全国最賃アクションプラン

(1) 「世界で一番企業が活動しやすい国」を掲げたアベノミクスの新自由主義改革が乱暴に推進されるもとで、格差と貧困が加速度的に拡大し、労働者・国民の暮らしはますます苦しくなり、経済の低迷とともに、少子高齢化・人口減少問題など、日本社会の危機が進行している。

安倍政権は「雇用は改善」と強弁しているが、増えたのは非正規雇用労働者であり、1997年の1152万人から2012年1813万人、15年1980万人と、828万人も増加(総務省「労働力調査」)した。反対に、正規雇用労働者は97年の3812万人から12年3340万人、15年3304万と、508万人も減少(同前)し、非正規率は97年の23.2%から15年には37.5%にまで増加した。

その結果、ワーキングプア(働く貧困層)が増え続けており、国税庁「民間給与実態統計調査」によれば、年収200万円以下は2014年に1139万人・24.0%に達している。反対に、富裕層も増え続けており、年間所得5億円超は2010年の578人から11年682人、12年748人、13年1415人と2.45倍化(国税庁「申告所得税標本調査」)し、その所得の内訳では「株式等の譲渡」が78.5%を占めるまでになっている。また、総務省「就業構造基本調査」で見ると、厚生労働省も“結婚の壁”と認める年収300万円未満は、1997年の2462万人から2012年には3044万人に増え、有業者の55.1%(正規雇用で28.8%、非正規雇用で89.1%)に達している。とくに、青年層は深刻で、年収300万円未満は12年に、男20代後半48.3%・30代前半32.8%、女20代後半71.8%・30代前半69.4%(下図)となっている。

 

 

中間層の総崩れ・没落というべき深刻な事態であり、かつて、ファーストリテイリングの柳井会長兼社長が「世界同一賃金」を掲げ、「将来は年収1億円か100万円に分かれて、中間層が減っていく。仕事を通じて付加価値がつけられないと、低賃金で働く新興国の人の賃金にフラット化するので、(理論上は)年収100万円の方になっていくのは仕方がない」「グローバル経済というのはGrow or Die(成長か、死か)なのだ」(朝日新聞130423など)と唱えた世界が、この日本でも現出しようとしている。そして、こうした格差と貧困のひろがりは、内需を冷え込ませ、日本経済低迷の最大の要因ともなっている。

(2) その打開はまさに国民的な緊急課題であり、労働運動の役割発揮が求められている。

そのため、15国民春闘では、最低賃金・公契約・公務賃金改善など「社会的な賃金闘争」を大きく位置づけ、新たに「全国一律最賃制の実現を求める法改正署名」を開始した。15年秋からは法改正署名のとりくみを通年化するとともに、「地域活性化大運動」を提起し、賃金の底上げと中小企業支援の抜本的な強化を重点に、地域の労働組合や経済団体、商店街をはじめ諸団体との対話・懇談運動などを推進してきた。

そして、安倍政権も最賃引き上げを強くいわざるを得ない状況をつくりだしたもとで、2016年国民春闘では、「今すぐ最賃1,000円以上」を大きく掲げて、より攻勢的なとりくみをめざしてきた。安倍政権が「一億総活躍プラン」で最賃1,000円や同一労働同一賃金などを曲がりなりにも掲げざるを得なくなったのは、私たちの運動と世論に押されてのことである。同時に、それだけ日本経済の矛盾が深刻化しているということだ。

アメリカで「15ドルのためのたたかい」が大きく発展し、時給15ドルが大都市から州レベルにひろがり、実現しつつあることに象徴されるように、経済のグローバル化と新自由主義改革の弊害が明らかになるなかで、世界の多くの国で最低賃金引き上げのたたかいが大きく前進している。日本でもAEQUITAS(エキタス)をはじめ若者の新たな運動が注目を集めるなどの変化がはじまっており、飛躍の可能性が高まっている。

(3) よって、「社会的な賃金闘争」をいっそう強めるとともに、その戦略的な中心課題として、全国一律最賃制の実現を大きく位置づけ、とりくみを抜本的に強化する。

日本の労働者の賃金が低く抑えられているのは、労働組合の組織率の低さにくわえ、最低賃金が地域別に分断され、「支払い能力」論によって低く抑えられているからである。2007年の最賃法改正以降、毎年の改定額はそれまでの数円から引き上がり、2015年改定では全国加重平均は18円増の798円となった。しかし、これでは、フルタイムで働いても生活保護基準以下の収入にしかならない。800円以上は7都府県に止まり、600円台がいまだに16県も残されている。最低額693円、最高額907円と、格差がさらに3円ひろがり214円となるなど、現行制度の制度的な限界は明らかだ。だから、雇用の不安定化とも相まって、中間層の総崩れ・没落というべき深刻な事態がひろがっている。

経済のグローバル化と新自由主義改革が進行し、コストカット競争と労働力の移動が加速するもとで、世界の多くの国々でも法律に基づく賃金の底上げ・下限規制、最低賃金引き上げのとりくみが強化されてきた。この日本においても、最低賃金法を改正し、全国一律最低賃金制を実現することが強く求められている。

