トランプ政権発足と米国労働運動
(全労連事務局次長・国際局長 布施恵輔)
1月20日に米国ではドナルド・トランプ氏が大統領に就任しました。昨年11月の当選以降も、また選挙前からも過激な発言を繰り返してきました。米国史上初の女性大統領の誕生ではなく、史上初の重罪人確定の人物が大統領になるという事態です。米国の労働運動もあらゆる社会運動も大変警戒しています。
議会との関係や政権幹部の陣容がまだ全て決まっていないので確定的に言えない部分もありますが、米国の労働運動やその他の社会運動の動きを中心に紹介します。
労働組合との対立は必至
トランプ大統領2期目の政権で労働者や労働組合の権利を徹底的に攻撃してくることは確実と見られています。バイデン前大統領は自称「最も労働組合よりの大統領」で、課題もあったもののUAW(全米自動車労組)のストライキ(2023年秋)には、現職大統領として初めてストの激励に行くなど、労働者寄りの姿勢を明確にしていました。
特に警戒されているのは、全国労働関係委員会(NLRB)の委員が保守派に変えられることです。バイデン政権下では、労働者性や労働時間規制、労働組合結成などの判断で一定前向きな判断を重ねていました。特に大学院生の労働組合の新たな組織化は、大学で働く(収入を得ている)大学院生を広く労働者として認め、労働組合の新結成を促しました。
しかし就任1週間でトランプ大統領は突然ジェニファー・アブルッゾ委員長とジニー・ウィルコックス委員の解任を発表しました。ウィルコックス委員の「解任」は、議会で承認された任期が2028年8月まで残されており「違法」です。労働組合や労働運動の活動家に「警告」するような今回のやり方は、いかにもトランプ大統領らしいのですが、共和党多数の議会が委員の空席を経営者寄りの委員で埋めるまで過半数を取らせないようにする策とも言われています。
労働者不在の政権
労働者の一部にはトランプ大統領に期待した一定部分の層がいるとされます。ヒスパニックやアジア系の移民の労働者の中で、特に男性を中心に前回の4年前の選挙に比べて一定支持を伸ばしていることも報道されていました。
就任式では、労働者、労働組合の代表は一人としておらず、選挙戦でもトランプの選挙運動に深くかかわり入閣も言われているイーロン・マスク氏、アマゾンのジェフ・ベソス会長、メタのマーク・ザッカーバーグCEOなど米国でも有数の大企業経営者、富豪が並びました。
全労連と交流のある米電気機械無線労働組合(UE)のカール・ローゼン委員長は、今回のトランプ政権がロシアのプーチン政権が富豪(オリガルヒ)に支配されているのと同じだと指摘します。財界大企業や富豪に支えられた政権で、労働者不在の強権的・反民主主義的政権であることはここからもわかります。
すでに恐怖支配が進む
2000万人の不法移民を本国に強制送還すると就任前から言っていたトランプ大統領の命令で、全米各地で「不法移民狩り」が進んでいます。米国では正式な就労ビザや市民権を持たない移民たちが、職場での通報を恐れて出勤しない事態が広がっていると報道されています。一部の大都市部の公立学校では、保護者が急に強制送還された場合の連絡先を学校に届けるように通知が出されています。第一次産業やサービス業などで移民労働者が働き、米国経済を支えている現実を無視した移民排斥の動きは大変深刻な問題です。
米国では国内で生まれた人は自動的に米国籍を取得できるという出生地主義をとっていますが、前回のトランプ政権時も親が子どもと引き裂かれて強制送還されるなどの非人道的な政策が批判されました。また今回も強制送還時に手錠をかけて軍用機でコロンビアに強制送還しようとし、コロンビア政府に着陸を拒否されました。移民を犯罪者に仕立て上げる手法はトランプ政権の悪質さ、国際常識のなさを示しています。
アジア系移民である日本人に対しても攻撃の矛先が向いていると感じます。新型コロナウイルス感染の拡大時に、「チャイナ・ウイルス」と繰り返しトランプ大統領は述べていました。在米日系人でも、路上で襲われたり、地下鉄に突き落とされるなどのヘイトクライムと推定される事件が昨年から増えています。日本の報道ではトランプの移民への敵視政策を、日本人には関係のないことのように報じていますが、これは大きな間違いです。白人至上主義的なファシズムの考え方と結びついたトランプ政権の本質を見誤ってはならないと思います。
第一期トランプ政権との違い
トランプ大統領に関する日本の報道を見ると「強大な力を誇示し世論の支持で大勝した」と思えるかもしれません。第一期政権時は、自らに忠誠を誓う人を強引に登用しようとして議会と衝突し、共和党内からも反発が多くありました。しかし徐々に共和党の中でトランプ政権に異議を唱える人は排除されていきます。象徴的なのはブッシュ政権時のチェイニー副大統領の娘のリズ・チェイニー氏です。彼女は下院共和党の役員でありながら、トランプに対抗馬を立てられて議席を失いました。今回の選挙の経過を見ても、共和党の内部は狂信的なトランプ信者が主流を占めているのが現状です。
共和党を支えていた軍産複合体もトランプを正面から支持するようになります。保守派のブレーンとして知られるヘリテージ財団は大統領選挙前から「プロジェクト2025」をいう膨大な提言書を発表。就任後直ちに取り組むべきこと、特に連邦政府の「改革」の名で大企業を支援する「政策指南書」を発表しています。例えば労働者の団体交渉権への攻撃を、プロジェクト2025ではさらにすすめるとしています。最近、共和党が多数を占める西部ユタ州では、公務員の団体交渉を一律に禁止する州法が成立しました。教員組合、警官や消防の組合の反対を押し切っての暴挙です。このような乱暴な労働組合攻撃が連邦と各地で続くと予測されています。
トランプ大統領は突然突拍子もないことを言うようで、必ず彼に耳打ち、指南している人がいます。彼の一挙手一投足に振り回されずに、真の狙いを理解することが重要です。
労働者の反撃は
米国の労働組合の多くはトランプ政権の攻撃に反対しています。職場の労働者と対話し、運動を組織しながら新しい組合結成を目指すことから反撃を開始しようと呼びかけられています。トランプ追従の石破自公政権に対抗する運動とともに、民主主義と権利を守る日米の労働組合運動の連帯が必要だと思います。
(月刊全労連2025年4月号 通巻338号)