わが国の公的年金制度は、7020万人の被保険者(加入者、1997年3月現在)と言う広範な労働者・国民の暮らしと生存に重要な関わりをもっています。
しかしいまわが国の年金制度は、大企業本位・国民生活犠牲の政治と経済と、その流れに沿った99年「年金大改悪」のもとで、社会保障としての機能を足下から崩されようとしています。だからこそいま、この系統的で執拗な「年金改悪」の流れをおしとどめることが、大多数の労働者・国民の切実な願いとなり一致点となっているわけです。その切実な要求は、全労連が運動の中で練り上げてきた「年金要求」の方向と矛盾しないだけではなく、それを貫徹する積極的な一致点を構成しています。
これらの趣旨から全労連は、前章の99年「年金大改悪」阻止と「三つの要求」を実現する全労働者・全国民的な一大共同闘争を提案するわけですが、この壮大な共同を、全労連運動の蓄積と到達点を踏まえて積極的に推進するために、全労連が練り上げてきた「年金をめぐるとらえ方・考え方」の基本を以下に掲げます。
(1)年金はいま… それは老後保障の柱たりうるか?
日本の年金制度には大きくわけて、民間企業に働く労働者の「厚生年金」、公務員などの「共済年金」、自営業・農漁民・学生などの「国民年金」という三つのグループがあります。86年以降は「国民年金」に民間労働者や公務員も二重加入することとなり、被保険者7020万人は、国民年金だけに加入する第1号被保険者1936万人、国民年金に加えて厚生年金・共済年金に加入する第2号被保険者3882万人、第2号被保険者の被扶養配偶者として届け出る第3号被保険者1202万人に分けられます。
1)高すぎる保険料・掛金 マスコミも「空洞化」を指摘
保険料・掛金への依存度が高いために個々人の負担が重く、その矛盾が、第1号被保険者に集中的に襲いかかっています。第1号被保険者と未加入者を合わせると2094万人いますが、その内、保険料の未納者(2年間1度も納付しなかった者)が172万人、一部納付者が126万人(96年度「国民年金被保険者実態調査」、社会保険庁)、免除者が334万人(89年は223万人)、劣悪な水準に加えて改悪が続く年金への不信感などによる未加入者も158万人(95年「公的年金加入状況」)におよんでいます。
これらを合計すると836万人(加入対象者の40%)の人たちが事実上公的年金の「カヤの外」に放置されていることになり、この他にも、第3号被保険者の対象者であって届け出ていない未届者が240万人もいます。マスコミ世論もこれらについて「制度の根幹の空洞化を感じさせるゆゆしき事態」と指摘しています。
2)低すぎる年金額、増える無年金者 重大な制度上の不備
いま、年金の受給権者数は、老齢基礎年金で1757万人、厚生年金・共済年金など被用者年金合計で944万人。障害年金・遺族年金の受給権者も加えれば、延べ3526万人に達しています。これから2種類以上の重複受給を除けば約2300万人(厚生省「国民生活基礎調査」)となっています。
老齢基礎年金の一人当たりの平均月額は4万6千円。被用者年金の夫婦当たりの平均月額(老齢基礎年金含む)は全体で18万3千円、厚生年金で17万円、共済組合で17万円から23万2千円となっています。相互に大きな格差があるとともに、平均以下の年金が半分以上占めています。たとえば国民年金受給者1228万人の内で、月5万円以下の人が748万人、内3万円以下の人が154万人になっています(96年)。これら劣悪な年金額は「憲法違反」ともいうべきもので、最優先で「改革」すべきものです。
また、保険料・掛金を免除された人は、かりに年金をもらえても、ただでさえ低い年金額の3分の1にしかなりません。すでに95万人の無年金者がいますが、未納者や未加入者の中からは、こんご大量の無年金者が生まれてくるでしょう。
3)長すぎる加入期間、学生からも徴収 これではやってられない
厚生年金や共済年金に加入する若い人たちは、高い保険料への不満はあっても天引きされているのでいやおうなしです。いま20万円の賃金をもらっている人の保険料月額は概ね1万8千円、これに所得税・住民税が約1万4千円で、合計3万数千円。健保・雇用保険を合わせると4万円にもなります。これだけ取られて40数年後にもらえる老齢年金額は、さきほど見たように夫婦合わせて月平均17万円から23万2千円、しかも大半の人は平均額に届かないと言うのですから、「やってられない」という不信と不満がつのるのは当たり前です。総務庁は、25年以上加入していないと年金を受けられない国民年金制度を見直し納付期間に応じて減額した年金を支給する、収入のない学生には保険料納付を猶予する、などを厚生省に勧告していますが、青年たちの実態は極めて深刻です。
4)不安定で矛盾に満ちている女性の年金権
