ご紹介いただきました反貧困ネットワークの代表をしています宇都宮健児と言います。こういうところで挨拶をするのは初めてなので、若干緊張しています。こういう全労連の大会に来賓としてお招きいただきまして、まず感謝を申し上げます。また、全労連がこの間、反貧困、それから非正規労働者の待遇改善、こういう組織化について大いに力を発揮してきた、力強く取り組まれたことに敬意を表します。
反貧困ネットワークというと、今日参加された方はあまりご存知でない方も多いのではないかと思いますけれど、昨年10月1日に発足したばかりのネットワークです。わたしたちのネットワークというのは、貧困問題に幅広く取り組もうということで結成されました。
われわれのネットワークには、フリーター、派遣労働者、あるいはシングルマザー、障害者、ホームレス、多重債務者、DV被害者、あるいは生活保護受給者、こういう当事者とかこういう人たちを支援する人たちが参加しています。いろいろな問題を抱えていますけれど、そういう問題を超えて、政治的立場、いろいろな政治的な見解を持っている方がいらっしゃいますけれど、そういう立場を超えて、反貧困という一点で結集している団体です。
基本的には個人として参加してもらっていますけれど、全労連からも伊藤さんとか佐藤さんとか、布施さんにも参加していろいろ指導してもらっています。わたし自身は30年間多重債務問題に取り組んできまして、その関係で反貧困の問題にたどり着きました。ご承知のように、多重債務者というのは今200万人ぐらいいまして、最近、警察の発表ですけれど、10年連続3万人を超えた自殺者が出ています。
この中で、経済生活苦の自殺者が7300人ですか、1日あたり20人が自殺をしている。多重債務を苦にして夜逃げをする人が、今10万人ぐらいにのぼっています。こういう人たちの一部が路上生活者、ホームレスとかネットカフェ難民になっています。
わたし自身は、こういう運動を通じて、多重債務問題というのは貧困問題の現象形態だと考えるようになりました。2年前、大きな運動がありまして、サラ金、クレジットの行為に歯止めをかけるような法改正ができましたけれど、貧困問題を根本的に解決しないと多重債務問題は解決できないのではないか。また、貧困問題というのは本当に人間の尊厳を傷つけて、場合によっては人の命も奪い去る、大変に重要な人権問題だと考えまして、わたしは弁護士をしているのですけれど、そういう観点からも貧困問題には取り組まなければいけないということで、参加させてもらっています。
反貧困ネットワークというのは、昨年10月1日に発足したのですけれど、その前に3月24日に「もう我慢できない広がる貧困」ということで、東京都内で集会を開きました。このときにフリーターの方、ネットカフェ難民の方、あるいはDVの被害者の方、シングルマザーの方、ホームレス、多重債務者、みんなひとりひとり当事者が発言して、参加したみんなの胸を打ちました。
当初予定していた会場というのは250人ぐらいが入れる会場だったのですけれど、400人を超える方とマスコミもたくさん参加しまして、大きな反響を呼びました。それから昨年の7月1日に、参議院選挙の前でしたので同じく貧困問題をアピールする集会を開きまして、貧困問題に取り組まない政治家はいらないということで、700人ぐらいの方が参加しまして、集会とデモを行っております。
それから今年の3月29日には、東京都内の中学校を借り切りまして、中学校の教室とか体育館、あるいは校庭なんかでシンポジウムや講演会、あるいは相談会、労働相談とか?健康?相談とか、生活相談、こういう相談会をやりまして、90を超える団体と1600人を超える人々が参加して、主催者としましては成功したのではないかと、非常にやってよかったなと。模擬店で無料で食料、食べ物を出したのですけれど、周辺の路上生活者の人もたくさん参加しまして、主催者としては非常にやりがいを感じております。
それから、今、われわれは「反貧困全国キャラバン」というのを7月の中旬からスタートさせております。これは3か月間かけてキャラバンカーを全国に走らせて、各地で反貧困ノーというような活動です。西ルートは7月19日に北九州を出発点として、出発式を行っています。北九州では、ご承知のように昨年生活保護を打ち切られた方が仕事に就けないで、最後おにぎりを食べたいという日記を残して餓死するという事件が起こっています。ここでは生活保護の申請を認められなかった方に、その前の年、その前々年にも餓死者が出て、生活保護問題をめぐる問題が非常に深刻な状況になっておりますので、ここを出発点に選んでおります。
それから、東ルートは7月13日に埼玉で出発式を行いました。これは埼玉の美郷というところで、生活保護の水際作戦、あるいは陽動作戦と呼ばれる対応が行われまして被害が出ていますので、出発点に選んでおります。
