2003年は、労働組合中央組織(Central Unica dos Trabalhadores = CUT)とそれを基盤とした労働党(PT)のリーダー、ルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバが大統領に就任したことで、労働運動にも変化。ルラ政権の閣僚には労働組合出身者が9人いるほか、政府の高官にも多くの労働組合(ほとんどはCUT)指導者が登用された。
カルドゾ前政権までの10年以上ものあいだ、他の中南米諸国とおなじように、ブラジルでも米国、IMF-世銀のいわゆる「ネオリベラル」政策のもと、高失業率(2003年は11%あまり)、いわゆる「インフォーマル経済」の増大、それに新技術の導入による労働者切り捨てなどで、労働運動は弱められてきた。政府の公共支出の削減で、失業者への職業訓練や生活補助などにも影響が出た。CUTは1983年の創立で、1991年から2001年までのあいだに労働組合数が49%増えて11,000にも達したが、その構成員数ののびは22%(1950万人)にとどまった。組合当たりの構成員数はこの10年間で2,104から1,720に減少している。(ブラジル地理統計研究所による。)
6月に開かれたCUTの大会では、労働組合運動とルラ政権の間の関係が、大きなテーマだった。飢えをなくす、貧困を撲滅するというのが、ルラ政権の最優先課題のひとつだが、同時に政府は、民営化、社会支出の削減を迫られている。労働組合側は、基本的に自分たちが選んだ大統領の政権を支持する立場を表明しつつ、これまでの生活水準を維持するために対決もしなければならない、という状況にある。
この点で、年金改革はルラ政権一年目の最大の問題となった。1月、ルラ大統領は、改革概要を発表、全国的議論がはじまった。公務員の退職年令を引き上げ、年金に課税するなどの提案だった。ブラジルでは労働者は退職者年金を国から受け取る。民間企業の労働者よりも公務員の方が年金支給額が高い。多くの人が50歳で退職し、現役最後の給与額をそのまま年金として受け取っている。これは、いうまでもなく、年金システムを維持するうえできわめて重い負担になっている。国の年金赤字はGDPの5%にもなる。これは教育、医療、警察などよりも大きな支出になっている。こうした状況にある年金制度をなんとか改革しようと、前政権も試みたが、公務員の間でも左翼の間でも強い反対があって実現しなかった。
CUT大会では、いくつかの修正案を提起して政府に迫ることをきめた。
しかし、労働組合側からはルラ提案に反対がおこり、7月には、90万人の公務員の4、5割の参加で年金改革案取り下げを要求するストがおこなわれたが、8月に下院、12月に上院がそれぞれ可決した。
そうした困難ななかでも、他の中南米諸国にくらべて、ルラ政権の誕生は、労働組合運動の役割をたかめている。労働組合その他の草の根の運動に依拠した改革で「ネオリベラリズム」を脱却せざるをえないからだ。(岡田則男)
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