賃金における格差がそのまま反映するため、年金額には大きな格差がありますが、とくに男女格差は、男性を100とすると女性は50と言う、著しいものになっています。そのため現実の女性の平均年金額は、国民年金で4万4733円、厚生年金でも10万8338円しか保障されていません。これでは自立した生活はなりたたず、抜本的な改善が求められています。また、離婚した場合に年金権が消滅したり、配偶者の遺族年金と妻本人の年金の二者択一を迫られたり、女性の年金権は極めて大きな矛盾を抱えています。
(2)99年「年金大改悪」のなかみ
99年「年金大改悪」の概略は、昨年末の「年金改革・五つの選択肢」、2月の「年金白書」、5月の「有識者調査結果」などの中に、すでに明らかにされています。
1)どれも選択できぬ「五つの選択肢」 「年金大改悪」のポイント
「五つの選択肢」は、「保険料・掛金を二倍にするか、給付額を四割削るか、それとも制度そのものを廃止するか」と言う居丈高なものです。E案にいたっては40年加入で月6万5千円の基礎年金だけにして、上乗せ部分の厚生年金や共済年金は、それぞれ勝手に企業年金をつくったり、個人年金を買えという「民活・民営化」論に立っています。いずれも、年金制度の所得再配分機能と社会保障機能をさらに破壊し、公的年金制度をいっそう「解体」するものと言わなければなりません。
「五つの選択肢」の内どれが良いかという誘導的な設問で行なった「有識者調査」の結果は、厚生省の思惑通りにC案(保険料は五割引き上げ、年金額は二割引き下げ)が良いと答えた人が40%でトップと報じられています。政府・厚生省は、これらを根拠に、①保険料は五割アップ、年金額は二割ダウン、②賃金スライド制の廃止、③支給開始年齢の65歳の実施前倒しと再引き延ばし、④被扶養配偶者(いわゆる「専業主婦」など)からも直接に保険料を取る、⑤労働者のすべての収入から保険料をとる、などを中心に「年金大改悪」の基本方向を定めようとしています。
2)少子・高齢化論など事実ねじまげる世論誘導
「年金改革・五つの選択肢」が、99年年金「改定」法案を政府の意図どおりに成立させるための世論操作であることは明白です。従来から政府は、「財政危機論」「自己責任論」「少子・高齢化論」「世代間対立論」「女性間対立論」など、労働者・国民の考え方を分断し、相互に対立させるためのさまざまな議論と手法を持ち出してきました。それらに共通するのは、21世紀に向けて高齢化が深刻化し、女性の生涯出産率(97年「人口動態調査」では1・39と過去最低)も低くなるので、このままでは年金は破産すると言うとらえ方です。要するに「保険料を大幅に引き上げ、年金額を大幅に引き下げなければならない」「老後の暮らしは各人の責任で守れ」「学生も高齢者も専業主婦も保険料を収めるべきだ」などのイデオロギーを国民に植え込もうと言うわけです。
しかし、社会の「働き手」1人で約2人の総人口を支えると言う、全就業者数と全人口との比率は、現在も将来(高齢化社会のピーク時)も殆ど変わらないということは、政府自身の統計でも明らかになっています。日本経済全体から見れば「高齢化社会」は十分に乗りきって行けるのであり、これらの議論は、事実を故意にねじまげ、国民を欺く詭弁です。そもそも「所得の再配分」を担う社会保障の財源は、国民所得の中から調達され、それを「支出」として「再配分」するものです。その「収支の規模」を規定するのは国民所得の成長の枠であって、他の要因があるとすれば恣意的なものです。わが国で「所得の再配分」が十分に行なえず、財政的にも困難に見えるのは、大企業や高額所得者が負担すべきものを負担せず、政府がゼネコン型公共投資で財源を食いつぶしているからです。
3)国民負担増4兆円! 「年金大改革」阻止への条件の成熟
99年「年金大改悪」は、保険料の引き上げだけでも、4兆円におよぶ新しい負担増を国民におしつけます。これらは、医療・社会保障の連続改悪を進める「財政構造改革法」、血税を30兆円も注ぎ込む銀行支援、果てしない金融不安と底知れない不況、省庁再編など国民犠牲の行革と規制緩和、いよいよ緊迫する労働法制改悪と新ガイドラインの策定など、さまざまな不安が複合的にからみあう「逆立ち」した政治・経済の弊害を増幅し、お年よりから現役の労働者、中小企業者・農漁民、そして障害者・難病患者、生活保護を受けている人たちまで、多くの国民を深刻な生活苦と大きな不安におとしいれています。
しかし、昨年末に強行した「財政構造改革法」が早々に見直しを余儀なくされ、参議院選挙で自民党が惨敗したことにも明らかなように、大企業優先の政治と経済は、いまあらゆる分野で行き詰まり、労働者と国民は運動と組織の違いを超え、これを是正する運動をひろげています。全労連の「総対話と共同、10万人オルグ大運動」も全国2万組合との接点をつくり、社保協運動も43都道府県と136地域(26都道府県)に社保協組織を確立しています。
(3)私たちがめざす年金とは?