最終的には、10月19日に東京の明治公園で大集会を予定しています。「反貧困世直し一揆大集会――垣根を越えて繋がろう」というのを仮タイトルとして、今準備中です。この明治公園、4万人が集まれるという公園ですが、われわれは小さな団体ですので、こういうところで集会をやった経験がありませんので、いろいろ全労連のイトウさんとかサトウさんなんかに指導してもらっているのですけれど、是非、全労連のみなさん方の協力をお願いしたいと思います。
10月17日は、わたしも知らなかったのですけれど「世界貧困撲滅デー」ということになっているようです。それに合わせて10月19日、非常にタイムリーではないかと思います。ちょうどこのとき、おそらく臨時国会も開かれていると思いますので、臨時国会で労働者の派遣法の改正とか、あるいは今、社会保障非が毎年2200億円削減されていますけれど、こういうところをきちっと改正させていく、あるいは2200億円の削減を撤回させる、そういう運動に繋がっていけばと思っております。
こういうキャラバンを通じて、全国各地でわれわれは反貧困ネットワークを作っていきたいと思っております。現在ある反貧困ネットワークは、東京中心のネットワークになっております。同じような貧困とか格差で苦しんでいる人は、全国各地に存在しますので、そういうところでネットワークを作っていかれればと思っております。こういう活動についても、是非ご協力をお願いしたいと思っております。
埼玉で行われた集会で、現在中央労福協の会長をやっておられる笹森会長に講演してもらいました。この方は連合の元会長なんですけれど、講演で話された中で非常に印象に残っているのが「同質の集まりは足し算、和にしかならないけれど、異質の集まりは積になる、掛け算になる」ということです。
これはわたし自身、短い期間ですけれど反貧困ネットワークの活動をやってきて、すごく実感しているところです。埼玉の集会では、弁護埼玉と埼労連の方も一緒に参加していただいています。われわれもいろいろな団体に参加していますので、わたし自身も初めてああいうような人ばかりなのですけれど、こういう異質の集団が積になる、掛け算になるんだということは、すごく重要な視点ではないかと思っております。
話は変わりますけれど、日弁連というわたしが所属する団体は、今年の10月にワーキングプア問題を人権大会で取り組むことになっております。この関係で、海外調査を行いまして、わたしはアメリカ・ロサンゼルスとドイツに調査に行きました。このときは、全労連の国際局長のフセさんも一緒に行ってもらいまして大変お世話になりましたけれど。
アメリカはご承知のように、貧困大国なんですね。ロサンゼルスで1000万人ぐらいの人口の中で7万人のホームレスがいます。全米では、150万人から300万人ぐらいホームレスがいるのではないかと言われています。だから、いろいろアメリカの方に聞くと「アメリカに学ぶものは何もない。日本はアメリカの真似をしてもらっては困る」と言われたのですけれど、唯一わたしは、アメリカの労働運動はすごく元気になってきているという印象を受けました。
特にロサンゼルスでは、ラティーノ、日本ではヒスパニックと言われますけれど、移民労働者の運動がすごく活性化しています。彼らは多くが低賃金労働者です。ホテルの従業員とか清掃労働者として働いていますけれど、そういうところで労働組合が次から次へとできています。その労働運動のスタイルで非常に印象に残ったのが、これはみなさん方の大先輩でご存知かと思いますが「ビジネス・ユニオニズムからソーシャル・ユニオニズムへ」と運動の転換が行われている。ビジネス・ユニオニズムというのは、企業内の労働条件の改善闘争ですが、そういうところにおさまるのではなくて、一般の市民運動、NPO、地域の運動、こういうところと連携・連帯すると。やはり市民の共感を得られる労働運動をやらなければいけないという、ソーシャル・ユニオニズムの、こういうことがすごく印象に残っています。
これも異質の集まりが積になるということに繋がるのではないかと思いますし、さきほど坂内議長の挨拶で「小異を残して大同につく」ということも言われましたけれど、こういうことがこれから重要ではないかと思います。やはり貧困をなくして人間らしい生活をしていくためには、そういう社会をつくるためには、いろいろな団体が立場を超えて連携・連帯という面では、わたし自身は、これから労働運動とか消費者運動、社会保障運動、さきほど挨拶された農民の運動、漁民の運動、こういう運動がその枠を乗り越えた連携・連帯が重要になってくるのではないかと思います。
その中で、是非、全労連のみなさん方には、中核的な役割を果たしていただきたいと思っております。全労連のこれからの発展、それから今大会の成功を祈念して挨拶にしたいと思います。どうもありがとうございました(拍手)。
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