全労連・労働法制中央連絡会・自由法曹団は2月24日、全労連会館ホールで「改悪派遣法対策学習会」を開催しました。安倍政権による派遣法改悪で、派遣労働者の業務単位の期間制限が壊され、派遣労働者を恒常的に受け入れることが可能となり、直接雇用から間接雇用(派遣労働者)への置き換えがすすむことが危惧されます。職場の取り組みとして、派遣労働者の処遇改善と組織化、正社員化のたたかいをすすめることが重要になっています。そうした視点から、今回の改悪派遣法対策マニュアル(以下マニュアル)は作成したものであり、その活用と実践が求められています。
学習会では、初めに全労連の野村副議長(労働法制中央連絡会代表委員)が主催者あいさつ。「労働者派遣制度は、臨時的・一時的なものであることを条件として、職業安定法の例外として認められたものである。その原則を覆す派遣法大改悪に対し、私たちは派遣労働者とともに廃案要求の旗を掲げてがんばってきた。今や、政府は安定雇用の予算を10分の1に、雇用流動化政策の予算を4倍にし、正規を自由に首切りし流動化する政策を、国家成長戦略として決行しようとしている。現場の実態を明らかにし、その改善を求め、雇用流動化を止めていこう。正規も非正規も職場を良くするためのたたかいを一緒に作っていこう」と訴えました。
●団交権を活用する
「改悪派遣法・省令・指針のポイント」として自由法曹団・労働法制改悪阻止対策本部長の鷲見弁護士が講演。はじめにマニュアルについて「派遣法が改悪されたが、労組にとってどういう権利があり、団交権を使って派遣労働者をどう直雇用、正社員化していくか、そういう観点で議論し、まとめてきた」と話しました。改悪法について「常用代替防止原則を担保するための業務期間制限がなくなったが、それに代わるものとして過半数労働組合の意見聴取義務が入った。これは労組の意見を聞きさえすればいいということではない。受入れ時の丁寧な説明、延長時は派遣人数などの資料を組合に提供しなければならないことなった」と述べ、「過半数労働組合とあるが、団交権は組合の大小にかかわらず平等に認められた権利であり、義務的団交事項としてすすめていくことが重要」と、団体交渉の重要性を強調しました。
鷲見弁護士は、「義務的団交事項は、使用者に権限のある、(1)組合員である労働者の労働条件その他の待遇に関する事項や、(2)労働組合との労使関係に関する事項に限られる。労働者派遣の導入や延長が、義務的団交事項であることについては、経営施策に関する問題だからとか、組合員の問題ではない等という理由から、否定する見解がある。
しかし、労働組合は、事業所への労働者派遣の導入や延長が、事業所の組合員の雇用と労働条件に影響を与えることを明らかにすれば、少数組合を含めて、派遣先に対して、派遣の導入や延長の可否、派遣期間、人数、派遣社員の正社員化等について、団体交渉を求めることができると考えるべきである。低賃金・不安定雇用の労働者派遣を導入し派遣期間を延長して、派遣先の常用労働に従事させることは、正社員(組合員)の雇用を奪い、労働条件の低下をもたらす具体的な危険があることだから、労働者派遣の導入や延長は義務的団交事項とされうる」と、団体交渉の成立を肯定するめぐる法理を展開されました。
●臨時的・一時原則をやぶる期間延長は派遣法25条違反として申告しうる
ただし、会社に義務付けられているのは「意見聴取」であって、合意ではありません。会社が「意見を聞いたから、延長していいのだという態度に出た場合、それをどう阻止するか」が労働組合にとって大きな問題となります。これについて、鷲見弁護士は、「派遣法25条で『厚生労働大臣は、労働者派遣事業に係るこの法律の規定の運用に当たっては、労働者の雇用の安定に資すると認められる雇用慣行並びに派遣就業は臨時的かつ一時的なものであることを原則とするとの考え方を考慮する』と定めており、常用代替防止原則を尊重することを明らかにしている。これに違反していると、労働局に申告できる」との見解を披露しました。
また、派遣元の雇用安定措置とキャリアアップ措置が定められたことについてもふれ、「政府は正社員への道筋としているのだから、これらも活用できる」と、指摘しました。
●要求を大事にして組織化を。そして直接雇用へ