労働者にとって社会保障は賃金の一部であり、家族を含めた労働者の生活は、賃金による「所得」と社会保障制度による「所得再配分」という大きな二つの軸で支えられています。そして年金制度は、医療制度とならんで社会保障制度の中のもっとも重要な柱、老後の暮らしの柱です。年金は、高齢や障害で働けなくなり、一家の働き手が死亡して遺族となった人びとの暮らしを「所得再配分」によって支えるものであり、日本国憲法第25条でも「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」として保障され、国と自治体には、それをたえず発展させ、充実させる責任があるとされています。
労働者・国民は、低賃金・過密労働にさらされながら、ひたすら経済と社会の発展に貢献し、世界にもまれな劣悪な年金・社会保障制度に苦しみながら、年金財政の膨大な積立金もつくりだしてきました。これらの成果は、決して「恩恵」や「お恵み」としてではなく正当な「権利」として、労働者・国民に「再配分」されなければなりません。
1)国庫負担を2分の1にすれば年金水準は維持できます
わが国の年金制度の最大の問題点は、本来もっとも主要な責任を負わねばならない国と大企業の負担が極めて少ないこと。このため、財源の主たる担い手が弱い立場の労働者と国民となっていること。とりわけ国民年金では低所得者ほど掛金負担が重いと言う逆進性が強いことなどにあります。つまり「所得再配分の機能」が弱く、したがって社会保障としての側面が弱いと言うことです。これをただすには、国民や企業が産み出す「社会的な富」を、国民本位に再配分すると言う、社会保障の基本を前進させる必要があります。
そのためにはまず、①国民から集めた税金からの負担(国庫負担)を、85年改悪いらい基礎年金の3分の1に抑え、被用者年金への負担(厚生年金への20%、共済年金への15%)を廃止した流れを変え、大幅に増額する、②基礎年金部分を計画的に全額国庫負担に発展させ、すべての国民に最低限の年金を保障する、③当面、国民年金の掛金を累進制にして収入を増やすとともに低所得者の負担を軽くする、などの措置が必要です。
<「年金改定法の付則と付帯決議」の全面実施をめざして>
94年の年金改定時の「年金改定法の付則と付帯決議」は、基礎年金の国庫負担割合の3分の1から2分の1への増額、無年金障害者の国の責任による「救済」、年金受給資格25年を短縮、などを全与野党一致で確認したものです。
これらを全面実施することがもとめられていますが、とりわけ国庫負担を速やかに「基礎年金の2分の1」に増額することが重要です。厚生省の試算では、2000年度の「基礎年金の3分の1」の相当額は5兆3千億円。これが「2分の1」になると7兆7千億円となり、2兆4千億円が保障されることになります。
<全額国庫負担の「最低保障年金制度」の確立をめざして>
安心して暮らせる年金制度とは、すべての労働者・国民に、最低限の老後生活を営むことのできる年金支給が保障される制度のことです。現行の制度では、生活が苦しくて保険料を払えない人は、法的手続をとった人(免除者)でも3分の1の年金しかもらえませんし、滞納者や未納者は年金をもらえない「無年金者」になってしまいます。現在、無年金者として放置されている高齢者、無年金障害者に救済措置を講じることが急がれます。
全労連は、現役の労働者も、すでに年金を受給している人も、障害者や生活保護受給者も、外国から働きにきている人も、すべての人びとが、人間らしく安心して豊かな老後を迎え、幸せに暮らすことができる年金制度の確立をもとめます。
現行の基礎年金を、計画的に全額国庫負担(国と大企業による負担)に発展させ、収入がない人(学生・被扶養配偶者・失業者など)にも、無条件・平等・最低限の基礎年金の給付を保障するようにすれば、女性の年金権も保障し、安心して暮らせる年金制度の基礎ができあがります。これが全労連のめざす全額国庫負担による「最低保障年金制度」です。なお、基礎年金を全額国庫負担にする場合、2000年度相当で10兆6千億円が保障されることになります。