全国一律最低賃金制の創設で、働く人々の賃金を大きく底上げできれば、それは雇用労働者だけではなく、中小企業者や自営業者、農民、年金生活者や生活困窮者にも影響し、ナショナルミニマムとしての「国民生活の最低保障」を確立する大きな一歩ともなる。そして、内需を拡大し、日本経済の再生につながることは間違いない。アベノミクスの新自由主義改革への対抗軸として特別に重視し、中小企業支援の強化と一体で、持続可能な地域循環型の経済・社会に転換していく戦略的な課題として推進する必要がある。

また、最近のいくつかの判決(例えば神奈川最賃裁判)で、「たとえ、最低賃金や年金が低くても、生活保護や社会保障などをあわせたトータルで最低生計費を保障できればいい」という趣旨の極めて不当な司法判断が示されたことへの反撃としても重視し、“賃金とはなにか”を問い、8時間普通に働けば人間らしい暮らしが保障される賃金水準を実現する契機としていく必要がある。

(4) そのため、以下のとおり、「全国最賃アクションプラン」を策定し、4年を目途に、集中したとりくみを展開して、全国一律最賃制の実現をめざす。

 

1.名 称

全国最賃アクションプラン

(別称:人間らしく暮らせる全国一律最低賃金制の実現をめざす行動計画)

2.目 的

① 格差と貧困の加速度的な拡大を是正し、すべての働く人が人間らしく暮らせる賃金の底上げを実現するために、最低賃金法を改正し、全国一律最低賃金制を創設すること。それと一体で、中小企業支援を抜本的に強化し、内需拡大による日本経済の回復を実現すること

② とくに青年分野の賃金底上げの創意的なとりくみを重視し、安心して働き続けることができ、結婚・子育てが可能な賃金の底上げのとりくみを飛躍させること

3.全国一律最賃制の実現に向けた要求の柱

(1) 以下を「全国一律最賃制の実現に向けた要求の柱(提案)」として確認し、世論喚起を強めながら、労働組合をはじめ広範な団体や行政、議員などとの合意づくりをすすめて、その実現をめざす。

① すべての働く人が人間らしく暮らせる賃金の底上げを実現するため、最低賃金法等を改正し、全国一律最賃制を創設すること

② 全国一律最低賃金の水準は、最低生計費試算調査等の客観的な資料をもとに算出し、「健康で文化的な人間らしい最低限の暮らしを営むことができる水準」とすること(各地で実施してきた「最低生計費試算調査」などからも、労働運動的には、時給1,500円、月額22〜23万円程度が必要といえるが、それを念頭に置きながら、広範な合意づくりを丁寧にすすめる)

③ 全国一律最低賃金制の円滑な導入のため、3年程度の時限措置として中小企業や業者等を対象にした特別の財政措置(引上げ経費の全額補助=特措法)をおこなうこと。また、独禁法や下請二法の改正、公契約法の制定等によって公正取引を実現し、下請けいじめを根絶するなど、最低賃金引き上げによるコスト増が価格に適切に反映される仕組みを構築すること

④ 全国一律最低賃金制の基礎のうえに、産業や職種別の最低賃金制度を抜本的に拡充し、それぞれの仕事内容に見あった適切な賃金水準を実現することが容易になるよう措置すること。もって、人手不足を改善し、若者が定着し働き続けられる状況をつくりだすこと

⑤ (全国一律最低賃金制の実現をめざす過程として、)現状の深刻な賃金実態を改善するため、政治的な決断で緊急的に時給1,000円以上への引き上げを実現し、地域間格差を大きく縮小すること

(2) 法改正を実現するためには、改正法律案(法案要綱案)等の具体的な提案がいずれ必要になる。そのため、「2007年要求大綱」の改訂論議をすすめ、「最低賃金法等の改正要求大綱(素案)」を原案として準備し、諸団体との合意づくりの素材としていく。

4.具体的なとりくみ (スタート時)

① 全組合員規模のとりくみとし、合意づくりに資する簡便な解説リーフレットを作成して、全組合員学習をおこないながら、法改正署名を徹底して推進する。その一環として、最賃体験運動や最低生計費試算調査、黒書づくりなどのとりくみをひろげる。

② 宣伝と世論づくりを重視し、ファストフード・グローバルアクションなどの経験も活かしながら、攻勢的ないっせい宣伝行動や組織化に系統的にとりくむ。また、AEQUITAS(エキタス)のような若者の自主的な運動との連携・協力を強化する。

③ 諸団体との合意づくり、とりわけ、中小企業経営者との一致点を拡大するため、「地域活性化大運動」と結合して、各県・地域、産業分野から、諸団体との対話・懇談運動を系統的に推進する。

④ 法改正を現実的な課題に押し上げるため、多くの労働団体と著名人・学者・弁護士等を結集した新たな共同組織の結成をめざすとともに、すべての都道府県で地方議会決議を促進する。そのうえで、超党派の議員連盟設立の働きかけを工夫する。

⑤ これらのとりくみを促進するため、人手不足問題とも結合して、単産等は産業・職種別の賃金底上げのとりくみを抜本的に強化する。また、とくに若者の組織化を重視しながら、低賃金労働者が主役になった運動や実態告発等のとりくみを強める。

⑥ 以上のとりくみと結合して、「今すぐ最賃1,000円以上」とC・Dランク県での格差是正のとりくみを抜本的に強化し、2017年改定に向けて政府に早急な政治的な決断を迫り、流れを加速させる。同時に、すべての都道府県で重点自治体を明確にして、賃金下限規制を伴った公契約条例の獲得を飛躍させる。

以 上