続いて、「改悪派遣法のもとで労働組合はどうたたかうか」の課題で、JMITUの笠瀬書記次長、全労働の秋山副委員長が報告。笠瀬書記次長は、マニュアルに掲載されている、派遣労働者の組織化と正社員化、直接雇用化を実現した成功事例について報告。徳島の労組のたたかいについて、「派遣労働者の賃金が正規の半分、有給も取れないという不満から始まった。要求をくみあげ大勢を組織化し、スト権をたてての団交、労働局への申告、シンポや集会、県庁前宣伝などを展開するなかで、会社も無視できなくなった」、千葉の労組のたたかいについては、「アンケートを取り、正規で働きたいという要求があることが分かった。対話で不安や悩みを聞き、労組に入って直接雇用を要求しようと働きかけ、加入してもらった」と話し、「大事なのは、派遣労働者に労組に入ってもらって、自身から生の声で訴えてもらうこと。『その人は必要な人材であり、いなければ仕事が回らない』と、職場の世論を背景に正社員化を求めていくことが重要」と話しました。
●労働局への申告は問題整理し、書類を持って
秋山副委員長は行政の活用について報告。「派遣に対応する労働局が各県に1カ所しかなく、行政サービスが低下している。敷居が高いかもしれないが、誰でも無料で活用できる。申告する際は、事前に問題を整理し、賃金明細、タイムカードなど関係する書類を持っていくことが重要。残念ながら、職員が削減されて人手不足が恒常化している現場では、窓口業務を非正規の方にも担っていただいている。研修はしているが、すべての職員があらゆる労働問題に精通しているということにはなっていない現実がある。相談対応者が派遣法に関する事項に熟知していないような場合、再度、他の職員に対応を求めるなどの工夫も必要」と、行政の活用にあたっての留意点をアドバイスしました。
会場からは「専門26業務でずっと働いてきた有期雇用の派遣労働者について、『法改定を理由に雇止めを行ってはいけない。こうした事案に遭われた方は、都道府県労働局までご相談ください。26業務で働いてきた方のために、専用の相談窓口を設置して対応しています』と『労働者派遣法改正法の概要』に書いてあるが、この法的な根拠は?」との質問が出されました。この点については、「附帯決議で、派遣法施行を理由に雇止めしないようにとなっている」、「派遣事業関連業務取扱要領にあるが、労働契約法18、19条の反復契約5年以上で直接雇用を求められる」と鷲見弁護士と秋山副委員長が回答しました。
また、意見として、「団交についてもっと前に出すべき。団交で、なぜ派遣でなければならないか、理由を明らかにさせることができる。派遣の受け入れの際は団交が決定的だ」との意見が出されました。
●情熱を持ってアプローチを
全労連の伊藤常任幹事(労働法制中央連絡会事務局長)が行動提起しました。マニュアルについて「派遣法が改悪され、個々の派遣労働者が法令を頼みに、権利を守り、要求を勝ち取ることはますます困難になっている。重要なのは労働組合の働き。団体交渉で詰めていく上では、改悪法の中にも使える部分はある。派遣労働者の希望を聞いて労組に入ってもらい、要求を実現させていく、正社員化をめざすということがポイント。
法解説マニュアルなので、法のポイント説明から書かれているが、運動を進める職場の仲間は、P12の『正社員化・労働条件向上のための労働組合の活動』から読んでほしい。まず、派遣労働者のことを知ってほしい。厚労省のアンケートからも不本意ながら派遣で働き、正社員を希望している人、派遣元に不満を持っている人が多いことがわかる。こうした要求を、私たちが見過ごしてはならない。派遣元からは、派遣先の人、ましてや労働組合との接近などは禁じられているという実態がある。だから対話は容易ではないが、そのハードルを乗り越えて、情熱を持ってアプローチしていってほしい」と呼びかけました。
16春闘では、改悪派遣法を職場に持ち込ませず、無期・直接雇用原則を守らせるためにも派遣労働者を仲間に迎え正社員化を実現する取り組みと同時に、「労働時間と解雇の規制強化を求める国会請願署名」、時短を軸に職場に働くルールを確立し、残業代ゼロ法案を阻止する取り組み、雇用改悪阻止を訴える宣伝行動、労働関連法案の審議山場での取り組みなど、春闘方針で提案されている課題を確認し、実践を呼びかけました。
●団結して人間復活のたたかいを
閉会挨拶は、自由法曹団幹事長の今村弁護士が行ないました。「派遣労働者に対するセクハラ・パワハラは酷い。モノ扱いされ、人格が認められないという実態がある。人材ビジネスは5兆円産業となっているが、派遣法改悪でさらにもうけを拡大し、さらに労働者のモノ扱いが拡大されることになるだろう。これを正すには労働者が団結してたたかうしかない。これは人格を奪われた労働者の人間復活のたたかいだ。反転攻勢していこう」と呼びかけました。