2)雇用拡大と賃上げを着実に実行すれば財源は安定します
前項の「最低保障年金」を土台(一階)として、その上に「収入に応じた保険料」でまかなう「厚生年金」・「共済年金」・「国民年金」を上乗せ(二階建て)し、各制度間の格差を底上げ調整する方向で「安心して暮らせる年金制度」を充実させるならば、それ自体が労働者の生活を安定させ、年金財政をも安定させることにつながります。
<労使三・七など「上乗せ部分」の充実をめざして>
土台と上乗せ部分(二階建て部分)とを合わせた年金水準は、全労働者の平均賃金の六割を下回らないものとし、制度を充実させるために、保険料・掛金の労使負担割合を「三対七」にすること、中小企業にはその実現のために適切な助成を行なうこと、賃金、物価の上昇へのスライド制を堅持すること、などがもとめられます。
いま政府が狙っている、年金の保険料、掛け金の値上げや、年金額の切り下げ、賃金スライド制の廃止などはもっての外です。
<雇用拡大・賃上げによる保険料収入の拡充のために>
政府が本腰をいれて高齢者や女性の雇用対策を充実し、失業対策の拡充・改善をはかるなら、雇用労働者・就業者数がもっと増えることはまちがいありません。
労働時間の短縮とワークシェアリングを推進して失業と不安定雇用を減らし、ただ働きやサービス残業をなくし、全国一律最低賃金制を確立し、労働者に着実な賃上げを保障すれば、それらはすべて、年金・医療の保険料収入を拡充し、財源を安定させます。
3)積立金を計画的に活用すれば「年金改悪」は不要です
わが国の年金制度には、第二次世界大戦の最中(1942年)に戦費調達のためにつくられ、戦後も経済復興のために期待されてきた歴史が色濃く染み込んでいます。政府・財界は、いまだに労働者・国民のための「所得再配分」よりも、大企業のための「財政投融資」=第2の公共事業費を重視し、巨大な積立て金をため込んでいます。
年金の財源はその七割が保険料・掛金、その他が積立金の運用利息と国庫負担でまかなわれていますが、年金財政は毎年10兆円ほどの黒字(収支残)を出し、その大部分が大蔵省(資金運用部)に集められます。毎年の収支残は積立金として累積され、95年度には161兆円に達していますが、政府は2060年までに1435兆円も貯め込むことを計画しています。この膨大な積立金を財政投融資として大型プロジェクトや海外経済協力費に融資し、大企業のふところを潤した上で、そこから生じる「運用益」を年金財政に使うのが、わが国の政府のやり方です。
政府の「隠れ借金」や高級官僚の天下りなどの社会問題の温床となり、その非民主的な性格が問題になっている財政投融資は、その母体となっている積立金とともに見直すべき時期に来ています。95年度161兆円と言う積立金は年金支給総額の5~6年分にもおよびますが、欧米では、アメリカが1・1年分、英国・ドイツがそれぞれ0・4年分など、1年分未満が常識であり、わが国の積立金も欧米なみに改めれば、それだけで直ちに10兆円の新しい財源が生まれ、99年「年金大改悪」の保険料負担増4兆円など必要なくなります。また、161兆円の積立金を凍結し、計画的に取り崩せば、年金制度を改善することも可能になります。
4)国家財政の健全化によって、さらに財源が生まれます
いまの国と地方自治体の予算の中から、50兆円という莫大なお金がゼネコン型の公共事業費としてばらまかれています。これにたいして、国民生活改善のための社会保障費は20兆円。この比率は、欧米諸国とくらべて実に非常識な割合です。たとえばイギリスでは社会保障費が公共事業費の6.5倍。同様にドイツは3.5倍、アメリカでさえ4.5倍です。何よりも日本を含む先進7ヵ国でみると、6ヵ国の公共事業費の合計よりも、日本一国の公共事業費の方が多いというのですから驚きです。これをまず、欧米なみに直すだけで、数10兆円いう新たな財源を社会保障に使うことができます。
同時に、大企業の特権的減免税を廃止し、これを見直せば初年度で23兆6778億円、毎年5兆8千億円の新しい財源が生まれます。この財源を使って、国家予算のなかの社会保障予算を大きく増やすことで、年金財源の安定がはかれます。
以上