シリーズ 年金改革を考える 日本共産党の政策に寄せて
 【2004年4月7日〜 「しんぶん赤旗」より 】  政府の年金改悪法案が一日、衆院で審議入りしました。日本共産党は、「負担増・給付減」の大改悪である政府案の廃案を求めるとともに、「最低保障年金制度」の実現などを求める年金政策を三月三十一日に発表しています。各界から、党の政策にもふれながら年金のあり方などについて語ってもらいました。順次紹介します。

<2004年4月7日>
雇用に踏込んだ広い視点 低額・無年金者の救済へ有意義
年金コンサルタント 河村 健吉さん
 かわむら けんきち 1943年北海道生まれ。67年一橋大学社会学部卒業、三井信託銀行入社。73年から企業年金業務に従事。99年、千代田火災投資顧問入社、2000年同社を退社。現在、著述業・年金コンサルタント。著書に『企業年金危機』『娘に語る年金の話』(いずれも中公新書)など。
 年金改革は国民生活に大きな影響があるのに、理解するのは難しく、「財政危機」や「世代間の不公平」を口実に、国民への負担増や給付切り下げがまかり通っていました。
 日本共産党の提案は、年金の土台となる雇用に踏み込んだ解決の道を示し、広い視点で改革を提起した点で評価できます。歴史的な経過で低額年金や無年金になった人びとの救済は改革の重要課題で、最低保障年金の創設は有意義な提案だと思います。最低保障年金に払った保険料に見合う給付を上積みする設計は、国民の納得を得やすいでしょう。

社会保障否定の政府案
 年金制度は、国民の労働や生活実態に基づいて改正すべきですが、国の財政や経済状態が悪いときは安易に改悪される危険性が高まります。少子化が進行すると、従来の枠組みでは支え手が減るので、改悪の危険はいっそう大きくなります。保険料を毎年引き上げ、給付を毎年引き下げる今回の政府案は、社会保障を否定するもので容認できません。「負担と給付のバランス」という政府の財源論の枠内では改悪案しかできず、消費税増税による財源確保もやむをえないということになりかねません。
 雇用条件を改善して、働きたい高齢者や女性が就労し、年金制度の支え手を広げていけば年金財政は改善に向かいます。こう言うと、高齢者の就労で若者の仕事が奪われると批判する人がいますが、長時間労働やサービス残業をやめることに真剣に取り組めば、若者の雇用を確保することにもなり、年金財政の改善にも効果的です。
 少子化の克服も、リストラを支援する政府の政策を改め、雇用改革に踏み込まなければ効果は限られるでしょう。リストラに歯止めをかけて、社会保障の支え手を増やすという、雇用政策と年金問題を結びつけた改革案は共産党だけが主張していますね。
 巨額の年金積立金の活用方法を変えることも、負担増や給付削減を実施させない効果があり、共産党の提案に賛成です。まもなく「団塊の世代」といわれた人たちが年金受給者になりますが、現在の積立金はこの世代が最も多く拠出したもので、その資金をこれからの給付に使うことは不公平とはいえないのではないでしょうか。

パート待遇など改善を
 今回の改革では、パートタイマーへの厚生年金の適用や、専業主婦の保険料負担なども検討課題でした。共産党案はこの点は触れていませんが、公的年金は世帯単位か個人単位かが問われています。政府案の「現役世代の50%確保」という給付は世帯単位で、標準モデルの専業主婦四十年という世帯は実際はごく少数です。私は、公的年金も将来は個人単位に再編すべきと考えますが、そのためにはパートの待遇など改善すべきことがたくさんあります。
 年金改革論には権利としての社会保障を主張する権利論や、社会保障制度と経済社会の変動の影響を検討する制度論があります。権利論だけでは改革は具体化できませんし、制度の目的を忘れて財政や経済の都合だけで改悪を続ければ社会保障とはいえなくなります。
 今回の改悪を許せば、次に来るのは消費税財源論です。国民世論は政府案に批判的です。現在はバラバラな批判的な意見を、どうやって結集するかが問われています。

<2004年4月9日>
展望与える「最低保障年金」  悪循環抜け出す決定的対抗軸
年金実務センター代表 公文 昭夫さん
 くもん てるお 1931年台湾生まれ。高知県教組勤務をへて、1955年から総評本部勤務。総評社会保障局長を務める。中央社会保障推進協議会副会長などを歴任。現在、年金実務センター代表。著書に『年金をどうする! 基礎知識&改革方向』(共著、新日本出版社)、『年金不安 50問50答』(大月書店)など多数。

