建議は「期間の定めを理由とする不合理な処遇の解消」を掲げているが不十分である。同じ仕事に従事しながら著しい賃金・労働条件の格差があることが身分差別のごとく大きな問題になっており、「均等待遇原則」を明確に規定し、実効性を担保すべきである。経営者が有期労働契約を利用・乱用する最大の理由が人件費削減となっていることからしても、有期労働契約の乱用を防ぐためには不可欠の措置と考える。
建議はまた、「転換に際し、期間の定めを除く労働条件は、別段の定めのない限り従前と同一とする」とわざわざ明記したが、これは削除すべきである。当該事業場には同一職種の正規労働者がいる場合も多く、その場合には「期間の定めのない」労働契約でありながら、処遇の違う労働者を大量にうみだすという不合理を法的に是認すべきではない。
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