<国民投票で信任されたチャベス大統領>
1998年に、米国の干渉・支配を排除し、自主的な経済的、社会的発展をめざす政権がベネズエラに生まれ、これにたいする妨害(米国からの干渉をふくめ) がつよまり、2002年にはクーデター事件でチャベス大統領の政権を打倒しようとして失敗した。その一部始終はアイルランドのテレビ取材チームが詳細に記録し、その番組はNHK でも放送された。日本でも世界でも「メインストリーム・メディア」とよばれる主要マスコミは、このクーデターが、チャベス大統領の政策に不満をもつ労働組合や国民が決起した結果であるかのように報じた。しかし、テレビ・ドキュメントでもあきらにされたように、その「労組」とは、国内資本家とむすびつき、米国政府・AFL-CIOなどの支援を受けた労働組合(CTV) のことだった。
反チャベス派は、「チャベスはベネズエラをキューバのような共産主義国家にしようとしている」とか、「チャベス政権下で、外国からの投資がこなくなり、経済が悪化した」などと政権批判を展開し、リコール投票実施のための署名集めをおこない、8月15日国民投票がおこなわれた。
結果は約6 割が「リコール反対」つまりチャベス政権の存続支持を表明した。米国のある論評は「ブッシュ=チェイニーが政権いついて以来、ありとあらゆる手段でベネズエラの政治の不安定化をはかろうとして策動してきた米国とその同盟国にとって、(フランスの対インドシナ植民地支配を打ち破った、ちょうど半世紀前の) ディエン・ビエン・フーの戦いに匹敵する」敗北だと書いた。
ベネズエラ革命といわれる現在の社会発展の方向は、独特の草の根からの参加型民主主義という力に、あたらしいベネズエラの民主主義の実現といえる。ベネズエラでは1958年に「民主主義体制」が確立されたということになっているが、そこでは二大政党制(社会民主主義のADとキリスト教民主主義のCopei)が、石油を支配する一握りの勢力の利益を代表していた。この政治体制のもとで生まれた腐敗、構造調整といった政策に反対する草の根からの運動が発展した。これがチャベス大統領の1998年の勝利だった。
「ボリーバル主義革命」とよばれるチャベス政権下のベネズエラの社会変革の過程は、中南米諸国の、FTAA反対のたたかいを代表しているといっていい。
<ベネズエラとキューバ>
また、中南米諸国が雇用拡大や債務縮小などををふくめ社会・経済発展のための共同の戦略をもつ方向にすすもうとするなかで、キューバとベネズエラは二国間協力をいっそう進めている。キューバはベネズエラに医師を派遣して医療協力をおこなっている。2004年12月にはチャベス・ベネズエラ大統領がキューバを訪問し、共同宣言と、米州へのボリーバルの道の具体化のための合意書(Acuerdo para la aplicación de la Alternativa Bolivariana para las Americas)に調印した。これは、米国が米州に押しつけようとしている自由貿易地域協定(FTAA)のおしつけへのアンチテーゼとされている。
<労働組合運動>
ベネズエラの労働組合運動は、長いあいだベネズエラ労働総同(Confederación de Trabajadores Venezolanos = CTV)に代表されてきたが、この労働組合は、1989年に民主的選挙で成立した現在のチャベス政権打倒のクーデター策動(2002 年 4月) の中心部隊だった。日本でいえば経団連にあたる経営者協会(FEDECAMARAS) の片腕となってストライキを組織した。このストライキのなかで、国営石油企業(PDVSA)では、経営者、技術者が操業を放棄したとき、労働者が自主的に操業をおこなうこと(自主管理)、共同組合経営として労働者が担っていく方向を追求しはじめた。
そうしたなかで、2003年 3月29日、新しい労働組合ナショナルセンターとして全国労働連合(Unión Nacional de Trabajadores=UNT)が、「階級的、全国的、革命的労働組合運動」として誕生した。これは自然発生的にできたものではなく、チャベス政権の基礎とな「ボリーバル主義運動」という、ベネズエラに広範に存在してきた貧困層のなかで活動する勢力のひとつ、ボリーバル主義労働者勢力(La Fuerza Bolivariana de los Trabajadores)やCTV加盟組織を含めていろいろなところで活動する独立労組のなかで2002年7 月いらい議論されていたものだった。その議論の中心は、政府からどの程度独立すべきかという問題だったという。
2004年のUNTの大きなたたかいは、8月の国民投票でチャベス大統領不信任の提起に「ノー」で回答することだった。「搾取と帝国主義の干渉に反対し、公正、主権、独立の社会を実現する道をめざす」立場からの取り組みだったことを、投票直後の声明でも強調している。同声明では、UNT の「組合民主主義を断固守る」「政党、政府、経営者からの独立」との立場を強調している。
不信任をつきつけるための国民投票推進の先頭にたったのはCTV であった。これには米国の労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)が、資金をふくめCTV を支援した。それは1973年にチリで合法的政府をクーデターで打倒したときに関与していたのと同じだった。違いは、73年には米政府の資金援助で行動したが、2004年には民主化基金(National Endowment for Democracy)という、米政府の外郭団体のような存在をつうじて資金をもらっていたことが、明らかにされている。(岡田則男)
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