 日本共産党の「最低保障年金制度」を実現する政策は、「全額国庫負担の最低保障年金制度の確立」を、理念としても具体的システム改革としても政策のメーンテーマに掲げたものです。このことは全国の労働組合、社会保障推進協議会傘下の大衆団体に、今までの運動への確信と、これからの運動への勇気と展望を与えるものになると思います。

最大の課題「空洞化」
 日本の年金は、国民年金のみの受給者が約九百万人いますが、その受給額の平均は月四・六万円という低さです。これは全年金受給者の三人に一人にあたります。無年金の人も、おそらく百万人はいるでしょう。
 国民年金保険料の未納率は四割にたっし、免除や未加入者を含めると払っていない人は一千万人を超えています。
 今日、年金制度をめぐる最大・緊急の課題は、こうした低額年金、予測される大量の無年金者といった制度の空洞化に歯止めをかけ、いかに解消するかということです。この問題を解決しない限り日本の年金制度に未来はありません。
 ところが自民・公明政権が今国会に提出した年金改悪法案は、段階的に保険料を約27%(国民年金)、または約35%(厚生年金)も引き上げ、さらに年金額を実質15%削減するものです。それも一回決めればあとは国会審議の手続きなしに自動的に進行させる。一方、十年前に国会で全会一致で決めた基礎年金の国庫負担の二分の一への引き上げの公約は、いとも簡単に破り捨て、五年後に先送りしてしまいました。
 また政府は、国民年金保険料の未納者にたいし、財産を差し押さえ強制徴収する行政指導を強行し、改悪法案にも強制徴収の強化策を盛り込んでいます。

実態を無視する政府
 政府の姿勢は、国民生活の実態を無視した高い保険料を押しつけ、それが払えない人は低年金、無年金になっても仕方ないというものです。これでは悪循環に拍車をかけるばかりで、空洞化の問題を解決することはできません。
 これにたいして決定的な対抗軸を明示したのが今回、日本共産党が発表した「最低保障年金制度」の実現にすみやかに踏み出す政策です。
 政策は無年金、低額年金という空洞化の解消を改革の重点課題に掲げ、それを目指してまず、最低保障額五万円からスタートすると宣言しています。しかも、その上乗せ部分として、それまで払ってきた保険料に合わせて月二万円から三万円積み上げるというものです。
 将来的には憲法二五条の理念にもとづく水準にするとしていますが、最終的な金額は総合的な高齢期保障の充実のなかで考えればよいと思います。まず月五万円以下の低額年金をなくそうというスタートは、大きな意味をもっていると思います。
 「最低を保障する年金」は全額国庫負担(税方式)でなければ日本の年金に未来はない、という年金改革の方向は、すでに全野党、学者、専門家を含めた多数の意見となっています。全労連、連合の改革案もこの基本となる枠組みでは一致しています。ただ、財源調達方式では少なからぬ違いがあります。

大企業に社会的責任
 政策は財源について、「歳出の見直しと税制の民主的改革でまかなう」という視点で、大企業の社会的責任と負担のあり方を明確にしています。
 日本共産党の年金政策は、これまでも年金制度の理念と到達点を日本国憲法に据え、大企業の社会的責任と負担を強調してきました。
 さらに今回は、異常な公共事業費や軍事費などを削減する歳出の見直しとともに、歳入の見直しとして、法人税率や所得税の最高税率の見直し、法人税へのゆるやかな累進性の導入、外国税額控除など大企業向け優遇税制をあらためることで、安定した年金財政を確保するといっています。
 いま財界の雇用・賃金政策の転換のなかで、大企業は際限のないリストラによって保険料の企業負担を減らすという現実が生まれています。そうしたなかで、大企業の社会的責任と負担を、抜け道をつくらせずに背負わせるためには、税制改革で大企業の特権的優遇税制をあらため、税収を増やすことが欠かせません。
 このような歳出、歳入の見直しによって社会保障予算へ優先配分していくのが合理的であり、日本の現実に合っていると思います。
 逆累進性の強い消費税増税をきっぱり否定しているのも特徴です。
 こうした財源論は、全額国庫負担の最低保障年金を求める多数派のなかでの政策論議をいっそう活発化させ、まちがいなく一定の役割を果たすことになると思います。
 また、最低保障年金制度の上乗せ部分となる、厚生年金や共済年金の報酬比例年金部分については、大企業を中心に労使の負担割合(現行は折半負担)を変更させるたたかいとして、今後も重視していかなければならないと思います。